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英会話学校で

北原みのり2009.05.14

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英会話を習いに行って「白人」の先生と話していると、ときどき、アレ、と思うことがある。たとえば先日。「悪癖」をテーマに会話をしたのだけれど。
「イライラする他人の悪癖、ありますか?」
と先生に聞かれ、
「そうですね。電車の中で聞こえてしまう、オヤジの痰がこみ上げてくるような音。あれは、いやですね」
と答えた。すると先生が驚いたようにこう言うのである。
「そういうことを言う日本人に、初めて会いました」
 
意味がわからない。彼女はオーストラリア人、日本に来てもう5年になる。
「どういう意味ですか?」
身を乗り出して聞く私を、英語が聞き取れなかったと思ったのだろう。、
「日本に来て、初めて、あなたのようなことを言う日本人に会いました」
と先生は繰り返した。
 
面倒くさいな、と思いながら質問を変える。
「あの音、イヤじゃないんですか?」
すると彼女ははぁ? って顔をして大げさな感じでこうキッパリと言うのである。
「イヤに決まってるじゃない!? ただ、ああいう咳をするのは、日本人の習慣だと思っていました。ほかの国の習慣を私は批判したくないのです。私の文化圏でああいう声を出す習慣はありません」
 
言われてみれば、ああいう声を出すオジサンは東アジアの国にしか・・・いないような気がしてきた。日本韓国中国のオジサン、カーッペッ、あちこちに唾吐くしな。生理現象も文化。しかし・・・文化でしょうか、これ。先生が気を遣っているのはとてもよくわかるが居心地悪いよ。
 
しばらくして話題が変わり、海外に行ったときに味わうイヤな思い(ネガティブなテーマばかりを選ぶ先生である)、という話になり、私が
「ヨーロッパではニーハオって声をかけられることがよくあります」
と話はじめると先生が、えーっ、という顔をして、
「ぜんぜん! そんなのおかしい!! だって、あなた全然中国人っぽくないじゃない!?」
と声を大きくして言うのである。どこか励ます風に聞こえたのは、たぶん勘違いではない。
えーと。話したいのは、中国人に間違えられてイヤだという話ではなく、ニーハオ、という声をかけられるときの調子が、決してフレンドリーではなく、どこか「見下し感」が含まれていて、それがイヤなんですよねぇー、というようなことを言いたかったんです・・・というようなことを言おうとしてやめた。ますます話がこんがらがりそう。
差別を憎む謙虚な白人との会話って疲れる。一方的に被差別者にされてしまうことの居心地の悪さ。あなたと私の間で「そういう関係」はないと思っていたんですけれど・・・と脳天気な自分を思いながら、もしかしたら私も同じようなことを誰かにしてしまっているのだろうかと考える。アジア人ってなんだろう。私はなんでアジア人に生まれたんだろう。白人って、どういう気持ちで生きているんだろう。
 
昨日の英会話の先生は40歳の男だった。彼は、ミス・カリフォルニアの話をしたがった。同性愛結婚について否定的な発言をしたと問題になったミスカリフォルニア。"ミス”を剥奪すべき! というバッシングが一時期高まった。そのことをどう思うか、というような話題で。私は言う。
「公に同性婚差別発言するのは違和感をもちます」
すると先生は、差別じゃないよっ! と反論する。
「差別じゃない。意見を言っただけ。オバマも同性婚には反対しているのに誰もバッシングしない。彼女はオバマと同じことを言っているのにあそこまで叩かれる。これは、女性差別じゃないか?」
 
ちなみにオバマ大統領は、法的に同性パートナーシップが守られることに賛成しているが、宗教イベントとしての結婚を同性愛者には認めない、という立場。ミス・カリフォルニアは、「同性愛者が結婚を選べる社会はすばらしい。が、結婚は男女間でするものだ」と言った。そのために彼女は、昔のヌードの仕事まで"暴露”されたりなどして、ミスとしてふさわしくない、というようなバッシングにあったのである。(結果的にミスという冠は略奪されなかったが)
 
「あれは、間違いなく、女性差別。そう思わない? 僕は今でもオバマみたいな能なしの男じゃなくて、ヒラリーこそが大統領にふさわしい人物だったと思う。女性差別は根が深いね」
 
難しすぎ。40代白人男性の顔をみる。誰でも誰かの痛みの代表になることもできるし、想像力は無限に広げられる。同性愛者差別と女性差別と人種差別と色んな差別の板挟みに勝手になっているような気がしながら、もっと英語がうまくならんもんかなーと英会話学校にはまじめに通おうと思う。
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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