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2人暮らし

北原みのり2010.04.25

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一人暮らしをはじめて約半年。おだやかな日々である。おだやか過ぎて、孤独である。ときどきこうやって死んでいくんだ、と泣きたくなる。大げさだ、どうかしてる、と思うけれど、おだやかで退屈でさみしいのは事実である。モッコちゃと一緒に暮らしている時、最後の方は本当に喧嘩ばかりしてた。なんであんなに喧嘩してたんだろう。だいたい喧嘩は、「言った」「言わない」ということから始まる。
 
 
例えば、ソファを買ったときのこと。
私たちの家にはソファが2年間、なかった。ソファ代わりに私が前の家から持ってきた木のベンチがあって、そこにクッションをゴロゴロのっけていて、それで十分だった。でもモッコちゃんが「十分じゃない。ふわふわのクッションのソファが欲しい。ソファがなければ、生きていけない」と言い続けるので、「わかった・・・」と、私は大切にしていた木のベンチをなくなく実家の自分の部屋に送り、モッコちゃんと2人で輸入家具がリーズナブルな価格で買えるという大型ショップにソファを買いに行ったのだ。
 
 
ソファ選びは2時間くらい、かかった。モッコちゃんが選ぶソファは大きすぎる、というかベッドじゃんそれ! というほどのアメリカンサイズばかり。「そんな大きいの邪魔だよ」メジャーを持ちながら私はブーブー言い、あれだこれだと話し合った。ソファの素材だけはすぐに一致した。猫が爪研ぎして破けちゃうような布カバーではなく、堅めの皮にしよう、焦げ茶の渋い感じがいいねって。で、結局、皮で、コンパクトだけど寝られる「理想」のソファを私たちは見つけたのだ。20万円もしたが、2人で見つけた一生もんのソファだ。現金がなかったのでカードで私が払った。ああこれでモッコちゃん! ゴロゴロやっていけるよね! ソファに合わせてテーブルの位置やテレビの位置、2人で一緒に模様替えをした。部屋の雰囲気がガラリと変わって、ちょっと楽しかった。
 
 
しかし、である。一月くらいしてから、そういえばソファー代、まだもらっていないね、と言ったことから、ソファ問題が勃発したのである。それはもう、私からしたら驚愕な事実であった。以下はモッコちゃんの言い分をまとめたものである。
 
 
まずソファを欲しいと言ったのは、私(私のこと)が自分のオシャレ家具にこだわり、まったくリラックスできない木のベンチをモッコちゃんに強いた結果、モッコちゃんは腰を悪くしたからである。しかし私(私のことね)は自分の家具にこだわり、なかなかモッコちゃんの言い分を聞かず、聞かないどころか腰を痛がるモッコちゃんをせせら笑った。そんな鬼のような心をもつ私が、急に「わかったよっ!」と家にアジアン家具を送り返し、モッコちゃんがお金がない時期だったにも関わらず「行くからね」と強引に家具屋に連れていった。さらに、家具屋でモッコちゃんが気に入るソファにはことごとくダメだしをし、結局私(私のこと)が一人で選んだ。皮がいいだなんて一言も言っていない。布で十分だと思っていたのに、皮がいいいいと言い張る(私が)ので、皮に同意せざるを得なかった。さらに、モッコちゃんは、もっと安く買いたかったのに、これ以上何か言って怒られるのはいやだから、このソファで妥協した。座り心地もさしてよくないし、小さいので寝られない。お金はもちろん払うが、まったくこのソファはいまいましい。
 
 
じょーだんじゃねーよーーーーーーーーーーーーーっ!!!!! ふざけんじゃねーよーーーーーーーーーーーーーーっ!!! てめー、その場で言えばいいことを、今更になって言うなよっ、っていうか、全く事実、私がみてるものと違うんだけど、いったいどこの星から帰ってきたんだよ。時空違うんじゃねーか!!! と言いたいのを半分くらいの言葉にして、言い返す。そして喧嘩になる。言った言わない言わない言った。いったい、なんで、こんなに言い分が違うのか。いったい、喧嘩とは何なのか。なんのための、喧嘩なのか。
 
 
「どちらも、お母さんを求めているのよ」
心の勉強をしている友人は、私たちのことをそう評した。そうなんだろうか。お母さんを求めているから、喧嘩になるんだろうか。自分の正しさを求めているからか。自分はこんなにも相手を思って行動しているんだ、ってことを言いたがるから、喧嘩になるんだろうか。2人で「生活する」ってことに、ただ疲れただけなんだろうか。
 
 
「喧嘩」のエネルギーに吸い取られる日々があまりにも続き、私は一人暮らしを始めた。が、この「一人暮らし」を始める経緯についても、あまりにも二人が「見ている」現実が違い、ここについても話は平行線のままである。ああ。いったい、こんな「喧嘩」が地球上にいくつ転がっているんだろう。まったく地球が丸いなんて、ウソみたいな話だと思う。私たちはちっとも丸い関係になれない。それが寂しくて、苦しくて、家を出て一人で暮らしているのに、一人になったからと言っても、関係が丸くなるわけじゃない。ただ一人、喧嘩がない状況に慣れていき、穏やかな日々は過ぎるが、今度は、穏やかすぎて退屈である。
 
 
 生活を誰かとするって、想像以上に、才能とか、素質とか、技術が必要なんじゃないか。私には本当にそういう才能がなさそうだ。でも、だからといって、一人暮らしが得意というわけでもなく、相変わらず、料理の量はよくわからんし、夜は電気を点けっぱなしにしていないと怖くて眠れない。猫がいなければ、とうていやっていけなさそうだ。
 
 
 先日、萬田潤子さんのワークショップをラブピースクラブでした。なぜ、外セックスがそんなに軽々とできるのか、というような質問に、萬田さんは、「日常に、満足しているから。仕事も家庭も、充実している。だから、欠けているものを埋めるようなセックスはしないすむ」と言い切っていて、私は感動した。私は、日常に満足し、充実する、という感覚を果たして味わったことがあるんだろうか。
 
 
 猫二匹と暮らしている今は平和である。でも、動物としか暮らせない、というのはなんだか寂しい気がする・・・と思う自分がいて、情けない。いったい二人で暮らしたいのか、一人で暮らしたいのか。どっちなのか。こんなにもまだ、自分の「ライフスタイル」が定まらない39歳の女って、いるんだろうか。というか、ライフスタイルとか日常生活って言葉が、未だに自分の人
生にしっくりきていないってことが、問題なのかもしれない。
 
 
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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