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専業主婦のリスク

北原みのり2010.03.10

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宮崎県で妻とその母、生後6ヶ月の息子を殺した22際の男性。この男が逮捕された時、
「妻と姑が働かず、経済的に追いつめられていた」
というようなことを言っていたらしい。
 
派遣社員で安定せず、不細工で女にもてないオレ。
秋葉原で大量殺人した男が捕まった時には、そんな風に社会への恨みを語ったが、結婚して子どもがいて定職がある男であっても、一人で家計を背負わなければいけないストレスで追いつめられている時代なのね。一人で家計を背負う立派なオレなんちゅー矜恃持つ男はメンドクセーと思っていたけど、「妻と姑が働かない」という不満をハッキリ表明する”事件”が実際に起きてみると、複雑な気持ちになる。ましてや、子どもが産まれてまだ6ヶ月でしょ。ママは本当に大変な時期じゃないの。
 
自衛隊に勤務する正義感の強いマジメな青年であったと言われている。一方、妻やその母は気性が激しく、時には男を罵倒することもあったと言われている。また、家計の一切はこの母娘が管理し、彼には自由になるお金がほとんどなかったのだとも。メディアの報道は少しこの男に同情的だ。この際「女と男が逆だったら」なんて考えるのは、意味ないとは思うけれど、夫とその父と自分の娘を殺した22歳の女がいたとしたら、例え彼女が激しいDVを受けていたとしても、「娘まで殺すか!?」ともっともっと激しい非難が飛び大きな社会問題化しそうですけどね。このニュースは、”地味”なのか、あまり大きく報道されていないことも含めて、気になる。
 
実はちょうど似たようなことが、私の周りでもあった。25歳の男性。彼は結婚して妻の実家で暮らしていたのだけれど、数ヶ月前、ある日を境にプツリと糸が切れてしまったという。家族と自分をつなぎとめていた糸。彼は仕事が終わった後、どうしても家に帰れず、そのまま「家出」してしまった。「我慢する」という感情をぜーんぶ空にするまで使い果たしてしまったのだ。
 
の言い分はこういう感じだ。
妻とその両親と、結婚と同時に暮らし始めたボク。義父はすでにリタイアして働いていない。義母はもともと専業主婦。妻は結婚(妊娠)と同時に退職した。子どもができたら母親に子どもを預けて働く、と言っていたが、結局妻は一度も働いていない。ボクは朝6時に家を出て夜11時、ひどいときは深夜過ぎて帰るような毎日だ。給与はそれなりにあるが、振り込まれる口座は全て妻が管理し、自分は一日1000円しかもらえない。お弁当をつくってもらえるわけでもないので、昼をカップラーメン、夜はコンビニ弁当、余ったお金でジュース、という生活を続けている。帰ってくれば家族全員もう寝てしまっている。また自分以外の家族全員で旅行に行ってしまうことも度々あった。最初のうちは我慢してた。でも、一年くらい前から、ずっと頭から離れなくなってしまった思いがある。”いったい、オレは、なんのために自分は働いているのか。”
 
はあまり口がたつ方ではない。ケンカもほとんどせず、ずっと我慢してきたのだという。そしてある日、切れた。何も言わずに、家に帰らない人、になってしまったのである。妻としてみれば、「昨日まで帰ってきたのに、なんで? 何が起きたの?」って感じだろう。子どもじゃないんだから、話し合えばいいじゃん! そこまで我慢する前に、少しは話ができなかったの? ついつい責める調子で聞いてしまうのだが、彼はただうなだれてこう言う。
「話すと、必ずケンカになるから。ケンカになったら、もう、手が着けられなくなっちゃうから」
隣で彼の母親は激怒している。
「たった1000円で仕事に出すなんて、どうかしている!! 働けばいいじゃないか、自分も!!」
 
さぁ、これから25歳のは自分がやったことの”ケツ”をぬぐっていかねばいけない。慰謝料や養育費などについて”争う”姿勢満々の妻家族とのやりとりをし、子どもとどう関わっていくのか、今後どのように自分の人生をたてなおしていくのか。大変だね。妻と話し合えなかったばかりに、そして「家族」というものを甘くみていたばかりに(他人の家にとけ込む、なんて並大抵のことじゃないですよね。昔の女は本当に凄かった・・・と思うわ)、ま
た”男”と”女”の役割分担を曖昧に信じていただけに。これは妻の方も同じだろう。「専業主婦」でいること、「夫」が稼ぐのが当たり前だと信じ、「妻」の役割を安心してできると根拠なく信じていたのだから。若い夫婦のツケは大きいね。
 
「妻が働かない」ことに不満を募らせる夫。
この不況下、どんどん増えていくように思う。ギリギリまで働き続け、「家族」を支えることの意味がわからなくなった時、夫は逃げるのか、殺すのか。
専業主婦はリスキーな選択だ。なぜなら離婚した時、夫が早く亡くなった時に、生活の保障がないから・・・と言われていたが、ハッキリいって、離婚しなくても、結婚生活を維持するためとしても、超リスキーな選択になりつつあるということ。恨まれて、憎まれて、暴力の対象になったり、突然蒸発されたりしてしまう可能性が十分にある。今の時代、女が生きにくければ、男も生きにくい。
やっぱ、経済が上向きにならないことにゃ・・・なのか。心から安心してノンリスクな専業主婦になれることが「セレブ」な証になっていくのって、なんだかすごくヘンだわ、と思うけれど、そういう状況なんだよね。きっと、今。
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北原みのり

北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めてフェミニストが経営する女性向けのプレジャートイショップ「ラブピースクラブ」を始める。2021年シスターフッド出版社アジュマブックス設立。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)・佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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