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女性専用車両 

田房永子2011.03.03

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 中高生の頃、電車に3度乗れば1度は痴漢に遭った。AVとかドラマに出てくる電車内痴漢は、無表情で男がお尻を撫でているが、実際の電車内痴漢は既にビンビンのギンギンになってて目がギラギラしてて、ハアハアフウフウ、つまり本格的な発情状態になっている。そして周りに気付かれないようにそーっとスカートを撫でたり、硬くなった股間を太ももにこすりつけてきたり、実に様々ないろんなバリエーションで接触してくる。
 例えたい。『最近仲良くなったエッチな体のAちゃんとイチャイチャ。もうギンギンになって、ラブホテルに入って我慢できなくて玄関で立ったままペッティング、早く挿れたい!』っていう状況の時、正常な男性であれば頭に血が上って大興奮状態になる。しかし、電車で隣に立っている男が一人でその大興奮状態になっていて、自分をAちゃんと錯覚し当たり前のように自分の体を触ってくる、という状況は異常である。それが電車内痴漢である。
被害者は声を上げたり、警察に突き出せばいい、という意見をよく聞く。実際は「この人痴漢です!」と言ったところでどうせその男は知らん顔するから、車内はシ~ンとなるだけで、ガタンプシューって駅に着いて、痴漢がそそくさと降りていく、というのが現実だ。感触だけがあって、誰に触られているか分からない時もある。そんな時、人ごみに向かって「やめてください!」なんて、なかなか言えるものじゃない。
 痴漢の手をつかんで怒った勇敢な友達もいたけど、自分の尻を撫でているその知らない手を掴むなんて私にはできなかった。逆ギレされて殴られるかも、勘違いされて行為がエスカレートするかも、迷っているうちに次の駅に着いて別の車両に移動する。そしてなかったことになってしまう。ハァハァ言ってる大人の男を駅長につまみ出すなんて、まず考えられない。学校に行かなきゃいけないし、だから痴漢に遭っても結局は「やめてください」と震えながら言うか、黙って避けるくらいしか策がない。
 学校(東京都下の女子校)には、痴漢はあって当然という空気が覆っていた。先生は「私も高校生の頃、毎朝電車で同じ人にお尻を触られてて、友達と一緒に痴漢のスーツにペンキを塗って退治したの」と、まるで映画の中のワンパクな女の子二人組みたいな楽しげなノリでエピソードを話し、自発的対処を促していた。生徒もそれに従った。
 中学の3年間にかけてクラス内の痴漢被害人口や被害頻度は徐々に増えていき、そして自分もその仲間になり、同士達と対処法について話し合い、朝は「痴漢に遭っちゃって、超ブルー」と報告する。痴漢被害はまるで「月経」と同じ扱いだった。遭ったことがない子は周りから驚かれ、「私って魅力ないのかな…」と落ち込んだりするくらい、痴漢被害が日常になり麻痺していた。「それっておかしくない?」と思いつつ、みんなで議論しつつ、結局は「痴漢マジいなくなればいいのに」と愚痴るしかなかった。
 電車内痴漢は1対1だけではなく、申し合わせて痴漢が団体で乗っている場合もある。団体に囲まれパンツの中まで手を入れられた、という友人の話は深刻で、3人で蒼白の顔を向き合わせ、自分達ではどうにもならない忘れるしかない話として聞いた。私も一度、中央線の三鷹駅から満員電車に乗ったら、人の流れで中央のほうへ誘導され、自分の下腹部にスーッと5~6本の手が伸びてきたことがあった。まだ停まっていたので「降ります!」と言うと、出口近くのジジイが半笑いで「降りるってよ~」と他の人に声をかけていた。無我夢中で降り、恐ろしくて立っていられず、ホームのベンチにしばらく座った。
 高校を卒業すると、街でも道でも電車でも本屋でも制服を着ていない時でも至る所で遭っていた痴漢被害が、徐々になくなり、23歳頃からパッタリ遭わなくなった。未だに電車内痴漢はあるって知ってるのに、遭わなくなったというだけで世の中から痴漢がいなくなったような気がしていた。そんな自分を不思議に思った。
 私は女はみんな痴漢と闘う学生時代を過ごしていると思っていた。しかし最近になって「電車内痴漢って都会だけの話で正直ピンとこない」と言う女性が多いことを知った。地域と年齢が限定された被害者がベルトコンベアー式に入れ替わっている。
 「痴漢からは自分で身を守れ」と女の子は教育され、男たちは冤罪を恐れ、警察や鉄道会社は女性専用車両に女を避難させ、痴漢Gメンでしらみつぶしに退治しようとする。痴漢男をまるで「湧いて出る害虫」のように扱う。その中で女の子たちも大人になるための通過儀礼の如くの意識を持たされ触られる数年を過ごし忘れていく。
 社会全体が力を合わせて痴漢の存在を守り、大切に大切に、次の世代へ受け継いでいっている。なくなるはずがない。

  駅のポスターには「痴漢は犯罪です。被害に遭われた方は駅にご相談下さい」と書いてある。もはや誰かに相談するべきは、大興奮状態で電車に乗ることができてしまう、自分をコントロールできない痴漢男のほうじゃないのだろうか。
  昔は酒を飲んで車を運転するって、アリなことだった。「飲酒者に車を運転させない」を徹底してるからなくなってきてるし、煙草も単純に吸う場所を少なくして、嫌煙者が煙を吸う機会が激減した。それを考えたら、電車内痴漢だって「発情した男に女の体を触らせない」を徹底すればいいだけなのに、何がそんなに難しいのだろう? と思う。
 ホームに簡易トイレみたいな『発情BOX』を設置する。女の子を触らないで済むのなら、その中でどうぞ一発射精してきてください。そんなものが駅にあったらおかしいし、現実的な話じゃない。だけど電車の中で子どもや女がワケのわからない男の発情を一人で受け止めている、そんな今の環境のほうが、よっぽどおかしい。『発情BOX』という形で、みんなで痴漢男の性欲を認めたほうが、まだマシだ。
「女性専用車両」
女向け商品度★★★★★
根本的になんかおかしい度★★★★★
「痴漢に注意!」だけじゃなくて「ちょっと待て、発情を抑えて一旦落ち着こう」的な看板も立てるべき度★★★★★

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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