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ギバちゃんと東京

田房永子2011.03.17

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  アーケードのない商店街(東京・杉並区)を歩いていると、向かいの店から声を上げながら店員が出てきた。「食い逃げ?」と思っていると、景色がガクガクと揺れ出した。
11日の夜、何も食べる気にならなくて、コタツに入って一睡もせずにテレビの恐ろしい映像を延々と見ていた。次の日、コンビニのサンドイッチを食べたけど味がしなかった。
生きたい、死にたくない、と思ってるからテレビを見続けて余震にビクビクしてるのに、このままじゃ体と頭が壊れる、そしたら地震が来ても逃げられないからなんの意味もないと思った。ラブピースクラブのコラムLPCウィークリーの「村木厚子さんと東電OL」(http://www.lovepiececlub.com/kitahara/2010/10/ol.html)を2度読んだ。
「男(自然)の土俵にいる限り、女(人間)が勝つことなんてありえない。だとすると、やらなきゃいけないのは負けてしまわないこと」
「風邪をひかない」「絶望しない」っていう二つだけをとにかく守ろう、って思った。
  14日の午前中、家にいようと言う夫を無理に連れ出してスーパーに買出しに行った。
買わなければいけないものは特にない。だけど長蛇の列に、私も並びたかった。前の人のカゴを見るとプリン4個とヨーグルト3個が入ってる。みんなもきっと買うものなんかなくて、こうやって並ぶことで気を落ち着かせて買出しセラピーをしてる。私達も30分並んでようやく魚肉ソーセージを買えた。
 袋を持って歩く夫の後ろ姿を見ながら、戦時中みたいだと思った。実際に今、東日本大震災の真っ只中にいる。 ついこのあいだ、祖母から戦争の話を聞いた。「死体の上を走って逃げたよ」。ありえないと思ったけど、今は祖母が羨ましい。私も早くおばあちゃんになって「東日本大震災を生き延びた者」として、もったいぶってこの体験を子供達に語
りたい。
 そういう希望と、不安がゴチャゴチャになって、帰宅してから意味もなく「アーー!」と2回叫んだ。叫んだんじゃなくて、自分の口から音が出たって感じだった。自分が狂っていくのかなって思って、いままでと違うタイプの恐ろしさを感じた。テレビやネットのニュースを見るのをやめた。情報は、自分の体が感じる「揺れ」だけだ。
 私はmixiで、柳葉敏郎のファンコミュニティの管理人やっている。14日の夜、知らない人から「初めまして☆ 突然すいません 柳葉敏郎さん主演のドラマ ホットドッグとテキ屋の信ちゃんのビデオ持ってらっしゃいませんか?」というメッセージが来て、驚いた。 地震を食い逃げと勘違いした日から3日後の今、隣の家の洗濯機の音を地震だと勘違いして避難袋を抱えてる。東京の人たちはみんなそんな状態なのに…同じ日本にいてギバちゃんの昔のビデオの有無をいま尋ねるってどういうことなんだよ、と思った。
 その人のページを見ると在住地が滋賀県だった。震源地から離れるほど、非常事態感も比例しているんだな。ギバちゃんの昔のビデオを今見たいと思っている人が同じ日本にいる。それがすごく救いになってるような気がした。
 今、精神状態ギリギリな東京近郊は、被災地と、ギバちゃんを欲する余裕のある日常を送る滋賀方面のド真ん中にある。それが全部で日本なんだ、と思った。ド真ん中の苦しみも、あって、その自分の立場相応の苦しみを受け入れれば、気が狂わないでやっていけると思う。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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