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日本刀な職場

田房永子2011.08.15

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  22~25歳まで、とあるエリート官公庁でアルバイトしていた。総務省とか財務省とかとは違い、ゆるい雰囲気が充満している庁だった。職員(エリート公務 員:ほぼ98%男性)が30人位いる各部屋につき、アルバイトが3人ずつと派遣社員が1人、そして天下りと言われるおじいちゃんが1人ずつ、いた。バイト は事務と全員のマグカップを洗ったり、ゴミを収集したりする。バイトは必ず女性と決まっていて、よほどの人不足でないと男性は雇われない。「それは何故 か?」と職員にしてみると、「まあ、その…アルバイトは職員のお嫁さん候補だから女の人じゃないとね」と予想通りの不気味な答えが返ってきた。
  入ったばかりの時、もう一人のバイトの女の子と私は、大人しい独身職員からランチに誘われた。その職員は私達に「料理はしますか?」とか「掃除は得意です か?」と順繰りに聞いてきて、一方的にお見合いランチを決行された。その事を他の職員に口外したら、そのお見合い職員は私達を“お嫁さん候補”から外した のか、その後3年間一切口を聞いてくれなかった(特に何の支障もなかったが)。
 私は職員の中に「いいな」と思う人が1ミリも全く見当たらなかっ た。こんなに男が大勢いるのに心ときめく人が一人もいないというのはどういうことなんだろう、と思うほどだった。だが、他の部屋のバイトたちは「お嫁さん 候補としての身分」を全うしていて、クッキーやらを焼いてお目当ての職員に渡したり、給湯室で恋の相談をしてる人もいたし、職員と結婚した人もいた。中で も衝撃だったのは、「女」を追行しているタイプの人達だった。バレンタイン(女は一人200円しか出さない)のお返しに職員が「何がいい?」と聞いてくる のだが、女追行タイプのバイトは、そこですかさず高額な品物を真顔で要求したり、職員にランチを奢ってもらっても何も言わないのだった。そういう時、私が ボンヤリしていると「ちゃんと言わないと損だよ!」とか「わざわざごちそうさまとか言わなくていいんだよ!」と注意された。男に対して遠慮したりへりくだ るのは、彼女達にとっては自分の格を下げる、みたいな事になるらしい。全く共感できなかった。その代わり、彼女達「女追行タイプ」は立ち飲みをしなかっ た。私が昼休みにスターバックスのドリンクのストローを歩きながら吸っていたら、遠くから走ってきて「ちょっと! こんな所で飲んじゃダメ!」と注意され た。飲食禁止の場所でもないので意味が分からなかった(私が豚みたいな顔でストロー吸っていたのかもしれないけど)。彼女達なりの何か「おしとやか女ルー ル」があるのかな? 超めんどくせーなと思った。
 そして職員の中に一人、すごく熱いタイプの男がいた。体は小さく筋肉質で色が黒く、ハ ツラツとしていて体育教師みたいな独身男(当時35歳位)である。理系でおっとりした男性ばかりの中、この体育男は爽やかさをやたらアピールしていて「一 回り年下の女子バイトともフランクに話せる俺」風情を、頼んでないのに全面に押し出していた。例の一方的なお見合いを決行してきた職員と比べたら、害はな い。しかしそのうち、体育男は不必要な会話を求めてきたり、だんだんと絡みが粘っこくなってきて、「アレ?」と思い始めた頃だった。席替えがあり、体育男 が使っていた机を私が使うことになった。体育男は一つ横にズレて、私の隣になった。そして机と一緒に体育男が使っていたパソコンを私が使用することになっ た。仕事中でもインターネットは見放題で、バイトの子とヤフーオークションを見るのが流行っていた。その体育男が使っていたパソコンでヤフーオークション を見ると、ログインしっぱなしになっており、そのIDは体育男と同じ名前だった。評価欄でそれまでの彼の100件近くのやり取りが見れたのだが、その商品 の全てがアダルトビデオだった。見た時、息が止まった。息が止まりながらも確認すると、体育男は出品もしていた(出品も全部AV)。90年代に人気だった 単体美人女優の作品が多く、系統は陵辱モノが多めであることも確認した。その時から体育男への嫌悪感はMAXに達した。私の嫌悪を知ってか知らずか、体育 男は私が自分の席に座るだけで、私の体をくまなくジロリ、ジロリ、と見るようになった。椅子をちょっと引いて視界に私の全身をおさめてから見る、という見 方だった。本人は無自覚でやっている、と感じた。そう思うのは体育男に嫌悪感があるからというより、彼の性格を知っているからであって、つまり「イヤらし い目で女を見るなんてダサイこと、自分はしませんよアピール」を日頃必死でしている人だから、無自覚であろう、と感じたのである。僕はセクハラなんか絶対 しない、と思ってる人のほうがセクハラで訴えられる、そんなカラクリ時計が、この世には存在いたします。
 本人に自覚があろうがなかろうか、毎日 何回も体をジロジロ見られて私は我慢できなくなった。バイトの女の子と人事課へセクハラ相談に行くことにした。官公庁だからか、セクハラ対策が万全で しょっちゅうチラシが届いていたのであった。確か、名前は言わずに相談した気がする。その後、人事課から話が届いたのかどうなのかわからないが、体育男は バイトの女の子一人を別室に呼び出し、怒鳴り声を上げて「お前達バイトは仕事をしていればいいんだ」という意味不明な主張をしてきたという。恫喝だったの だろうか、それから本当にイヤになって、まるっきり無視するようになると、体育男の絡みつきもなくなったのだった。
 体育男の裏趣味はAV収集の ようだったが、表向きの趣味は日本刀収集だった。めちゃめちゃアブなくて、持っただけで相手を威嚇でき、普段は押入れの中に鎮座していてここぞというとき にどうだ、と見せるという風に使われる日本刀。まるで日本刀は、気の弱い男が振りかざすチンコのようだ。体育男のおかげで、日本刀を収集している人は日本 刀みたいな男根を所持したいという願望があり、日本刀そのものが男根悪の象徴である、と思うようになってしまった。
日本刀な職場
女向け商品度★★★☆☆(仕事能力は求められていない。「女」でいることが好まれるので一部の女性には需要が高い)
下ネタ一切ダメ度★★★★★
ド級の女追行タイプの人は、この体育男を「お婿さん候補」の一人にしていて手作りマドレーヌなどを差し入れしていた度★★★★★

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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