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DV男の行方

田房永子2011.09.06

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2002年(私は23歳位)頃、東京の阿佐ヶ谷に住んでいる同棲カップルの個人サイトを見つけた。当時、カップルの彼女のほうは28歳位、彼氏は35歳位。あまり可愛いとは言えない容姿で貧相系な彼女が、80年代アイドルみたいな水着を着てポーズをとっている写真が大量に載っていた。とてつもなく散らかった部屋で彼氏が撮影した写真なので、オシャレさは皆無、異様な雰囲気のサイトだった。
 ほぼヒモ状態の彼氏はドキュメント映画監督を目指していた。その一環として2人のセックス映像を公開したり、彼女のヌード写真、生活感溢れる生々しい文章もさらけ出していた。彼氏は下着、特に女性の昭和っぽいパンツ姿やブルマ姿に固執しており、いわゆるフェチで、彼女にスキャンティを履かせた写真を多く掲載していた。私は間をあけながら、なにかの拍子で思い出しては彼らのサイトやブログを見ていた。
 2008年頃からブログ(交換日記っぽく2人が交互に書いている)の内容が激しくなった。もともとDV気味だった彼氏は、ちょっとしたアルバイトも続かず、この頃には完全にヒモになっていた。映画作品(2人の愛の生活の全てを撮ったドキュメンタリー)を完成させる夢も全く進むことがなく、会社へ行く彼女を駅まで送るだけの毎日を送りながら、暴君ぶりが酷くなっていった。帰りの遅い彼女に激怒し、罰として全裸でアパートの廊下に立たせて撮った写真をブログに掲載したり、殴って緑内障にさせたりする彼氏。決まってその翌日には「本当にごめんなさい、本当に愛してる」というメッセージを彼女へ贈るのだった。
 彼氏は唯一のライフワークとして、自宅で変態イベントを年一回開催していた。6人くらいお客さんを呼んで、自分の萌えるコスプレを彼女にさせ、実体で解説するというイベントを5年以上続けていた。お菓子やドリンク付きで参加費2000円、ウェイトレスも彼女で、更にパンティの中以外でソフトタッチなら彼女の体をオサワリOKという、杉並区男女平等センターに通報レベルの内容だった。
 イベントでは、彼女は人前で肌を露出する(させられる)ので、彼氏は「アセモや湿疹を絶対作るな」と命令する(自分の考える完璧なコスプレ体をイベントで実現したいから)。だが、彼女はフルタイム+残業で1日中働いている上にコンビニ弁当ばっか(彼氏も炊事するが豚肉鍋ばかりだった記憶)食っていたせいか、イベント1週間前なのにアセモが治らず、また彼氏がブチ切れて殴ったりするのだった。それにコスプレ服もすごくマニアック(ロシアの槍投げの選手とか)なので、彼女が全部手作りしなければならない。その材料費や生活費含め、彼女が内緒で100万程の借金をしていた事実が判明したり、そのことで彼氏が精神不安定になりまくって、キレて殴っては泣いて反省したりのDVが過激化していった。彼女の文面からも彼氏への愛の薄まりが見え出した頃だった。見ている人達の書き込みコメント欄も数年前は「彼女ぜんぜん可愛くねえ。水着とか着せるな!」とかだったのが、「彼女もう逃げて!」的なものに変わっていった。私も最初は彼女の事を“貧相で全然可愛くないな”と思ってたけど、何故かどんどん可愛く見えてきて、最終的に美人と思っていた。
 そして「いよいよ今日こそ2人は別れてブログ更新がなくなるか?!」みたいなスレスレの毎日が続き、多分見てる人達(100人位)はみんな「一刻も早く別れて彼女幸せになって!」という気持ちと「もう読めなくなる!」というジレンマで戦っていたと思う、そして2009年の年末頃、パッタリと更新がなくなった。
 私はそれから、ブックマークに入れたままのブログにたまにアクセスしたりしてたけど、2人がどうしているのかは分からなかった。
 そして先日なんとなく彼氏の名前を検索してみたら、ツイッターにいた。プロフィール欄には「身体は男だけど、心は女です」と書いてあり、アイコンは上半身はセーラー服、下半身はスキャンティ一枚でM字開脚し、切なげにこちらを見つめている男の写真。顔をよく見ると、あの彼氏だった。一人称が「アタシ」になっていて、口調も女になっている。あんなに暴君な、男の中の男って感じの人だったのに、どうした?? ってすごくびっくりしたけど、あの彼女にさせていたのと全く同じ服装とポーズをしているのを見て、「そうか、自分が女の子になりたい人だったのか」と10年近く見てきた(絶対に関わりたくない)男の真相が解けた。
 ツイッターやブログは彼氏一人でやっていた。もうあの彼女とはスッパリ別れたようだ。ブログを読むと、「アタシの中にはS男とM女がいるんです」と書いてある。「S男」は女にDVする本来の自分で、「M女」は理想の女(憧れ・なりたい自分)だと言う。「本来の自分(S男)は社会性がなく働けないので、M女の自分に働いて養ってもらっている」、そして「『セックスしよう』と女装男好きなゲイから声がかかっても、自分の中の2人が愛し合ってるので他の人とする必要がない」、「S男のエロ要求にM女の自分が応えてくれるので幸せ」と書いていた。なんという自己完結劇。合理的すぎるオチにかなり感動した。実際に彼女と同棲していた頃には考えられないほど、彼氏は現在毎日ちゃんと働いている。彼女に振られたショックで自分の中にあの従順な彼女の人格を作り出したのか、もともと混在していた人格がハッキリ表面化したのか…。どちらにしても、「よかった、よかった」と思う。
 彼氏は今44歳。これからできれば性転換して可愛いオバサンになって風俗で働きたいらしい。彼女と付き合ってた時よりも、明らかに顔から毒素が抜けて可愛くなってたから結構イケると思う。ただ、セックス映像で見た勃起した彼氏のチンコがかなりの巨根だったことが思い出され、また彼の前に女の人が現れたりもするのかもなあ、とも思う…。
「DV男の女性化」
みんななっちゃえばいいのに…度★★★★★

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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