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妊婦の私の性欲

田房永子2011.10.13

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妊娠が判明してすぐ、悪阻が始まった。3年前にも妊娠したが、悪阻がないまま流産したので、悪阻がこんなにつらいとは知らなかった。
 24時間常に胸がムカムカして何も食べられない、人の口の匂いがつらくて息を止めたり、外出しても動悸がすごくて10メートルごとに座り込んでしまう。家でくつろぎたくても隣の住人の蚊取り線香のにおいがくさくて、心休まる時がない。自分の体に振り回され、泣きたいけど涙を流す気力もない。寝たまま壁を指で引っかき続け、「いやだったら堕ろせるんだよなァ…、選べるってスゴイなァ、選べるって素晴らしいなァ」と何度か思った。
 「カワイイ赤ちゃんに会える☆と思えば何でも乗り越えられる」というイメージがあった。だけど半月で6キロ減って、足の筋力が一気に落ちて細くなっている時、「これが終わればあなたのカワイイ赤ちゃんに会えます」と言われても「そうですか…いいですね…でも、会ったことがないのでよく分かりません…」という感じしかしなかった。
 この時点で、私を「がんばろう!」と思わせてくれた唯一のことは、昔エロ漫画で読んだ、【夫】「あれ、なんか締まりがよくなってるぞ!ウッ!」【妻】「お医者さんが多めに縫ってくれたのかしらぁ~!アッ、気持ちイイ!」という、出産後にセックスしてる夫婦の会陰切開ギャグだった。
 「出産後は膣の感度が上がる」という、以前の私だったら、そのおぞましさにツバを吐きたくなるような都市伝説のようなもの。それを思うだけで、濃霧の向こうから光が射す景色が胸の中に見えた。「頑張れる」と思えた。

 悪阻がおさまり始めると、今度はすごくムラムラするようになった。ちょっとしたエロい表現(キスとか)や、CMで北川景子の太ももを見て陰核が反応する。
 そして体には夢ーガズム(ムーガズム:夢精の女版)が頻繁に起こるようになった。エロい夢を見て、イク!と思って起きると実際に体がイッてる、っていうアレです。ある時は、家で仕事をしていたら急に眠くなってソファに倒れこんで寝ると、自分がオナニーしてる夢が始まり、イクと同時に目覚める、時間にして計20分、という無駄のなすぎる夢ーガズムが起きた。
 妊婦向け雑誌には「セックスはしていいけど、オーガズムはNG! 子宮を収縮させ、赤ちゃんがいる部屋を狭くし、赤ちゃんを苦しめます」って書いてある。オナニーもオーガズムを感じなければやっていい、と意味不明な事が書いてある。
 だけど、体が我慢できなすぎて勝手に夢ーガズムを起こすくらいなら、自分でヤッても問題ないなと思ってすることにした。というかそんなこと思う前にもうヤッていた。個人差があるのか分からないけど、私は妊娠してから乳首の感度が普段の1000倍くらいになっていて、ちょっと触れると火がつき、猛烈に気持ちよくって一人でワーワー言ってしまう。一人でする時に声を出すってなかったのに、「YES!」な感じの明るい発声が口から出てしまう。しかも乳首を軽く触ってるあいだにオーガズムである。乳首だけで楽しい毎日を過ごした。
 そんなある日、海外の妊婦向けサイトで「妊娠安定期のセックスはとても気持ちがいいから積極的にするべし。オーガズムも今までと比べ物にならないと言う人が多い」という記述を見た。安定期になるのが楽しみすぎる。やりまくるぜ!
 そして安定期に入り、おなかが出てきて、赤ちゃんもグルグル動くようになった。出産した友人から聞いていた、「妊娠中の裸は、旦那がビックリしちゃうと思ったから見せなかった」という話。私も引かれたくないから妊娠中の裸は見られたくないなーと思っていたけど、実際、そこには私にとって新しい世界があった。

 私は相手が誰であれ、自分の脂肪がついてブヨブヨした腹を、セックスの時はそれとなく隠していた。だけど今は「妊娠中ですから」という言い訳が自分にできて、夫に向かって腹をさらけ出せるのだった。実際はまだ、以前の腹と対して変わっていないくらいしか出てないのに。
 私は自分の変化に驚いた。今まで15年以上、セックスの時に「恥ずかしいから裸を見られないようにする」というのは、自分の体が、男達が見慣れているだろう「グラビアアイドル」や「AV女優」の体とは違い、スタイルが悪くてへんてこりんなものだから、という理由だった。自分が先に他のキレイな女の子達と自分を比べ、「劣っている」という判決を下して「見せない」ようにしていたのである。
 だけど、「妊娠中の妻とセックスする」という、夫も初体験の出来事には「比較対象」がないから、私は堂々と自分の体をバーンと出すことができた。こんな風にセックスに取り組んだのは初めてだと思う。気負いなく裸を開放した時、それだけですごく気持ちよくてびっくりした。その上、乳首も感度1000倍、気持ちよすぎて「なんだこれぇええ~~!!!キャー!うわああ~!!!!ああああ~~!!!」と自分が聞いたことのない野獣クラスの喘ぎがウホッホ、ウホッホ、あふれ出す。夫はビックリしてたかもしれないけど、自分の気持ちよさ楽しさがすごくて、相手を気遣う余裕がない。挿入もしないし、オーガズムもないけど、なんだかとてつもなくセックスが楽しかった。
 今までの自分のセックス観が、とても窮屈なものだったことを知った。私にとってセックスは、目に見えない決まりで縛られ、しなくていい自制をしつつ、「自分だけイケないのは損」と相手のテクニックを判定しながらする行為だった。自分は男と下ネタも話せるし、開放できていると思っていたけど、全然できていなかった。まさか、妊娠してそれができるようになるなんて、想像もしていなかった。
 最近は、夢ーガズムがめっきりなくなった。性欲もなくなって、惰性でオーガズムを感じようとしてみると、おなかの赤ちゃんがぐ~っと持ち上がるような動きがあって超怖いので、オナニーはしなくなった。挿入するのも諦めている。
 だけど何故だか、生んだあとのセックスとオナニーがすごく楽しみで、あれもこれもやってみたい! という夢が広がっている。めちゃめちゃエロいことをたくさん、全力でやりたい。試したいアダルトグッズをネット通販のカートにたくさん入れている時、おなかの中では赤ちゃんがモゴモゴ動きまわっている。まさか、妊婦になってこんなことをするなんて、思わなかった。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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