ラブピースクラブはフェミニズムの視点でセックスグッズを売り始めた日本で最初のトーイショップです。

TENGAをダンクシュート

田房永子2011.11.01

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 7月の私は、自分の体に訪れたつわりというものの余りのつらさに戦慄していた。
 男が憎い。生理もなければつわりもない、精子を出すだけ、生きてる中で一番の快楽をしただけで子供が生まれてくるなんて、どんだけお得なんだろうか。
 「夫の浮気は妻の妊娠中が一番多い」と聞くが、こんなつらい目に遭っている女の目を盗んで他の女体をまさぐることを楽しみ、しゃあしゃあと家に帰ってきて妊婦の体調を気遣ったりとか、そんな滑稽でひどいことがよくできるもんだし、「妊娠中の男の浮気」はいつの時代でもある伝統みたいな雰囲気によって世間でなんとなく許され続けていることも、本気で理解ができない。夫婦間の問題ってことになってるけど、人間倫理の話なのではないか? そんなことをする男は、冷ややかな目で見られたり、すれ違いざまに「クズ」と罵られてちょうどいいくらいだ! 全国にいる「妊娠中に浮気した男」のところへ行き、その男が運転する車の前に立ちはだかって止めたり、メガホンで罵声を浴びせたり、シーシェパード的な嫌がらせをする「妊娠中に浮気する男を許さない会」がもし存在したら、1万円は寄付する。そんな心境になった。
 つわりで苦しい中、寝る前になると隣の夫に向かって「妊娠中に浮気する男は…死刑でいいと思う…」「死刑にするべきだと思う…」「死刑、しけいだよ…」と毎夜つぶやいた。夫はその度「俺は夢精に挑戦するよ」と言った。
 しかし夫は夢精ではなく、「漏れる」という未知の現象に遭遇していたようだった。エッチな夢を見て目が覚めたら出ていたとか、気持ちイイと思ったら出ていたとかじゃなくて、起きている時にパンツに違和感を感じトイレで見たら出ていた、という。「また出てた…」という報告を確か2回くらい聞いた。
 つわりに少し慣れてきた頃、夫の射精に関して何か参加したいという気持ちが沸いてきた。ただ、つわりの時は生き物の近くに寄れなかったので、夫の身体に触ったりとかは無理だった。
 私には、TENGA(女性器を模した男性用のオナニーグッズ。オシャレなパッケージで人気)を使っている夫を眺めてみたいという願望がもともとあったのだが、夫自身は男性用オナニーグッズの類に興味がなく、TENGAに対しても無関心だった。そして私のほうは、見てみたいと思いつつも「TENGAは気持ちよすぎる」「使い捨てなのに洗ってまでまた使ってしまう」「女のまんこそのものだよ」と知人の男性らが口を揃えて言うのを聞いていて、夫がTENGAの味を占めたらなんかヤダ…という気持ちも持っていた。そういうどうでもいい複雑なTENGA感情が入り混じり、夫が「俺は興味がない」と言うのを分かっていてわざと「TENGA使ってみてよ~!」とはしゃぐというプレイとして、我が家にはTENGAが存在していた。
 だが、夫の身体に触れることはできないが、夫の射精に何か関わりたいと所望する今。今こそTENGAの出番なのでは? そう思って私はTENGAを買うことを夫に薦めた。夫も漏れちゃってる事態なのでもはやTENGA(女性器を模した商品)に興味津々になっていた。そして夫は私が見ている前で、赤のTENGA4種類を通販で購入した。
 TENGAが届き、寝室の枕元に並べられたものの、私の体調が優れずなかなか使用に至らなかった。1週間くらい経っていよいよ、「今日ならTENGAできる!」というつわりが軽めの日が訪れた。私は寝る前のTENGAタイムを楽しみにして、私がTENGAの準備をしてかぶせてあげよう、など、いろいろシミュレーションした。
 そして夜。ほくほくしながらTENGAのパッケージを剥がし、「はいっ! では始めましょう!」という感じで夫に迫ると、夫は背を向けて「いい…TENGAはひとりでする…」と言ったのだった。
 WHY? 二人で使うから買うことを認めたのに!
「女のまんこそのもの」なものを、ひとりで使うって、それ、浮気と一緒じゃないの?! 自分の手でオナニーするなら許せるが、TENGAを使うのは許せない。私はワナワナと怒りで震え、「ふざけるなッ! TENGAはひとりで使わせないッ!!」と布団に横になりながら叫んだ。体がバウンドするくらいの勢いの叫び声だった。私の激昂にウンザリしている夫に向かって、「なんでひとりで使うんだ! 許さない!」と叫び続け、夫がひとりでTENGAを使っている映像が頭に流れていよいよ怒りが沸点に達し、「許さないからな! ひとりで使うなんて絶対許さないからなッ!!!!」と叫びながら起き上がり、枕元に並んでいた4つのTENGAをかかえて台所に走り、ゴミ箱の中に勢いよくTENGAをダンクシュートした。
 シン…と静まり返る寝室。そのまま眠りについた。次の日も気まずいまま、ゴミ箱を覗くとTENGAはまだそこにいた。時は過ぎ、その日の夜に夫はTENGAをゴミ箱から拾って「俺のTENGA捨てただろう」と一言言った。私は「ひとりで使って欲しくない。家にTENGAが4本あるって分かっている上で、知らないうちに1本ずつ減っていくという現象を黙って見ろというのか。それに対して私はどうリアクションすればいいんだ。そのほうが気まずいだろう」という旨を述べ、問答の末、夫が私の意見を承諾した。
 その後、4連夜に渡りTENGAを二人で消費した。私は触ったり触られたりはできないが興奮はできる。夫のちんこと私の手の間にTENGAがあることで、その「触れないセックス」がスムーズにいったように思う。触れないセックスも、それはそれで楽しい。
 もう、「たまごクラブ」にTENGAの広告がないことが不思議である。他の女抱いてほしくないけどセックス対応しきれない妊婦の最強の味方って感じなのに。「まるで女のまんこみたい」なTENGAを使用するオナニーは、なんとなくイメージとしてオナニーと浮気のちょうど間くらいだから、オナニーだけじゃ我慢できなくて浮気するんじゃないか…という不安も沸かず、平和なのに。TENGA EGG(卵の形をしたTENGAのシリーズ)なんて、「たまごクラブ」のために作ったんじゃないかってくらいピッタリの商品なのに。パッケージもパステルカラーで「たまごクラブ」っぽいのに。夫と使うために妊婦が買ってもいいし、友達の妊娠祝いにもGOODだし、奥さんが妊娠した同僚へのプレゼントにも最適だ。「妊娠中=TENGA」という認識が定着すれば、TENGA購入層が激増してTENGAにとってもいいし、妊娠中の妊婦にとっても良いはずなのに…。なんで私がTENGA市場について切なくなってるのかよく分からないが…。
 「赤ちゃんのためのお父さんお母さんができること」みたいな役所が配る冊子には、食べ物や生活態度についてものすごい量の情報が書いてあるが、「浮気するなど言語道断」とは書いてない。風俗に行ったり浮気したりして、妊婦に不要なストレスを与えるなんて、お腹の赤ちゃんにとって一番よくないことなんだから、「我慢できなくなったときにオススメなグッズ」とかいってTENGAくらい紹介すればいいのに!
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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