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「去年とは違う秋の空」

茶屋ひろし2011.11.04

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先日、仕事を終えていつもの店で飲んでいたら隣の席の初対面の人に、「彼氏、いるんですか」と訊かれたので「いません」と答えたら、「でしょうね」と言われて驚きました。「なにが見えたんですか」と質問してしまいました。すると笑って口を濁されたので、私も笑ってその場を流しました。いい滑り出しです。カウンターの中のママが最近よくする、私と出会った時の第一印象の話をし始めます。
「僕はこのオンナ(私のこと)を初めて見たときに、一生口を聞くことがないだろう、と思ったのよ。住んでいる世界も話している言語も違う、なんか気持ち悪い人にしか見えなかったわ」と彼に説明しています。「でしょうね」とはさすがに言われませんでしたが、彼は「それがまたどうして話せるようになったんですか」とママに聞きました。「なんか、話しているうちに共感できる部分があることがわかって、それから平気になったのよ」ということだそうです。当初、そんな風に思われていたとは知らなかった私には面白い話です。
そういえば職場のビデオ屋で、変なお客さんに変な絡まれ方をしてなんとか交わした後に、同僚のオーラちゃんはその場にいた他のお客さんから「大変ですね」とよく慰められるらしいのですが、私はそんなことを言われたことは一度もない、という話をしたら、ママは、そらみたことか、といった顔をして、「だから、僕が初対面であんたのことを気持ち悪いと思った感覚と同じものを持っている人のほうが多くて、変な人に絡まれているあんたも変な人だから、誰も声をかけないんじゃないかしら」とまとめられました。いろいろな世界があります。
そんな私も日々のニュースで、玄海原発再稼動、ベトナムへ輸出・・などの政府の動きを知るたびに、この人たちは私とは違う国の人なのかしらと、近頃は怒りというよりなんだかポカンとしてしまいます。それは、国会だけが三月十一日に地震も津波も原発事故も起きなかったパラレルワールドに突入しているかのような現実感のなさです。
オーラちゃんに選んでもらったデジタルテレビのおかげで、すっかりテレビっ子に戻ってしまった私に、「なぜテレビは大元の悪(東電)を追求しないの」とか、「原発事故のことは触れても一瞬」、「夜光塗料とかラジウムとか福島原発に関係ない証拠があがるのだけ、早すぎない?」と毎日疑問を投げかけてくるオーラちゃんです。
「じゃあ、誰かがラジウムの瓶を仕込んだのかな・・、本当は都内各所に結構な量が落ちているとか」と返すと、「そういうことじゃなくて」と不満気です。
「大手メディアが東電を追及しないのは、スポンサーだからしないというより、これまで原発について考えてこなかった(ほとんど知らなかった)ため対応の仕方が分からないからではないか」となにかの雑誌で読んだり、夜光塗料の瓶が埋まっていたことが本当だとして、今回の事故がきっかけで市民が放射線量を計測するようになったから発見に至ったという話で、見つからないままでいるよりは当然良かった、ということなんだろうけど、だからまったく「いい話」とも思えないわ・・、と思ったりしているうちに、漠然とした不安に襲われた三月下旬から、私の精神状態が変わっていないことに気がつきました。
最近飲み屋で出会った女の子は母親の呪縛(価値観?)から逃れられないと悩んでいます。月に一度会う女友達は、ヒーラーに「あなたは蓑虫のようだ。自分でつくった繭に全身を縛られていて顔だけ出ている」と言われたと話して、五年ぶりに会った男の子は「電車に乗ることが出来なくなった」とたくさん歩いて二丁目にやってきて、「なんかわさわさするんです。俺、どん詰まりですよ」と嘆きました。
今一番の問題は、自分が直面している自分のことである人たちが点のように幾人か現れます。そこでは原発の話は出ません。けれどオーラちゃんと原発について話しているうちに、なぜか私にとって原発が、点在する彼らの「自分問題」と同じように個人的なことに思われて、ふいに黙り込むことが多くなってきました。
数年前に、「私、医者に病気だって言われましたー」と酔っ払ってケラケラ笑いながら電話をかけてきた女の子がいました。そのあと症状は悪化して、「今、手首を切っています」とか「切っていました」とか、「起きたら血だらけで」「病院行った方がいいですか」「なんで生きてるんですか、私」と、夜中に泣きながら電話してくる二年間が始まりました。すぐには行けない場所なので、そのつど近くに住んでいる彼女の友達に相談しながら対応してもらい、私は電話で彼女が泣き疲れて眠くなるまで付き合うだけでした。
二回ほど会いに行きました。
そのうち出会い系サイトで知り合ったという男と付き合い始めて、その三人目あたりで症状が回復しはじめました。「もう、薬を飲まなくても大丈夫みたいです」と言って、仕事も毎日行けるようになって、昼間の吐き気もおさまり始めた頃、真夜中の電話はなくなりました。
一年後、ひさしぶりに会った彼女はガリガリではなくなっていて顔色もよく、「茶屋さんにはいろいろとご迷惑をおかけしたと思うんですが、正直、私、あの二年間のことをほとんど覚えていないんですよねー」と朗らかに笑いました。人って強い、と思いました。
「男が効いたみたい」と彼女を知らない別の女の子に話したら、「彼女、美人なんでしょう」と言われて、「うん、あの女優に似ていた」と言うと、「だから男もすぐできて、抜けだせたんじゃないの」と、少し腹立たしいといった調子の返事が返ってきました。
人と比べてもしょうがない、ということが「自分問題」のとっかかりになるとは思いますが、「原発問題」は、よく知らなかった私、ほとんど何もできない私、せめてこれからは核エネルギーに加担しないようにしたい、と思う私がいるだけで、そこがとても個人的なところだとは思いますが、はなから比べる対象もなかったくらいの渦中にいるような気もします。
スーパーのお刺身は食べてしまいますが、突き抜ける秋の空に深呼吸を途中で止めてしまいます。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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