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「母性」という言葉

田房永子2012.01.28

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「母性」という言葉は主に、「自分の子供を守ろうとする本能」とか「可愛いと思う気持ち」という意味として使用されています。そして、女は妊娠すると途端にソレが「わいて出てくる」ということに我が国ではなっています。
 例文としては「お腹の子がいとおしいと思う。私にも、母性がうまれてきたのかな?」とか、「妊娠して性欲が減退するのは、母性が強くなっているからですよ」とか。この文をよく見ると、実は「妊娠したらなんかちょっと変わった(変わる)」ということを言っているだけ。だけどその“漠然とした変化”を伝える際、そこに「母性」という言葉を使用するとアラ不思議、たちまち「母としての進化」「人間としての成長」「女として一人前」という“なんとなく立派で誇らしい感じ”を含ませることが可能なのです。大変に便利な言葉です。
 妊婦が何気なく報告してくる「単なる変化」に対し、世間がすかさず「母性」という言葉をすべりこませることによって「あなたは立派なんですよ、妊娠してお母さんになるんだから、『お母さん』の一般的イメージを壊さない言動をするのがアナタの義務」という圧力的な暗示をかけることができる催眠的言語である。そして妊婦自身も「母性」という言葉によって、「万能感、優越感」を感じる(人もいる)。
 “自由奔放な母”を責めたり“子供をかわいいと思えない私”を自責する際にもかなりの頻度で使われる日本語です。「子供を預けてまであんなに働くなんて、あの女は母性が足りない」とか「無痛分娩なんて母親のエゴ。痛みを感じてこそ母性が生まれるのに。」とか。ここでも、「母性」という言葉はそれ自体に特に意味はない。「女は『母性』があって当たり前、ないとおかしい、女失格、人間失格、生きてる価値がない、悪魔、魔女」という、曖昧な割にはなんだか確固たる社会的イメージだけは存在する抽象的な言葉であり、「自分が思う母親像と違う相手」を非難する際、最大のダメージを与えるために有効な言葉である。
 「子供を預けてまであんなに働くなんて…私には理解できない」と言えばいいことを、「子供を預けてまであんなに働くなんて…母性が足りないのね」と「母性」という社会的イメージ言語を敢えて使うことで、単なる個人的意見を世界共通の考えであるかのように膨張させることが可能である。試しに、気に入らない女を頭に思い浮かべて、その女に子供がいようがいまいが、「あいつには、母性が足りないんだわ」と頭の中で発声してみてください。なんだか一瞬、スッとしませんか。なんだかソイツとの全てのわだかまりが一
瞬で解けたような、そんな錯覚が持てる。他人のことをやたら「母性」で語る人、判定したがる人は、この脳内スッとする麻薬が出ていて、本人が気持ちいいだけなんじゃないだろうか。
 そしてまた、「母性」は聖母マリアっぽい感じの意味合いで使われることもある。最近始まったドラマ「理想の息子」は、鈴木京香が演じる『母性がない母親』が主人公。どうやらこのドラマ内での「母性」というのは「母親が一方的に無償の愛を子供に与えること」を意味しているようです。
 ここまで実体のない、人それぞれ、場所それぞれで意味やニュアンスが変わる言葉ってあるだろうか? もし他人から「あんた母性ないね」と一言言われたら、誰でも一瞬、思考がストップしてしまうと思う。「えっ、私には母性がないの?」と、ドキドキしながら考えちゃって、そしてけっこうなショックを感じると思う。
 あったか、ほんわり、ほっこりなポジティブな言葉では決してなく、使うだけで女達の思考をストップさせ、育児や家事に没頭させることができる、そして没頭していないことを自戒させることができる、支配操縦言語として優れた威力を発揮する日本語である。
 ここで、「母性」という言葉を「妊娠して初めてわいてきた性質」という意味でとらえてみたい。そうして考えてみると、私の個人的な「母性」は「まんこを見れる力」です。
 私はスプラッタとかホラーとか、手術シーンとか衝撃事故映像とかゾンビとか死体写真とかそういうものがとても苦手で、その一種だと思うが、まんこのビジュアルにも恐怖を感じていた。できれば見たくない。特に出産シーンなど、「人間が出てきてる最中のまんこ」なんておそろしくて直視できなかった。だけどここ最近、不思議と大丈夫になってきた。自分のまんこにも興味が少し出てきた。固く閉ざしていたものが開いていく、これはいいことだし、何より自分が心地よい。自分で自分の肩を組んでウインクしてあげたい、
そんな楽しい気分。
 「赤ちゃんが可愛い、守りたい、世話したい」そんな気持ちは小学生の頃からあったし、むしろあの頃のほうが断然強かった。妊娠して、いつのまにか克服できた、勝手にわいて出てきたのは「まんこを見れる力」くらい。
 「赤ちゃんを守りたいという気持ちが、出産への意欲を沸かせ、まんこに興味をもたせたんですね。それこそ『母性』ですよ」と、勝ち誇って言ってくる人がいるかもしれない。でも私にとっては、赤ちゃんのためっていうよりは、自分のためという感じが強い。「妊娠して、自分に対しての『母性』(自分を可愛がる、守りたい)がわいた」という表現のほうが、しっくりくる。
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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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