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「ちっぽけなプライド」

茶屋ひろし2012.05.10

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作家の西村賢太の対談集を読み終えたあと、本屋でみかけた雑誌に、今度は、彼とマツコ・デラックスとの対談が載っていたので、本の続きような気がして、それに読みたくもあって、手に取りました。
その中で、対談の内容とはなんの脈絡もなく、すとんと落ちるように入ってきたのは、マツコさんのくだりでした。
「私はよく、『男のちっぽけなプライド』みたいな言い方をしますけど、それが愛しくてたまらないし、男性であればどんな姿形であっても許せてしまうところもあるんです。」(en taxi  vol. 35)
その「ちっぽけなプライド」がなんなのか、言語化出来ないうちに、そうか、私はそれを愛しいと思えないんだわ、と合点してしまったのです。「ちっぽけなプライド」を持っている「男」との関係性において、ほんとギリのところ、最終的に、結果、それを許せるか許せないか、という話のように思いました。
かねがね、一緒に毎日働いていて、オーラちゃんは男にやさしいな、私だったらそこは受け入れられない、と思うような対応の違いを感じています。
例えばチップさんの一連の出来事でした。彼が店内で大声を出したり人を蹴ったりするのは困る、という見解は一致するのですが、その後、私はもう会いたくないわ、となり、オーラちゃんは、会うのは平気、と落ち着きます。
私は何を許せなくなって、オーラちゃんは何を許せているのでしょうか。
チップさんが頻繁に姿を見せていた頃、路上で、通りすがりの人にすら、「さわんじゃねえぞ」とブツブツ文句を言いながら歩いていたチップさんを見て、オーラちゃんは、「なんか可愛い、と思っちゃった」と私に言いました。
それのどこをどうとったら可愛いと思えるの?! と私は驚愕しました。
とは言え、今、チップさんは私を避けて来店しているようで、「最近は、ウリ専にも通っているみたい」なんていう情報を聞きながら、お互いに顔を合わせないことによって平穏が生まれるならそれでいいじゃない、と思っていました。それに、私がチップさんの「男」の部分を許せるか許せないかということではなくて、単に相性の問題かもしれない、とも思いました。そこはみんな他人なので、違いがあって当然だろうと。
けれど先週、チップさんが私の前に姿を現しました。オーラちゃんと一緒にレジに入っているときでした。ひえー、会いたくないよー、と応対をオーラちゃんにまかせます。オーラちゃんに話しかけながらも、ちらちら、こちらを気にしている様子が伝わります。私は目を合わせないようにして手元の作業を続けました。するとぐるりと私の正面に移ってきました。今度は私の頭越しにオーラちゃんと会話をしている格好になります。
耐え切れなくなって、私は本店の方へ逃げることにしました。
後でオーラちゃんと確認しあいましたが、その時のチップさんは、あきらかに私との会話を望んでいて、それも以前のような、なにもなかったかのような・・リセットされましたか、というような様子でした。
なにもなかったことになんかできませんよ、と私はその場を離れたわけですが、チップさんはなかなか帰ろうとはしませんでした。十五分ほどして、そろそろ帰ったかしら、と通りで煙草を吹かしていたら、先ほどまで店内にいたお客さんが走ってきて、「いま、店で大喧嘩してますよ」と報告してくれました。
ああ、嫌だ、と思いながら店に戻ると、店の真ん中でチップさんと別のお客さんが向かい合って怒鳴りあっています。他に人はいなくなってしまって、勢い余ってつかみかかろうとせんばかりの二人の間で、オーラちゃんが双方を制止しているような状態です。けっきょくこうなるんじゃない、と私はレジに入ってその様子を見ることにしました。チップさんに怒鳴られた人は、むっとしながらも店を出て行くパターンが多いのですが、その人はまったく引きませんでした。
怒鳴りあいを聞いていると、チップさんに蹴られた彼の言い分が際立ってきます。
彼はチップさんにぶつかったわけではなくて、しゃがんで商品をみていたところ、「どけ」と後ろを通ろうとしたチップさんに蹴られた模様です。
それは、チップさんが悪い。
収まらない二人にオーラちゃんが、「表でお願いします」と店から二人を出そうとします。素直に二人はその指示に従うかに見えましたが、外に出たのは蹴られた彼だけでした。チップさんは怒鳴りながらも店から出ようとはしません。あろうことか、店の奥に向かったりします。
逃げてる! と思いました。それでも入り口から「来いよ!」と一歩も引かずに呼び続ける彼に根負けして表へ出ました。すると、怒鳴りながらもチップさんは早足でその場を去ってしまいました。
確実に逃げました!
逃げるくらいなら喧嘩をふっかけるんじゃないよ、と思いました。そのあと、被害にあった彼の憤りを聞き、彼が帰ったのを見計らって戻ってきて、言い訳のように彼への悪態をつきはじめたチップさんに、オーラちゃんは、「そんなことはどうでもいい。もうこれからは怒鳴ったり人を蹴ったり、ここではしないでほしい」と釘を刺しました。
翌日チップさんは、私が一人でいるときに、ビデオを売りに来ました。笑顔で話しかけてくるチップさんに、もう、なんか怖い、と思いながら必要最小限の対応をしてしまう私です。そんな私に、チップさんは以前のようにチップをくれようとしました。私は顔も見ないまま手を振って断ります。
「いりませんか」とチップさんは言います。うなずく私に、いりませんかー、ともう一度、高い声を出して店を出て行きました。
いりませんよ・・。どっと疲れました。

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茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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