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そそられたがる男

田房永子2013.02.28

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 杉並区で、ママ達が「保育園不足」の抗議デモをした。
 保育園が足りない、と聞いてはいたけど、実際自分が「保活」(入れられる保育園を確保するための活動)をやってみて、予想以上にキツかった。区の認可保育園の申し込みをする期間のことを思い出すと、今でも涙がこみあげてくる。
 仕事と赤ちゃんの世話と家のことだけで、睡眠時間を割くほど忙しいのに、さらに「保活」のために時間を割かなければならなかった。書類を作ったり、区役所の窓口に行ったり、認証や認可外の保育園に電話をかけまくったり、1回乗り換えの駅にある保育園まで視野に入れて見学に行ったり。妊娠中から保活してる人もたくさんいる。私も「妊娠中からやったほうがいいよ」と教えてもらったことがあった。「生後3ヶ月から預けるのか、半年から預けるのか、今から申請しておいたほうがいいよ」と言われたけど、何ヶ月の赤ちゃんがどういうものなのかよく分からないし、まだ見たこともない自分の子供を「預ける」という感覚がまったく分からない。無事に生まれるのかも分からないのに、「保育園を先に確保」という作業に対してどう意欲を持てばいいのか分からなかった。でも、妊婦の時から保活している人はたくさんいる。気持ちだけはいつも焦っていた。産後から始めた保活で「ここの保育園は入りやすい」だとか「ここは入りにくい」だとかいろんな情報を集めて必死にがんばったところで、区役所の人に「保育園に入れる可能性は分かりません」と言われてしまう。

 キツかったのは作業自体もそうだけど、「こんな風に、働くことを区に認めてもらわないと、働かせてもらえない」というシステムを受け入れなきゃいけないことが悲しすぎた。保育園が見つからなくて、仕事することをあきらめる人もたくさんいる。意地悪な人は「それくらいの職業なんでしょ」とか「その程度の就労意欲なんでしょ」とか言う。個人で言ってる人を見れば「育児や働くということについて、事情を知らなすぎる人なんだな」と思うだけだが、保活をしていると、区役所や東京都や国から「あんたなんてどうせ働かなくていいでしょ」と言われているような感覚を受ける。今の保育園に入るためのシステムが、とても意地悪なつくりで「本当にあなたは働かなきゃいけないんですか?」「本当ですか?」とずっと聞かれてるような感じを受け続けるようになっている。それがつらくてキツかった。税金や年金を払うことになる子供を育てながら、自分も働いて税金を納めます、って言ってるのに、それが優先されないのは、異常だ。
 杉並区のママたちの「保育園不足」の抗議デモについて、毎日ニュースがたくさん流れている。都知事の猪瀬直樹は、国の保育園の基準に柔軟性がないのが問題だと言って、「ご意見のある方は厚生労働省に言いに行ったらいい」とママたちに直談判をオススメしていた。
 杉並区議会議員の田中ゆうたろうも、「私は、今のこの不況を本質的に打破するためにも、女性力を思い切って爆発させることは必要だと考えている。(略)それゆえにこそ、『子育ては本来は家庭で行うもの』という基本中の基本を忘れるべきではないと痛感する。一抹の遠慮も忸怩の念もなく、声高に居丈高に『子供を持つなということか』『現状のおかしさに気付いて』などと世を恨むかのような態度は、それこそどこかおかしい、どこか的を外している。『お願いです。私達の子育てをどうか手伝って下さい』、これが待機親に求められる人としてのマナー、エチケットというものではなかろうか」と、ブログに書いた。
 この田中ゆうたろうの意見って、結構普通に浸透してるものだと思った。わざわざ口に出すとおかしさがはっきり分かるけど、むしろこの意見は、日本の風土にねじ込んで熟成され続けているもので、こういう意識があるから、今、保育園待機児童問題がこうなっているんだなあ、と思った。
 保育園待機児童問題について、いろんな意見を見たりしていると、電車内痴漢についての世間でのやりとりと似ていると感じた。「電車内には痴漢がいるんだよ」って言っても、「本当にそれは痴漢なんですか? 証拠はあるんですか?」とまで言われるのはネット上だと普通だ。「電車内痴漢は、満員電車とか関係なくやる。女の服装の露出なんて関係がない。こんなに異常な状態なんです」って当事者が言ってるのに、なぜかその辺はスルーして、「男だって冤罪にビクビクしなきゃいけなくて大変なんだよ」と俺の苦労を語り出し「みんなガマンして乗ってるんだから、自分の権利ばかり主張するなんて単なる我がままだ」みたいな流れにしようとしてくる男が必ずいる。「警察に被害届を出すしかないでしょう」と言うから、「そんなもん分かってるし、電車でどっか行く時にわざわざ被害届なんて出して半日つぶすなんて現実的解決じゃない、痴漢の社会的制裁を求めてるわけじゃなくて痴漢をしないで欲しいって言ってるだけだ」っていうと、「被害届も出さないんだから、痴漢に遭う被害なんて、その程度のことなんでしょう」と言われる。
 保育園待機児童問題は、「保育園ふやし隊@杉並」のママたちが訴えるまでは、小さい子供を持つ人たちだけの話題だった。だけどこうして表に出ると、電車内痴漢についての会話の流れと似たようなことを言う人がいるので驚いた。そして「俺がなんとかしてやる! ドンと来い!」っていう話の通じる強くて優しい男がまったく登場しない、というのも共通している。
 田中ゆうたろうちゃん的な男は、「人に助けて欲しい人は、慎ましくか細く『助けて…』って言え」って言う。「『助けて…あなたにしか頼めないの…』ってウルウルした目で言われるとオチンチンがHOTになって、気分が良い。その状態まで持ってってくれないと、男は動きませんよ」って逆に教えてあげますみたいな感じで言ってくる。最近流行ってる「夫のことは、話の通じない犬だと思って根気よくしつけましょう」という「夫操縦術」にも似ている。同情や手助けしたい気持ちを「そそらせる」ことを求めてくる。
 でも、そんなことに付き合ってる場合じゃないから、ママたちはまったく動じていなくて、どんどん前に動いているのだった。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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