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母親の価値観押し付け問題

田房永子2013.03.13

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 去年の夏、複数の女性たちと食事をしている時、うちの子(Nちゃん・女児・当時0歳6ヶ月)の写真を見せる機会があった。とっておきの1枚を見せると、「え…何コレ。普通のないの?」と言われ、衝撃を受けた。それは、緑とか黄色の派手なタキシード風の柄がプリントされた服を着用し、おもちゃのマイクを小指を立てて持っているNちゃん。寝転がっているので、五木ひろし風に目が細くなっている。なんでもない写真よりは間が持つはず、と思って人に見せる写真はこれと決めていたけど、“おもしろ写真”的な感じで逆にサブいんだ…とその時気づいた。それでは、と、代官山系の超オシャレ子供服店で買った、渋くてカッコいい茶色のカバーオールを着た写真を自信満々に見せると「だからこういうのじゃなくて…」とたまりかねた一人の女性が私のスマホをいじくり、「これだよ! こういうのだよ!」と、私の姑が買ってくれた小花柄の服を着て普段どおりの顔で写っているNちゃんを指差した。他の女性も「あ~、これだよ。やっとNちゃんが見えた」と言う。かなり大きな衝撃を受けた。
 「他人の子供を見る行為は退屈だろうから、よりコメントしやすい写真を選んで見せなければならない」という私個人の強迫観念と不必要なサービス精神が、「Nちゃんの個性」を妙な方向へ脚色する。私は子供の頃、自分が母親に話した学校でのエピソードを母親が盛りに盛りまくって爆笑エピソードに変えて周りの人に披露するのがいやで、よく抗議していた。「私はあんなことしない」と思ってたのに、半年でやってる!
 夫に話すと「Nちゃんの服、ピンクとか女の子っぽいの、ぜんぜん買わないよね。小花柄の可愛いのがあるよって言っても、無反応だったよね」と私のことを指摘した。確かに小花柄の服を薦められた、だけど私はぜんぜん可愛いと思えなくて、タキシード風の服(BIGBANGのG-DORAGONもほぼ同じの着てた)を買ってしまう。後日、赤ちゃんの集まりで服を見てみると、小花柄が圧倒的に多くてビックリした。
 「小さい頃、女の子っぽい服を着せてもらえなかった」という女性はすごく多い。私は「なんで女の子にピンクとか着せないんだろう? 私は着させますよ、こだわりないですし」と思ってた。なのに、実際は無意識のうちに中性的な、ひょうきんな、珍しい服しか着せてない。自分自身も小花柄を選んで着たことが一度もない、ということに気づいた。
 小学生の頃は、「お気に入りの服」がなかった。服は母親が選んで買ってくる。自分に選択権はなく、「着たくない」と学校に行く前よく泣いた。男の子用のゴツいズック靴や、たくさんの外国人の笑顔が全面にプリントされた奇抜なトレーナー、変わった形のパジャマを「『服だ』って言いなさい」と言われ、拒否したのに修学旅行へ着て行くことになり、「パジャマだ!」と男子に一瞬でバレたこともあった。当然だが、パジャマは生地が薄くて寒い。パジャマで山登りさせる母の気持ちが分からない。パンツも大人用のスキャンティ的な小さいものを買い与えられていた時期があったのも記憶している。本当に本当に、着たくない服を着て学校生活を送るのは、苦痛だ。服装は、子供の「自分を大切にする気持ち」を育てるのに超有効なアイテムだと思う。私は、子供には子供用の下着を着させたい。だけど、自分の中に、母と同じ片鱗を垣間見て、寒気がした…。
 まずは自分自身が変わらなければならない。小花柄の似合う女性になってみよう。そう決意した。ファッションに詳しい人に相談すると「コンサバ系ですね。セオリーとかアナイ、ZARAとかはどうでしょう」とメールが返ってきた。コンタクトレンズを購入し、パーマをかけてフェミニンスタイルにした。お金を持って、言われた服屋さんへ行ってみた。いよいよ大変身が始まる。きっと、今まで見えなかったものが見えるはずだ。私はもう、ママのピエロじゃない。
 だが、愕然とした。欲しい服が一枚もない。マジで一枚もなかった。レースの襟がついたブラウスを鏡で合わせても、心はまったく躍らなかった。それに、小花柄の服は細めの体型の人に似合うものなんだと知った。ならばダイエット、と思うのだが、“小花柄を着る自分”を想像するだけでなぜか眼球が痛む。そのうちに、今までの自分を否定した反動か、気づくと美容院で頭の下半分を刈り上げにしていた。全力で小花柄を拒否する私の血液。今は「Nちゃんがこれが着たい、と言ったら、高額でない限り、自動的に受け入れる」という決まりを、脳に念じるだけの毎日を送っている…。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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