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「子供は常に母親と一緒にいたいもの」問題

田房永子2013.10.07

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 小さい子供向けの朗読会に参加したら、“幼稚園行くのを嫌がる子供が出てくる絵本”が読まれた。幼稚園に行くのいやだよ~と駄々をこねる子供が何人も登場し、最後のオチが「みんなお母さんといつもずっと一緒にいたいんだ」というものだった。ずっこけて図書館の床で後頭部を打つかと思った。
 絵本まで、そんなことを言うか。小さい子を持つお母さんたちがどんだけ一人になれなくて苦しんでると思ってるんだよ! と思ってしまった。(ちなみに作者は男性だった)
 「小さい子供は常にお母さんと一緒にいたいもの」というのは“太陽は東から昇る”とか“物を投げたら下に落ちる”とかと同じレベルの「当然」として語られてるけど、本当にそうなのだろうか?
 私は自分の子供の頃を思い出すと、「お母さんと一緒にいたくていたくて仕方ない」と思った記憶がない。母の実家によく預けられていたが、祖母や祖父や叔母がいれば十分だったし、小学生になると家に帰って母親がいないとすごくホッとしたものだ。私の母は過激な過干渉ママだったからだけど、各家庭いろいろ事情があるんだから「子供は母親と常に一緒にいたいもの」なんてことを自然現象のように語るのは、母親と子供を単に追いつめるだけだと思う。
 私の母は、私が小学生になるとパートを始めた。私は鍵っ子になるのだが、母が唐突に「学校から帰ってきてお母さんが家にいないと寂しいわよね?」と聞いてくる。ぜんぜん全く寂しくないどころかむしろブラボーなのだが、母に気を使って「さ、さみしいよ」とたどたどしく答える、という問答をたまに繰り返した。母は満足げな表情をするので、子供ながらに母が一方的に何かの安心を得ている問答だと気づいていた。さらにちゃんと母は「エイコちゃんが鍵っ子なんて可哀相だから」とか言っちゃってパートをやめてくる。「子供は常にお母さんと一緒にいたいもの」という“常識”を利用しているのはバレバレだった。
 そういう感じだったから、「子供は常にお母さんと一緒にいたいもの」問題に疑問を持っていたのだが、1年半“母親”をやってみて、「やっぱりそうでした。子供は24時間母親と一緒にいたがります」とは全く思わない。
 子供は自分勝手で、私が別の部屋へ移動するのを嫌がる時もあるし、一緒にいても私を無視して一人でどっかに行ってしまったりもする。私が追いかけてくるのを待ってる時もあれば、全然私のことを忘れて遊びに集中してる時もある。保育園へ行く時に泣いたことは一度もないけど、迎えに行くとぴゅーっとこちらへ飛んでくる。私が部屋で一人になりたい時に限って絡まりついてくる。ほっぺにチューしようとすると避けられることもあるし、恋愛のかけひきと同じで押されると引きたくなる、引かれると追いかけたくなる、という法則が小さい子供の中にはある気がする。
 24時間母親と同じ空間にいないとダメ、という子もいるのかもしれないが、私の子供(Nちゃん)からは、「24時間一緒にいてください」というメッセージは感じたことがない。
 ベビーシッターをよく利用していた時、たまに“ただの60代のおばさん”が来ることがあって、“ただの60代のおばさん”は、超でっかい声で「Nちゃ~~~ん! Nちゃ~~~ん!! おばちゃんが来ましたよ~~~!!!(Nちゃん絶叫で号泣)おばちゃんですよ~~~!!! あ~!!! Nちゃん、キティちゃん着てますね~~キティーッちゃんっ! ほら、キティーッちゃんっ!」と延々と一人で破裂ボイスで喋り続けるだけなので、Nちゃんは鳴き死にするんじゃないか…っていうくらい大絶叫で泣き嫌がり、私に助けを求めてくる。仕事に行くのが本当につらかった。この“ただの60代のおばさん”が来た時だけ(3人くらいいたので何度もあった)は、さすがにNちゃんから「お母さん、一緒にいてください」というメッセージを感じたけど、それは「24時間」「常に」ではない。ちなみに“プロ”のベビーシッターさんはすごく落ち着いていて静かに手遊びを始め、Nちゃんはちょっと泣くだけですぐに笑って虜になっていて、私のほうなんか見もしなかった。(マジでスゲー!)
 「こういう時はお母さんじゃないとダメ」とか「別にお母さんじゃなくてもいい」みたいなのって、子供によって違うと思う。母親とは関係のない外的要因によって、母親と一緒にいないといられなくなる、ということもあるだろうし、逆に一緒にいなくても平気になるということもあるだろう。母親のほうも同じで、「ずっと一緒にいたい」って人もいれば「2~3日ごとに会うのが一番いい」っていう人もいるだろう。赤ちゃんの世話はそうは言ってられないけれども、恋愛しているカップルにいろいろな付き合い方があるのと同じように、実際には十人十色の母子の組み合わせがあるはずだ。それぞれ違うのが当たり前なのに、「子供は常にお母さんと一緒にいたいもの」ってアッサリ簡単に言い過ぎだと思う。
 1歳半の検診のために保健所に行ったら、強制的に「育児相談」をしなければならないことになっていた。保健師さんが「一人の時間がなくてつらいってことはない?」とか「疲れてない?」とか聞いてくれる。私は今はなんとか大丈夫だが、「もしつらくなったら、いつでも話をしに来てね」と言ってくれた。ヤバくなったら相談に来るところがある、というのは本当に助かる。そうやって、育児というのは「ギリギリ」なものだという認識を、現場の人たちは持っているんだなと実感できたのに、図書館の絵本で「みんなお母さんといつもずっと一緒にいたいんだ」ときたもんで、気絶しかけた。

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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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