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「スノーピアサー」 この世の終わるとき、そのまた果ての終わるとき、生き残るのはどんな女

高橋フミコ2014.10.07

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 2014年7月1日、人類はほぼ滅亡します。地球温暖化によって年々上昇していく気温を抑制するべく、人工冷却物質を散布し失敗。地球は冷えきった死の世界に変貌してしまうのでした。人類とはなんと救いようのない愚かしい生き物だろうか、というのがこの映画「スノーピアサー」の滑り出しです。さもありなん。
 さて、現実のわたし達は奇しくも、2014年9月23日、ニューヨークで気候変動サミットを開催し、40万人が温暖化対策を求めてデモを行いました。国連平和大使レオナルド・デカプリオ氏の「わたしは人生を演じていますが、気候変動は現実です」というシナリオの台詞みたいな演説は記憶に新しい所です。南太平洋のツバル、キリバス、インド洋のモルディブなどの、海抜が1~2メートルの国々は、このままでは確実に水没、国土消滅と言われています。しかしその運命を決めるのは、国土広く、産業盛ん、経済のためなら戦争も辞さない巨大な先進国、アメリカ、中国、EU、ロシアなど敵対している同志の駆け引き、パワーバランスです。

 地球はもはや人類に支配されており、人類は階層というものを創り上げ、人類自身を支配している。文明の滅んだ後に残されたのは、ウロボロスのように自らの尻尾を追ってぐるぐると永久に氷った世界を回り続ける一本の列車のみ。乗り込めた者は、さて、幸いだったのでしょうか。
 その列車をノアの方舟とみることもできます。生き残りを運ぶ唯一の乗り物です。しかし生き残ったことに意味なんてありません。善良だからではありません。ただ世界一周旅行鉄道の客、或いはスタッフに過ぎない。この鉄道には未来への希望とか、神の意志みたいなものは何一つも積み込まれていないのです。ただ特筆すべきは、客でもないのに無理矢理乗り込んできた招かれざる者たち、最後部車両を専有する無賃乗車の、持たざる者たちです。このイレギュラーによって人間は失ったはずの在りし日の姿を一部取り戻しました。階層社会、支配被支配、そして暴力沙汰の革命騒ぎ、殺人といようなものを。
 列車内社会は、きれいに一列に並んでいます。先頭には神である列車の「エンジン」、神格化された社長、世界一周旅行一等車のお客様たち、リゾートホテルとして機能していたスパだのクラブだのをそのままに、植物園、水族館、小学校に食料庫、製造工場。そして、最後尾は何のために生存を許されているのでしょうか、奴隷同然の無賃乗車者たち。そのような厳格な場面設定とは対照的に、登場人物は多彩です。何しろ滅亡後なので、皆随分傷んでいたり狂っていたりするのですが、そんな危なっかしい人間たちが物語を何処へ運んで行くのか目が離せない。演じるのは、ポン・ジュノ監督映画ではお馴染みのソン・ガンホ、コ・アソン、更にハリウッドの個性派俳優が目白押しです。中でも、英国生まれのクールビューティー、ティルダ・ウィンストン演じるメイソン大統領の衝撃たるや。その異様な風体はティルダ・ウィンストンには全く見えない。こんな女見たこともない、いったい何者なんだろうと、ストーリーの全貌を知りたい以上に、観ている最中ずっと気になってしかたありませんでした。

 メイソン大統領とは憎まれるためだけにあるような役処で、悪役というよりはアンチヒーロー。出っ歯でメガネ、その上おカッパ。一昔前の、戯画化され嘲られた醜い東洋人にそっくりです。または、本ばかり読んで近視になったモテない不器用な女の子を彷彿とさせます。大統領と言っても肩書きばかりで、実際には支配者階級の単なる犬に過ぎません。たぶん世界旅行時代にはチーフパーサーかなんかだったのかもしれません。「社長」の権力を嵩に着てくだらない演説をするくらいしか能がない。分が悪くなると平気で裏切り、命乞いする恥知らずです。正直、これは酷い、ミソジニーにも程があるだろうと思いました。まるきりミソジニーの権化、怪女ミソゴンです。しかし、この忘れ難さは何でしょうか。映画全体に考え行動し、高度な戦いを繰り広げ、胸をかき乱すストーリーに命かける展開は男たちの物です。女たちは父の娘であり、息子の母であり、そして権力者の愛玩物。まあつまりありきたり。で、このミソゴンは、原作では元々男であったということで、よくよく考えてみれば男のための女ジェンダーの記号を背負ているわけではありません。何よりも演じるティルダのイキイキとしていること。「輝いている」と言ってもいいくらいです。この人物を作り上げるにはティルダの意見が大きく反映されたのだということです。
 ポン・ジュノ監督映画は女性性に託されたものこそがキーワードなのだと思わせられます。「グエムルー漢江の怪物」「母なる証明」そしてこの「スノーピアサー」にしても、生き残り繋いで行くのは女性の存在です。だけど結局それって、オトコ目線なんですよね。監督の意図を完全に無視して、オススメします。未来の「女性の輝く社会」において、本当に自由に振る舞う新しい女とは、案外ミソゴンのように見えるのかもしれません。
「スノーピアサー」2013年、韓国、アメリカ、フランス合作
DVD発売 2014年6月27日

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高橋フミコ

高橋フミコ(たかはし・ふみこ)

60年しし座の生まれ
美大出てパフォーマンスアートなどぼちぼち
2003年乳がんに罹患
同年から約2年半ラブピースクラブWebsiteで『半社会的おっぱい』連載
2006年『ぽっかり穴の空いた胸で考えた』バジリコ(株)より出版(ラブピのコラムが本になりました)
都内で愛猫3匹と集団生活
 
2019年11月21日に永眠されました。
ラブピースクラブの最も長く、深い理解者であり大切な友人でした。
高橋フミコさんのコラムはここに永久保存したく「今のコラムニスト」として表示し続けます。
 

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