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女がつくったアメリカの女のドラマ 男がつくった日本の女のドラマ

田房永子2015.11.05

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 有料動画配信サイトNETFLIXの「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」はいま全米で一番ヒットしてるドラマシリーズ。舞台はアメリカの女性刑務所。すごく面白くてハマってしまった。
 「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」には白人、黒人、ヒスパニック、アジア、ロシア、ユダヤ、イスラムとかいろいろな人種や宗教の特徴を強調するジョークが出てくるんだけど、日本も4カ所ほど出てきた。

 ひとつ目は、看守の弱みを握った囚人女性達が、「バラされたくなかったらポルノを差し入れろ」と要求するところ。「でもイケてるやつよ。日本のヘンテコな駄作はなし。それと男だけが載ってる雑誌も欲しいわ。女がやられてるだけのポルノなんて全然おかずにならない」と言っていた。
 二つ目は、受刑者との文通システムを利用して、複数の文通相手と面会して、お金を入金してもらったり寂しさを埋める囚人女性ローナが、その文通男たちについて話しているシーン。

囚人女性A「ラルフってデブの人?」
ローナ「違う。デブは日本のアニメにハマってる。夢見がちな目をしてる人よ」
囚人女性A「あなたって他人のいいところを見るのね。いい性格してるわ」
囚人女性B「金のために変態を騙す女が?」
ローナ「あの人たちは孤独なの。話を聞いて欲しいだけ。他にやりがいのあることないし」

 三つ目は、占いの結果を伝えるシーン。「あなたは結婚して子どもは13人、日本車に乗るわ」
 そして四つ目は囚人女性たちが「使用済みの下着を欲しがる変態がいる」という話をしているシーンで、「東京じゃ自販機で女子高生のシミ付きパンティーが1万円で買える」という発言があった。

 ひと昔前、海外の映画での日本を揶揄する表現は「メガネ、ネクタイ、無表情」だったと思う。ウエストポーチをつけて首からカメラを提げて団体行動する日本人観光客、というのもギャグでよく登場した。とにかく日本と言えば、メガネ、カメラ、ハゲ頭、出っ歯
みたいな感じだった。それか、韓国と中国と日本の文化がごちゃ混ぜになってるやつ。これは未だにあるけど。
 でも最近の海外ドラマの中での日本は、「ポルノ、アニメ、車、ロリコン」を担当している。

 昔の、日本と言えばカメラ観光客みたいな感じの頃は、なんだよバカにすんなよ、という気持ちで私は洋画を見てた。
 でも、女性が脚本をつとめているという「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」で変態大国として日本が描写されているのを見ると、そう言ってくれてありがとう的な、なぜだか爽快な気持ちがわいてくる。自分の国では決して流れない、女たちが自分の欲望や後悔について好きなように語って行動する物語に励まされる。
 遠い海の向こう、肌も文化も言葉も違う女性達のほうが、日本のメディアや風潮よりも、自分の気持ちを分かってくれているような感覚。それは、もはや救いだ。日本の象徴をロリコンと車のみで語るアメリカのドラマが、日本でオバサンをやっている私にとっては本当に心地よいのである。

 ローナの、日本アニメ好きデブとの面会での会話でこういうのがあった。
 ローナ「人生は強烈だから、時には逃げ場が欲しくなるの」
 デブ「そう。僕らにとってはそれはアニメ」
 私にとってそれはアメリカのドラマだ。グルグルと回って結局は日本アニメ好きに共感する、という不思議な体験をした。

【一方、日本で放送されているドラマ】
 いま放映中の篠原涼子主演の「オトナ女子」の視聴率が悪いことが話題になっている。第一話の出だしが凄すぎだった。マジでヒドい。

 満員電車の中、中原(篠原涼子)の尻に、隣に立っている男(江口洋介)が手に持っている封筒が当たる。痴漢されている?! と思い、中原が男をにらむと、男は「封筒が当たってるだけだろ」みたいな感じで携帯をいじって何かを検索し、出てきた画面を中原に見せてくる。その画面は「痴漢被害者の年齢別割合」の円グラフ。「40代は2%」と書かれている。

 本当に、このシーンをこうして文字で説明しているだけで吐き気がこみ上げてくるが、まだ続く。()内は私の気持ち。
 男は「ただの資料ですから」と一言(はあ?)。中原は「つまり40代には誰も痴漢しないってこと・・・」と言い終わる前に、急ブレーキがかかり、男は後ろから押され、中原はドアと男の間に挟まれ、男のシャツで口を塞がれる(一応このドラマでは痴漢してないってことになってるけど、本当にこうして痴漢に口封じられることってあるんだよ、知ってんのか!)。息ができな~い、ウプッ…みたいになる中原。男のシャツに中原の口紅がべったりつく。中原は「すみません、くっついちゃって」と、焦りながら男のシャツを自分のハンカチで拭く(え?)。自分の指につけたツバをシャツにこすりつけて必死に拭き取る中原(大正時代のおばあちゃんの取り方だろそれ)。ただ無表情・棒立ちで拭き取られながら男は「年増に痴漢扱いされたあげく、シャツに口紅までつけられるとは」と言う(なんなのほんとマジでこいつ)。そして最後は「クリーニング代お支払いしますんで」と千円札を差し出す中原(なんで?!)に、「いらないです」と拒否する男。降りる人の流れに逆らいながら、千円札を受け取らせようとする中原に男は「みなさんの迷惑になりますよ」と言う(いろいろ絡んできたあげく、最後こうやって突き放す男、ネット上にいっぱいいるよね)。ホームに取り残される中原が一言「むかつく!」

そのあとも40歳の中原が「女子」と自称することを男が批判したり、後輩の若い女性社員が陰で40歳の中原を嘲笑するシーンが続いた。
中原に対して、周りの男や後輩の女たちは「お前は若くない」「年を取っている」「それを恥じろ」「自分の年齢をわきまえろ」「お前みたいな年増は痴漢されない」ということしか言ってない。40代女性が胸キュンするドラマ、ということになっているが、これはおじさんが自分の会社にいるオツボネに言ってやりたい、言われているところを見たらスカッとするセリフを集めましたって感じがした。

 中原が仕事を頼みに行った相手が、実は痴漢データ見せつけイヤミ男(江口洋介)でした、っていう展開だったんだけど、イヤミ男はそのあとも中原に「40歳にもなった女は自分の年齢をわきまえて潔くオバサンになるのが好ましい」と言いながら「年増のお前なんて痴漢されない(この場合の痴漢は『欲情されない』という意味)」としつこく言ってた。

この「痴漢という迷惑行為」と「個人的欲情や男性的興味」を都合よく混合したり勝手に引き離したりするのは、おじさんお得意のギミックである。そこに「俺たち男に欲情されるかどうかのみが女としてのお前の価値のすべてである(価値がないものは土俵から降りて勝負をするな)」という支配的な考えを平然と持っている。この巧妙で卑劣な仕掛けを使い堂々と悪気なく女を侮辱できることこそが、男の特権である。それを「40代女性応援ドラマ」の中で延々と披露される苦痛、ハンパなくてクセになりそう。中原本人のまるでそこに無頓着な様子が苦痛をさらに倍増させる。

 そもそも電車の中で自分の荷物が他人にぶつかって迷惑がられたら謝るのが常識なんだから「すみません」で済むのに、わざわざ携帯取り出して「お前みたいな年増女が痴漢されることなどない」という意思表示するという狂った感覚の持ち主であるイヤミ男に、再会してもまたそんなこと言われてるのに、なんか普通に会話している中原。イヤミ男からの質問に、丁寧にしんみりと答える中原。そんな中原にドキッとするイヤミ男。そしてイヤミ男は「今度デートしようか」と中原の耳元でささやくのであった。「え?」と聞き返す中原に、「いやいや、そんなセリフを書いたこともあったな~」と独り言でごまかしていた(イヤミ男は脚本家なのである)。

 もしかしてこのシーン、女性視聴者の「胸キュン」を狙ってるのかもしれないけど、これはおじさん(イヤミ男)側の胸キュンを表したやりとりだと思う。
 40女に「お前なんて年増」と言っているおじさんは、40女にムラッとしてしまう自分を保護するために、普段から予防線を張っているのである。人間は、自分の年齢が上がるごとに、恋愛対象になったり性的興奮を感じる相手の年齢も上がっていって当たり前である。今までは対象外だった30代、40代に対して欲望を感じた瞬間、つまりそれは自分が年をとったということを実感する機会でもある。

 だから「加齢に嘆いて絶望するのは女だけの仕事」ということにしておけば、男である自分はまるで加齢していないかのように錯覚することができる。しかし現実では、40女相手にムラッときてしまうこともある。その時になって初めて自分の老いを認識しなければならなくなる。だけど、そんなの認めたくないから、ちゃんと誘わないで、チラッと言ってみて相手の反応を見て「いや、俺はそんなこと思ってない(おばさんに欲情するわけがない)」と言い直したりする。
 自分の加齢に向き合いたくないのは、実はおっさんのほうなのである。

 「オトナ女子」(特に第1話)は、おっさんのおっさんによるおっさんが胸キュンするために40代女を使用したドラマである。今後も見続けるぜ!


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田房永子(たぶさ・えいこ)

漫画家・ライター
1978年 東京都生まれ。漫画家。武蔵野美術大学短期大学部美術科卒。2000年漫画家デビュー。翌年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2005年からエロスポットに潜入するレポート漫画家として男性向けエロ本に多数連載を持つ。男性の望むエロへの違和感が爆発し、2010年より女性向け媒体で漫画や文章を描き始める。2012年に発行した、実母との戦いを描いた「母がしんどい」(KADOKAWA 中経出版)が反響を呼ぶ。著書に、誰も教えてくれなかった妊娠・出産・育児・産後の夫婦についてを描いた「ママだって、人間」(河出書房新社)がある。他にも、しんどい母を持つ人にインタビューする「うちの母ってヘンですか?」、呪いを抜いて自分を好きになる「呪詛抜きダイエット」、90年代の東京の女子校生活を描いた「青春☆ナインティーズ」等のコミックエッセイを連載中。

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