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羽生結弦を「宝」だと思っているのは、あたくしなんかよりもスケート関係団体のほうだと思うけど…

高山真2014.12.21

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 前回のコラムの続きのようになってしまって恐縮ですが、もう何年も、この時期のあたくしにとっては、ありきたりなバラエティ番組やドラマよりフィギュアスケートのほうがはるかに価値の高いコンテンツとなります。自分のブログを見返してみたら、2009年の段階で、ソチ五輪の銅メダリスト、デニス・テンに「ソチでこの子は来るわ!」的なことを言いながら熱くなっていたわ。

 で、今年のグランプリファイナル、素晴らしかった。羽生結弦のことはあとに置いておくとして、女子のジュニア選手の樋口若葉(13歳)のきびきびした歯切れのいい演技や、15歳でシニアにエントリーしていたラジオノワのすでに完成形に近づいているかのようなマチュアな演技に目を見張ったわ。

 本郷理華は、ショートプログラムでバレエ『海賊』の、あたくしも大好きなパドドゥの曲を、そしてフリーでは『カルメン』を使用。『カルメン』今では伝説のように語られているカタリナ・ヴィットのプログラムと、編曲もほとんど一緒。その意気やよし。間違いなく、もっともっと素敵な選手になるはずね。

 そしてジュニア男子の宇野昌磨(16歳)と山本草太(14歳)も素晴らしかった。この年齢で、ちゃんと踊れることにまずビックリ。「肩甲骨の周りから手首までを柔らかく動かすって、この年齢の男子ができるのね」と感心してしまったわ。そして宇野はパッション、山本はエレガンスをきちんと動きで表現できている。16歳で4回転をきっちり成功させた宇野はもちろんですが、山本も、14歳でジャンプを跳ぶときに体のどこにも余計な力みのない素晴らしいクオリティを備えているし、スピンはもうシニア選手の中でも上位に来るくらいの美しさがある。ふたりとも、今後は日本以外でもファンを増やしていくでしょう。

 で、羽生結弦の演技に関しては、さまざまなところで絶賛され尽くしていると思うので、後出しにもほどがあるという感じになりそうだけれど…。ショートプログラムの4回転トゥループの、着氷後のワンフットによるエッジワークの見事さとか、エントランスにも着氷後にもエッジワークを組み込んでいるトリプルアクセルの凄まじさは、本当に言葉が出てこなかったわ。フリーは、最後のルッツで転倒があったものの、プログラム全体を見れば間違いなく、歴史上で1,2を争う密度の高いプログラムだし。

 さて、これも散々言いつくされていることなので、いまさら書くのもアレですが…。今回のグランプリファイナルは、羽生が、上海で行われたグランプリシリーズの中国杯でケガをしたときに出場を強行し、2位を勝ち取ったからこそ出場できた大会です(トップ選手たちは、グランプリシリーズ6大会のうち2大会にエントリーし、その総合順位でファイナル出場者が決まるため)。ついさっきまで、口を極めて羽生のファイナルの演技を褒めちぎっていたあたくしですが、この事実を思うと、やはり複雑な気持ちになります。

 アスリートが一般人にはできない無茶をするのは万国共通。自分の出番が近づいていたら、たぶん羽生に限らず多くのアスリートが出場の意志を示すでしょう。だからこそ、歯止めをかける存在がいなければいけない。羽生のことを大事に思うなら、あえて誰か(特定の個人というよりも、もっと大きな存在ね)が汚れ役を引き受けなきゃいけなかったと思うの。「自己責任」というのは日本人が大好きな言葉ではあるけれど、「最終的に『個人』がすべての『負のリスク』をしょい込むことになるかもしれない。そんなリスクをいかに避けるか」が、大事になってくるんじゃないの? 企業にしろ、スポーツの団体にせよ、国家にせよ。

 何度も言いますが、グランプリファイナルの羽生は素晴らしかった。けれども、その結果ありきで上海の羽生の決断を美談一辺倒にまとめようとした佐野稔と松岡修造にはゲンナリ通り越したわ。そして、感動屋で箸が転がっただけで泣くような織田信成が、この「美談! 感動!」の流れにいままで一切乗ってきていないのも印象的。あたくしの中で、織田信成の芸術点は6.0ね!(旧採点方式による) まあ、修造は上海での事故直後は「棄権すべき」と主張していたはずだけれど、どこで宗旨替えしたのかしら。

 修造が全米オープンでコルダとの対戦中、全身けいれんに近いような状態になって棄権をしたとき、当時のルールのせいで、審判から「マツオカは一定時間を超えてもプレイを続けられないため失格」という宣告がなされるまで、コート上で誰からも助けられることなく全身を襲う痛みに翻弄されるばかりだったでしょ。あれが仮に「筋肉の痛み」でコートに横たわったのではなく「心臓疾患」が原因だったとしても、「誰からも助けられることがなかった」のは同じだったはずよ。ATP(男子プロテニス協会)とWTA(女子テニス協会)は、あの悲惨な結果を受けてすぐに「何かの怪我が発生した場合、いったん試合を止めてメディカルスタッフが介入できる」というルールを作った。個人(この場合は選手)を守るために、大きなもの(この場合はテニスの団体)はルールを作るの。それが健全なあり方でしょうに。

 あたくしは、自分の好きなスポーツで、選手たちが長く競技生活を続けられることを第一に願っているわ。前回のコラムで「嫌いな選手はいない」と書いたフィギュアスケートであれば、なおのことよ。今回のことが、選手の体を第一に考え、かつ、突発的なアクシデントでひとつの大会をスキップしたくらいでは今後のスケジュールにさほど影響を及ぼさないようなルール作りを考える契機になってくれることを切に望むわ。

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