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「従う人々」

茶屋ひろし2016.07.07

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 暑くなってきましたね。地球上には50度を超すところもあるそうですが想像もつきません。大阪がそんなことになるまでには死にたいと思います。

 これまで勤めてきた様々な職場での私の勤務態度はひどいものでした。ひとつ前のゲイビデオショップでは、昼下がりに、レジカウンターの中で好きなCDをかけて買ってきた本を読んでタバコまで吸っていました。
 その前に働いていた喫茶店では、深夜、レジのそばで卵サンドを食べてアイスコーヒーを飲みながら新聞を読んでいました。
 その前に勤めていたバーでは、一人になったとたんにワインを空けて眠くなったら寝ていました。

 もちろん雇い主にばれないように誰も見ていないときにそういうことをしているのですが、お客さんには見られていたと思います。
 加えて寝坊による遅刻も多かったので、よくクビにならずにいたものです。

 だからというわけでもないのですが、いま本屋の店長になって15人くらいのスタッフを見ていると、さぼっている様子がよくわかります。それぞれのさぼり具合は違いますが、だいたい私がやってきたことなのです。
 まだタバコを吸ったり酔っぱらったり寝てしまわないだけマシです。

 政治や教育や福祉と違って、できない、しない人に合わせるのではなくて、できる人、する人に標準を合わせたほうが、話が早い、と気が付くまでにしばらくかかりました。周囲がそっちに引っ張られるからです。

 それでも、できる人に合わせてみんなのレベルを引き上げることは簡単ではなく、なんでこれまでこれでよかったのにダメ出しされなあかんねん、と言うところを納得してもらうためには、あの手この手で時間を要しました。

 最後まで尾を引いたのが時間を守れないところで、出勤と退勤、そして昼休憩のときに、すっと入れない、ぱっと切り上げられない、各々のペースで運んでしまう自由さに、なんど声をかけても注意してもお願いしてもらちが明かない人が二人ほど残るので、三回したら減給します、としたところ、ぴたっと止みました。

 罰則かよ、とその効果よりも、決めてよかったのか、と驚きました。
 しかも二人は長く働いているツートップでした。

 まだ仕事が残っているのに、これじゃあ休憩に行けない、とか、帰れない、というのが彼らの理由で、さぼっているわけではなくむしろその逆です、というアピールでしたが、いやいやそれでも時間が来たら終わりにしてください、そのためにはどうしたらいいのか仕事量を配分してやってください、と言いながら、彼らがまた、人に仕事をうまく頼めない、引継ぎできない性分であることもわかってきたので、そのあたりを助けていたら、助けているだけで終わります。少しは自分でなんとかしようという気がないのかしら、と言いたい気持ちを抑えて、はい、休憩行ってください、はい、あがってください、を繰り返してきましたが、結果、タイムカードをチェックするという罰則が効きました。

 従いたくないからマイペースを崩さないものだと思っていたのですが、悪いと思っていなかったからそうしていた・・、ところが罰則を設けたところで、それが悪いことになったから従った・・そういうことですか。

 悪いとまでは言っていませんでしたが、各々のペースで時間を都合されると困ります、とは何度も言ってきました。自分が言われているとは思っていなかった? そんなばかな。

 対話がとれていない、かみ合わないことは他にもあって、ついに私は、土俵が違うんだわ、と大方のこと(意思疎通)をあきらめることにしました。
 立っている土俵が違うから、理解してもらうことが困難になるのです。
 それでルールや規則が必要になるのかと実感しました。

 それでもほかの13人の人たちは、理解してくれたかどうかは置いといて、罰則を設ける前に実行に移してくれていたわけで、彼らにはとんだとばっちりでした。朝礼で罰則を発表したとき、つい「残念なことですが」と嫌味が出てしまいました。もっと早いこと私の言うことを聞いてくれていたら、こんなもの作らなくてもよかったのに・・、という意味です。
 件の二人は難しそうな顔をして聞いていました。

 それにしても、職場というところは民主主義とは程遠い。社員の言うことは聞くが最終的には社長が決定権を持っている。そうすると社員は従業員ということになり基本的に立場が弱くなるので、労働者としての権利が守られる必要がある・・。

 時間を守ってください、というルールはそんなに労働者を抑圧することではないと思っていますが、それを聞いてくれない場合、こちらが加害者になったような気になるのはなぜかしら。
一分単位で時給が出るから、非正規のスタッフにしてみれば、居残ったほうが給料は増えます。たぶんその機会を奪ったせいです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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