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No Women No Music 第23夜 歌に賭けた自尊心/ダーレン・ラヴ

ほんま えつ2015.12.07

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新宿のタワーレコードをふらついているとダーレン・ラヴDarlene Loveの新譜のジャケットが目に飛び込んできた。アルバムのタイトルは『イントロデューシング・ダーレン・ラヴ』“Introducing Darlene Love”。なにをいまさら、というようなタイトルと思いながらも、膝を打つ。ダーレン・ラヴと聞いてピンときた方はおそらくあの映画を御覧になっただろう。2013年アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞の『バックコーラス歌姫(ディーバ)たち』だ。映画中、主役級でフューチャーされていたあのダーレン・ラヴなのだ。

店内ですぐに試聴してみる。オープニングから湧き立つようなぞくぞくするロックチューン。それもそのはず、このサウンドは私が80年代熱中していたまさにアメリカンロックサウンド。ブルース・スプリングスティーン、スティーブ・ヴァン・サンド、エルヴィス・コステロといったそうそうたるメンツが曲に名を連ねている。いまごろ、遅すぎない?ダーレンの才能を褒めちぎりながらもいまになってやっと彼女をリスペクトしてきた彼らがダーレンを持ち上げるかのようなアルバムを作ってあげた…。当初、迷いもなく彼女のCDを買い求めながらもそんな意地悪な見方をしていた。

家でじっくりと彼女のアルバムに耳を傾けているとそんな斜に構えた思わくなんて吹き飛んだ。ほれぼれするようなダーレン・ラヴの歌声に夢中になる。先にあげた世界のスーパースターであるスプリングスティーンもここ一番の味わい深いポップな数曲をこのアルバムに捧げている。ティナ・ターナーの十八番であった「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」。ダーレンの歌いっぷりはティナに勝るほどの高揚感。アルバムの解説によると、このアルバムに参加したミュージシャン達がかねてからダーレンと親しく、しかしそれぞれみな忙しくダーレンのアルバムづくりに取り掛かれなかったらしい。でもきっと映画『バックコーラスの歌姫(ディーヴァ)たち』の反響がこのアルバムづくりを後押ししたはずだ。私もこの映画を観ていなければこのアルバムに巡り合うチャンスを逃していたかもしれない。

ダーレン・ラヴは60年代、フィル・スペクターというビートルズのプロデュースをも手掛けた名プロデューサーと出会いクリスマスソングの名唱を残すも、ダーレンとは別の他人名義でレコードを発表される。80年代に入り安定したバックコーラス稼業をやめソロとしての道を歩み始めるがスターになるには困難な道のりが続く。鬱になり両親に子どもたちを預け、楽しみは教会で歌うこと。生活のために家政婦の仕事をしていたとき、他人名義でだされたダーレンの歌うクリスマスソングがラジオから流れだす。そのとき〈あなたの仕事は歌うこと〉、そう思った彼女はニューヨークに戻り再び歌う仕事を追い求める。

映画の中である学者が「音楽業界で黒人女性は重要な存在、でも自分を見失い現状に甘んじているとどんな女性でも消耗し始めると思う」と語っている。消耗しかけていた、いやすでに消耗していたかのようなダーレンを再び奮い立たせたものは、ラジオから流れた自分の歌声だった。歌うことへの揺るぎない自尊心がダーレンを支えていたのではないだろうか。「ソロ歌手になるにはエネルギーが必要、エゴも強くないとね」と映画に登場する女性歌手のひとりリサ・フィッシャーは語っている。

70年代に入り、ローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイなどイギリスのロックスターたちが黒人女性のバックコーラスを雇うようになった。このころロック音楽も複雑で豊かなものになっていく。かつては目立たないことを要求されたバックコーラスの女性たちがロックでは素のままでいい、個性を露わにするほどステージを盛り上げ喝采をあびていく。

このダーレン・ラヴのニューアルバムも、ロック色を強く持つことで彼女のポテンシャルをグングンと引き出していったようだ。『イントロデューシング・ダーレン・ラヴ』には、リンダ・ペリーとジョーン・ジェットといういつかぜひここで取り上げたい魅力あふれる2人の女性ロック・アーティストも参加している。74歳にして改まって自らを紹介するにふさわしい満を期した会心のダーレン・ラヴのニューアルバムなのだ。





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ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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