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本が多すぎる、それでも本が好き

打越さく良2016.03.21

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本の不思議な力
 私の趣味は仕事、しかしその仕事があまりにたてこんでその時間が取れなくなると気持ちがささくれだつ…それは読書の時間。面白そうだ~!と思うとついゲット。最近積読の山の増強スピードにおそれをなし自重しているものの、やはりつい買ってしまう。このままでいくと死ぬときにはどれほど未読の本の山が残されるのか…と嘆息しつつ、すかさず、ここぞというときにネット上「品切れ」となっていることもあるから…とすかさず言い訳して、ついつい…。

 どうしてそんなことに?本の「不思議な力」に魅入られてしまっているからだ。原ミナ汰・土肥いつき編著『にじ色の本棚 LGBTブックガイド』三一書房 の「はじめに」に直球ストレートにこうある。「本には不思議な力があります」。たとえば、「道に迷ったときに、行き先を指し示す道しるべの星のような力」、たとえば、「人と人をつなぐ“もやい”のような力」、たとえば、「自分のまわりにあるモヤをふりはらう太陽のような力」。
あるいは、河出書房新社編集部編『10代のうちに本当に読んでほしい「この一冊」』河出文庫ホンマタカシが内田百閒著『東京日記』を紹介する文章でこう言っている。「東京で仕事をしていると、残念ながら嫌なことやガッカリすることがあり、不必要にイライラすることがあります。我慢ならないことがしばしばあるんです!」そんなときに、家に帰って寝る前に風呂に入る。風呂場の棚にある百閒の本を手に取ってなんの気なしに適当な頁を開いて読む。そして、お湯につかってストレッチでもしているうちに、「アレ?昼間に頭にきていたのはなんだっけ?さて?ふー、まあいいや、どうでも…」という気持ちにだんだんなってくる。本って確かにそんな力もある。

読書方法
 その昔、私は大学院で一応研究者を目指していたことがあった。そのときある教授から「学問のプロならば、一冊の本のどこを読むべきかわかる。最初から最後まで一字ずつ読んでいくなんて愚の骨頂」と言われたことを時折思い出す。そう聴いたあとも、(とんでもなくつまらない本以外は)最初の一字から最後の一字まで順々に読んでいく。注ももらさず。愚の骨頂、上等。効率重視の読書は、私にとっての読書とはベツモノ。そういえば、先ほどの発言を伝聞できいた他の教授がニコニコと「それは、ヒットラーの読書の方法だね」と切り捨てていたなあ。セットで思い出す発言だ。
 しかし、そんなに愚直に読んでも、読むはしからほとんど忘れてしまう。大学に長々いたのに、上記の教授たちの発言くらいしか記憶にないように。ん?そうなると、読むという行為はなんなのだろうか?施川ユウキ著『バーナード嬢曰く。』一迅社で、高校の図書室の常連ながら読書はさしてしていない町田さわ子が『カラマーゾフの兄弟』を手にして「一度も読んでいないけど私の中ではすでに読破したっぽいフンイキになっている!!」と叫ぶ場面に笑う。笑う私は、間違いなく、『カラマーゾフの兄弟』を読んだ。あれ。でも今粗筋を話せと言われてもきっとウイキかなんかをこっそり確認してしまう。「読破したっぽいフンイキ」では町田さわ子に劣ってしまいそうだ….。

 恥じることはない。人間には記憶力に限りがある。読書とはどういうことなのか。ピエール・バイヤール著・大浦康介訳『読んでいない本について堂々と語る方法』筑摩書房は、楽して読書家のふりをしたい町田さわ子が飛びつきそうなタイトルだ。逆に、読まないで語ろうとするなんて!と『バーナード嬢曰く。』の図書室の常連でSFを中心にガチの読書家である神林しおりなら鼻白むかもしれない。が、町田には残念なことに安易なハウツー本ではない。「これ一冊あれば、とっさのコメントも、レポートや小論文、「読書感想文」も、もう怖くない。」との宣伝文句も罪作り。全然、この本を読んだからといって、さらさら読書感想文を書けることはない。しかし、「趣味は読書。」というのは無趣味のようで恥ずかしく小声でぼそっと言う私のようなタイプには、読書がいかに創造的な行為かを語ってくれるこの本は心強い。ある本を「読む」ということはどういうことなのか。私たちが、生のテクストを読む、ということはない。他の人の評価や時代的背景etc.のそのテクストに関連する様々な言説や、自分のそれまでの経験とともに、それを読み、自分自身の「内なるテクスト」を創造しているのだ、と論じてくれているこの本は。それでいて、真摯に書物に向き合う大真面目な態度しか許さないという偏狭なものでもない。「知ったかぶりするし、本に対する経緯が欠けているし、怠惰だし、こらえ性がないし、バカだし」という町田さわ子を初めは嫌っていたが、そのうち「時どきある種の純粋さを見い出す」という神林(施川ユウキ著『バーナード嬢曰く。②』一迅社)に、本著の著者バイヤールもきっと頷くはずだ。重苦しい読み方をそうはできなくても、本が好きだし、読書家だと名乗っていい気がしてくる。

めくるめくブックガイド
 しかし、仕事は忙しい。雑務も多い。そうそう本ばかり読んでいられない。そんな私にとって、ブックガイドは便利。「本が多すぎる!人生は短すぎる!」と苦悩しつつ、「それでもいつかは私も読めるかも」とわくわくする。たとえば、と今回はブックガイドを取り上げるはずが、もうこんなボリュームにはってしまったので、駆け足で。
酒井順子の書評集のタイトルは、ずばり、『本が多すぎる』文春文庫 。「鋭利すぎてコワい」というほどではない適度な皮肉。猛毒というほどではない毒のあるユーモア。上野千鶴子や小倉千加子(愛読しているらしい)らフェミニストたちの名前を何気なくひんぱんに登場させ、その言説がもっともなものであることを前提に軽やかに綴っていく。連載の媒体が週刊文春という血気盛んな見出しが躍るオヤジ雑誌ということも考えれば、相当の手練である。と、ついフェミニスト的なところに注目してしまうが、それはこの本のごくごく一部。世の中まだまだいろいろな本がある、読みたい読みたいっ(でも追いつかない…)という気にさせられる。たとえば、一流大学を出て大手広告代理店で働いていた女性が歌の勉強をするためNYへ行ったがそこでひょんなことから人を揉む人生になったという『もんでニューヨーク』。「待つ」という行為そのものへの愛情が感じられるという『東京待ち合わせ案内』。「名簿好き」(私はそうではないが)にはたまらない『日本の女性名』。『東京女子高制服図鑑』の森氏によるイラスト付きの『チマ・チョゴリ制服の民族誌』。ミリメシ(戦場での食事)の本によれば、トイレが汚い軍隊は弱い軍でもあるとか。

先ほど挙げた、『にじ色の本棚 LGBTブックガイド』には、1冊たった見開き2頁ずつのレビューだが、執筆者が、自分に問いかけ、悩み続け、あるいは、他者と出会う中で傷つき、気づいてきたこと、すなわち人生を生きてきたことが凝縮されていて、揺さぶられる。性的志向、性自認の基盤となるセクシュアリティ。セクシュアルマイノリティは、社会的に認知されていないからこそ、「自分とは何者か」をとことん自問自答して成長することが多い。しかし、多数派といわれる性別違和のない異性愛者も、生きていく上で、「自分とは何者か」を考えていくことは、必要なプロセスのはずなのだ。その問いを考えていく上で手がかりとなる本の数々が紹介されている。そして、「多様なものさし」が文化を、社会を豊かにしてきたことにも目をひらかれる。ぞして、社会のなかで様々な不具合を感じるマイノリティだからこそ、社会のいびつさに気づき、制度のよりよい形を提言できることにも。
おっと、書評といえば、毎年楽しみにしている月刊みすず1・2月合併号の読書アンケート特集http://www.msz.co.jp/book/magazine/201602.html についても熱く・厚く取り上げたかったが、諦める。

十代に勧めたい一冊なんてない
 大人は夕食の準備やら仕事やらで本当に忙しい。授業やら友だちづきあいやら習い事やらで忙しいと思っていた学校に通っていたあのころ、圧倒的にひまだった。机の下に本を隠して読書できるくらい、体力があった。しかし、大人になったら、「読むのに覚悟がいる本」が増えていく。そして、ありあまる体力というのは、自分を知らないこと、自分のキャパシティを知らないということにもよる。大人のほうが、理解力が増しているだろうに、だからこそ体力がないのも悟ってしまっている。皮肉なことだ。こんなふうに書く、先にあげた『10代のうちに本当に読んでほしい「この一冊」』中の角田光代さんのレビューは、私が書いたもののようだ。だから、十代に勧めたい一冊なんて、ない。自分自身で本の森に分け入って探す体力があるのだから、とも角田さんは書く。
それでもそう終わるわけにいかないと角田さんがあげた本が佐野洋子さんの『問題があります』ちくま文庫というのも、佐野洋子中毒の私には、ぐっとくる。佐野洋子のエッセイの素晴らしさというのは…。おっと止まらなくなりそうだから、ここでブレーキ。本当に、本の話は止められない。

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打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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