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No Women No Music 第34夜 ボブ・ディランのこと、ちょっと書いてみました。

ほんま えつ2016.11.07

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 ノーベル文学賞発表の数日後、都内の名画座で見逃していた『アイム・ノット・ゼア』(I’m Not There)を観た。2007年のトッド・ヘインズ監督がボブ・ディランにインスパイアされて創り上げたボブ・ディランを5人の男優と1人の女優が演じるという映画だ。

 ケイト・ブランシェットが1966年頃のボブ・ディランを男装して演じたジュードというミュージシャンに目が釘付けになった。アレン・ギンズバーグとも親交を持ちビートのカウンター・カルチャーに影響を受け、ロンドンではビートルズのメンバーとふざけあい、フォークギターをエレキギターにもちかえて下手くそな爆音ロックでブーイングを浴びながらもしてやったりとした表情のジュードことボブ・ディラン。いつも髪の毛がもしゃもしゃで、肩をすくめてタバコをくわえ、正気なんだかラリってるんだかわからないボブ・ディラン。彼に批判的な質問を投げかけるジャーナリストに鋭いユーモアで煙に巻き、ひねくれ者のおしゃれでかっこいいボブ・ディラン。そんなボブ・ディランをケイト・ブランシェットが何の違和感もなくほんとうに楽しそうにいきいきと演じていて、しかもそっくり!あ~ボブ・ディランってこんなにお茶目でやんちゃなオトコなんだって思わせる。そういや、ボブ・ディランのラジオ・ショーを初めて聴いたときにも、選曲が俗っぽくて、ディランのおしゃべりがあかるくはしゃいだ感じでびっくりしたものだった。

 この映画のサウンドトラックではいろんなアーティストがボブ・ディランの曲をカバーしている。エンドロールの最後に流れる曲がアニーノことアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズ(第30夜参照)が歌う「天国への扉」(Knockin’ on Heaven’s Door)。さすが『ベルベット・ゴールドマイン』、『キャロル』のトッド・ヘインズ監督だ。すばらしい。『アイム・ノット・ゼア』製作時のトッド・ヘインズ監督は「いろいろ調べている時、ディランがジュディ・ガーランドに共感していて、彼女と同じ情熱を感じる、音楽的にも影響を受けているなんてくだりもあったんだ…」とも語っている(キネマ旬報№1506)。

 1970年代のニューヨークのブルックリンでゲイの男性が育児放棄された障害児を育てた」という実話に着想を得て製作された2012年のアメリカ映画『チョコレートドーナッツ』(トラヴィス・ファイン監督)の原題“ANY DAY NOW”は、ボブ・ディランの名曲「アイ・シャル・ビー・リリースト」の歌詞からとられたものだろう。主演のアラン・カミングが歌手として認められる場面で歌い上げた「アイ・シャル・ビー・リリースト」に胸が熱くなった。

 わたしが10代ではじめて聴いたディランの歌う「アイ・シャル・ビー・リリースト」、セクシュアリティに悩み苦しんだときに聴き狂ったトム・ロビンソンの歌う「アイ・シャル・ビー・リリースト」、日々の暗いニュースに絶望したときに聴いた忌野清志郎の歌う「アイ・シャル・ビー・リリースト」、そしていま差別と排除と忘却が蔓延し街全体がまるで塀のない監獄の中にいるような息苦しさから逃れるために聴くニナ・シモンの「アイ・シャル・ビー・リリースト」。

 I see my light come shining
 From the west unto the east
 Any day now, any day now
 I shall be released.

 この詞を口ずさむたびに、まだ踏ん張れる気がする。大ファンではないけれど、人生の折々にボブ・ディランの曲がある。ボブ・ディランはいつもここにいる。「そこ」にいない、けどここにいる。

 ずっとレコードで聴いていたボブ・ディランのアルバム。引っ越しの際にすべて売ってしまった。でもいま頭の中でボブ・ディランの歌声がとめどなく反芻する。マイ・オール・タイム・ベストは「ライク・ア・ローリング・ストーン」。聴く度に自分自身に問いかけている、“How does it feel”と。

Bob Dylan and Norah Jones - I Shall Be Released (Live)


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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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