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 この間、ユノが、いつものあの変な赤い色の軍楽隊の制服を着て、オーケストラをバックに、ソロでとても切ない感じの歌を歌っていた。それが、彼に、彼のちょっと繊細な声に、とっても合っていて、すごく引き込まれた。軍人ユノのステージを、最近はよく見るようになってしまった。最初は坊主頭の彼を見るだけで悲しかった。ユノが東方神起の歌を軍楽隊の人たちと一緒に披露したり、スターには到底そぐわない簡易なステージに立っているのも、見るに堪えなかったのに。いつからだろう。去年よりは、彼が軍隊の中での立場が上がって、ステージ上の演出なども決められるようになっているようだし、髪型も少し伸びて、少しましになってるのもあるのかも。いや、ユノを取り上げられすぎて、飢えて、あんな姿でもユノを見たくて仕方ない状態にさせられたからか。だけど、何より、わたしが、この状況に慣れたんだ。

 10月、陸軍が基地を一般市民に開放して行う大々的な軍の広報イベントがあった。そのフェスティバルには、出演するユノの姿を見るために、約2000人ほどのファンが、国内だけじゃなく日本や中国からも押しかけた。この約1週間にわたる大イベントで、ユノはダンサーを引き連れ、連日ステージに立ち、東方神起の曲などを歌って踊ってかけまわり、存分にファンを観客をたのしませ、会場は、コンサートさながらの盛り上がりを見せていた。

 そのフェスティバルでは、彼は演出にも関わっていたようで、一緒に準備に励んだたくさんの若い兵隊さんたちが彼を慕い群がり、その仲間たちとたわむれるユノの笑顔はすごくまぶしかった。どこにいても一生懸命な彼は、いつでも人を惹きつけて、若い子もおじさんたちも彼の周りにいる人たちはみんなどこかうれしそうで。軍隊ってとこはそんな生易しいところではないはずなのに、上司や仲間と一緒に、なごやかな雰囲気の中で、生き生きと充実した時間を精いっぱい過ごす、そんな彼の軍隊生活の一面も、ファンは存分に見ることができた。ステージの演出などにも挑戦し、たくさんの仲間ときずなを深めながら、大きなイベントを無事に成功させる、そんな経験ができて、ユノよかったね、と思ったファンも少なくないはず。

 これって、最高のプロパガンダなんじゃないだろうか。国歌や軍歌を歌ったり、太極旗を振ったりなど、直接的に愛国心をあおるようなことよりも、人気スターのユノがヒット曲を歌うことや、はつらつと活躍する姿を見せることの方が、軍隊のイメージをソフトにし抵抗感を薄れさせるという意味で、効果は絶大なんだ。そして、ユノが輝いていればいるほど、そのプロパガンダは大成功なんだろう。

 坊主頭の彼を見続けて慣れていく、軍人としてステージに立つユノをふつうに堪能するようになる、それから、軍隊でもある意味良い経験もできるなどと思う。わたしはぜったいに軍隊ってものを肯定することはないって思ってるけど、でも、どうなんだろう、慣れていくってこわいはず。そういうところから、なんとなく軍隊は兵役はそういうものなのだと、仕方ないものと受け入れ、軍隊や戦争なんておそろしいと反対する気持ちが知らず知らずのうちに削がれていってしまうのかもしれない。こういうことがまさにプロパガンダ、まさに国家の意図するところなはず。

 彼が着ていた、一見シックでかっこいい黒いTシャツの背中のKOREA ARMYというロゴ、袖についてた太極旗ワッペン。首からのぞくドッグタグの鎖。必ず、始まりと終わりに、「コンギョッ(攻撃)!」とか「チュンソン(忠誠)!」ってある意味すごくクールに決める敬礼。彼は今、軍隊に忠実に従う身であり、つまり、そのステージは国家のためのもの。どんなに歌でパフォーマンスで観客を楽しませても、それは、いつもの東方神起のステージのようなファンのためのものではない。

 いくら、兵役は国家の暴力だ、とか、軍隊なんて非人道的だといっても、ない方がいいと言って簡単にかたづく問題ではなくて、この仕組みや構造を変えていくにはどうしたらよいのか考えると途方にくれるけど。だからといって、仕方ないとあきらめてしまえば、それが変わることはなく、それどころか気づかぬうちに、ますます状況はわるくなっていくはず。必要悪として武力を肯定することや、国を守るっていう「正義」でもって人を殺すことが正当化される、なんてやっぱりまちがっているし、こわいと思う。ユノが敬礼する姿なんてほんとに見たくなかった、ユノが戦う訓練をしてるなんてほんと悲しい、ユノが戦争に駆り出されるなんてことがあったらほんとうにたえられない。兵役なんて軍隊なんて戦争なんてない方がいいという思いを持ちつづけ、言いつづけていくことは、大事なことだし、それだけでも、ちゃんと意味があるはず。ユノの美貌が、ユノという人の誠実さが、軍隊の美化に利用されるなんて許せないから、そんなプロパガンダにはなんとしても抗わないと。

 坊主頭でも軍隊の制服に身を包んでいても、かなしいほど、ユノはかっこよくて、ファンを、観客を魅了する。いま、彼がステージで見せる笑顔にはどんな意味があるのだろう。軍隊に忠誠を誓わなくちゃいけない立場ではあっても、彼は、彼にできる限りのことを尽くそうと、それでも、ファンに、人々に、なにかを伝えようと、懸命にステージに立っているのかなと思う。彼の歌が、わたしたちの心に、じかに、深く届くものであるのも事実。もちろんそれが利用されるからこわいんだけど。だけど、それが軍隊の意図するものとはちがうなにかを、人々の心にもたらすことだってあるかもしれない。軍隊にいても、つねにまっすぐに、一生懸命がんばっているユノの姿から、何を、どう感じ取るかはわたしたち次第だ。

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おのゆり(おの・ゆり)

大学院生。
1974年生まれ。東京出身。女性学修士。2012年に渡独し、現在、大学のジェンダースタディーズ博士課程で、フェミニズムや女性運動について研究中。もうそんなに若くもないのに、ひとりドイツで、貧乏学生生活送ってます。トンペン歴8年。 

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