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見捨てられる「自主避難者」・復活する原発広告

打越さく良2017.01.24

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「自主避難」という言葉で見えなくなる避難者の困難
 「自主避難者」への仮設住宅等の無償提供が、今年3月、打ち切られる。この問題への関心は、高いとはいえない。「自主避難」という言葉が、「自分で勝手に選択をした」かのような印象を与え、問題の深刻さをわかりにくくさせているのではないか。吉田千亜著『ルポ母子避難 消されゆく原発事故被害者』(岩波新書、2016年)を読めば、避難指示区域以外から避難した母子も決して「自主的」に避難したわけではないことがわかる。本著は、母親たちが、放射線による影響を受けやすい子どもを守るため、やむなく避難し、生活の激変から様々な苦難を経験してきたことを丹念に取材し、伝えてくれる。そしてまた、国や福島県などの施策や東京電力の対応にどのような問題があり、何が望まれるかも浮かび上がらせる。

 utikosi20170124-3.jpg「自主避難」という言葉の弊害は実に大きい。避難指示がない避難は「自己責任」である、という意識を、避難者自身にも植え付ける。そうすると、たとえば、借上住宅を住み替えたくても、行政に申し出ることを躊躇してしまう。「自主的」に避難したことから、安全も心許ない住宅でも借り換えを申し出ることすらしない。事故直後の慌ただしい状況で借上住宅をゆっくり選ぶ余裕はなかった人は多い。不都合が判明しても、「自己責任」と自ら縛ってしまう。あるいは、申請しようとしても、判断者が福島県なのか避難先の自治体かあるいは雇用促進住宅やUR住宅の場合には厚労省や国土交通省の外郭団体のいずれが関わるのか、途方に暮れる場合もある。「他の人も我慢している」という悪しき平等原則で抑制されてしまう。

 「自主避難」という言葉は避難者を分断し、孤立させる。避難生活が長引き、いらだちが募ってくると、自主避難者の子どもたちが声をあげて遊ぶ様子に避難指示区域からの避難者に露骨に嫌な顔をされるようになり、中には「うるせぇ!帰る場所のあるやつは帰れ!」と罵られたりもする。避難者以外の人からは、「いいわね、避難者は東電からお金をもらえて」と邪推されもする。このような扱いを受け、子どものために避難した女性が援助を求めることなく自分で解決しなければならないと自分を追い詰めるようになってしまう。
 それまで親密だった関係も分断される。子どもを守るために避難は当然であり、夫も同様に理解してくれている、と思っていた妻は、福島に帰った夫から、「そっちの生活はそっちでなんとかしてくれ」と思ってもみなかった「兵糧攻め」をされてしまう。別々に暮らしているうちに、夫が他の女性と関係を持ってしまったケースもある。夫の両親のどちらかがひそかに母子避難について取材を受けた新聞記事の自分の写真に赤いペンで×をつけ、「ふざけるな」と書きつけているのを見て、血の気が引く…。
 孤立する中でお酒を飲むほかなくなった女性。チェルノブイリ原発事故の避難者もお酒に溺れる人が少なくなかったと聴いたことがある。自分の生活が根こそぎ失われた人が孤立したままでは、お酒に頼らざるを得ないことになる。それは、適切な援助の手を用意していなかった社会に問題がある。それなのに、「ダメ人間」と自他ともに烙印を押す…。

 知人の渡辺淑彦弁護士も登場する。彼は、「自主ではありません。怖くて逃げたんです」と明言できる。3月12日に一号機が爆発したとき、子どもたちにかっぱを着せ、ぬれマスクを二重にさせ、避難した、「自主」なわけはない。いつ避難したら、「自主」なのか。大まじめに原賠審で2011年4月前半だ、半ばだ、との議論があった。しかし、考えた末に避難せざるを得なかったその決断を、2011年4月半ばで区切る意味などあるだろうか。

 「正しく恐れる」という言葉の欺瞞。年間20ミリシーベルト以下の地域は避難する必要がない、と決められたら、「科学的根拠」の立証責任は「自主」避難者に課されてしまう。不安は、合理的に解明できないからこそ感じるのだ。子どもたちが長期間低線量被曝にさらされたときどのような影響があるのか、結論が出ていないのに不安を「正しくない」ということはできない。
 政策をとりまとめるはずの省庁間では、「押し付け合い」が行われている。厚労省は「復興庁で検討すべき」、復興庁は「東電が賠償を」、東電の監督官庁である経産省は「東電の賠償で自主避難者の家賃負担を支払うことは困難」、福島県は「国の枠組みで」。市町村は「県で」…。たらい回しである。
 原発ADRの利用は地域によって差があった。地元の弁護士会の姿勢に違いがあったことがうかがえる。ADRに弁護士会が積極的に取り組んでいた新潟県。そうではない地域…。しかし、小林玲子弁護士がシャカリキに動き出したことにより、熱心ではなかった埼玉弁護士会の事態が変わったことを知り、涙した。

凄まじい量のPRで再び麻痺しないように
 私たちは、3.11前まで、「原発は安全だ」と思い込んでいた。なぜ?原発というシステムはきわめて不完全で、度々事故が発生してきた。その上、日本は世界有数の地震大国で、原発を設置するのは全く不向きな地域。原発推進には致命的な欠陥があるというのに、というか、だからこそ、徹底的に、何が起きても絶対安全、事故など起きるはずがないという「神懸かりともいうべき安全神話」が流布された。この徹底的な流布のありようを、本間龍著『原発プロパガンダ』岩波新書、2016年は明らかにする。「プロパガンダ」という言葉は一見大仰に思えるかもしれない。しかし、本著が詳らかにする、巨額な広告費を注ぎこみ、繰り返し繰り返し原発の必要性、安全性を説き、私たちが漫然と原発推進への是認意識を植え付けた広報戦略は、まさに、プロパガンダである。独占企業である電力会社は、全ての経費を原価に計上できる総括原価方式であるため、宣伝広告費をすべて原価とし、電気料金として利用者に請求することができた。事実上青天井の予算を持っていたのと同じ。利用者は他の電力会社を選べず、言われるがままの金額を支払うしかない。原発に反対する人からも電気料金は徴収され、その金員も原発プロパガンダに充てられる。

 utikosi20170124-2.jpg電力会社だけではなく、電気事業連合会(任意団体のため活動内容と予算が公表されていない)、経産省・資金エネルギー庁、環境省などの政府広報予算などもあわせれば、約40年間にいったい何兆円の広告費が投じられたか。この巨額の広告費は、受け取ったメディアに原発に好意的な番組を作らせるという賄賂にもなり、また原発の危険性を真摯に取り上げた番組をつくることを萎縮させる脅しにもなった。実際、電力会社等から、地方紙やテレビ局に圧力が加えられ、反原発の番組制作スタッフが突如営業に回されたり、報道制作部が解体されたり、社長の首まですげ替えられたりといった事件は枚挙に暇が無い。テレビ局にとっても新聞社にとっても、電力会社は最大級のスポンサーであり、その力の前に、真摯な報道は潰された。電力会社等原子力ムラの代理人として、メディア各社との交渉窓口となったのは、電通と博報堂に代表される大手広告代理店だ。日本の広告業界の非常にいびつな構造もまたメディアを弱い立場におく。すなわち、欧米では、寡占を防ぐために、一業種一社制(一つの広告会社は同時に二つ以上の同業種他社の広告を扱えない)をとっている。
 どの業種でも上位2社が全てのスポンサーを得意先として抱えることができるという寡占化に歯止めがない。さらに、欧米では、広告会社が「スポンサーのためにメディアの枠を買う」というスタンスだが、日本では「(メディアのために)メディアの枠をスポンサーに売る」というものなのだという。メディアは、電通・博報堂に「広告を売ってもらう」という弱い立場にあり、二社に反抗できないことになる。反原発報道を望まない原子力ムラの意向は両社によってメディア各社に伝えられる。すなわち、電力会社等の表向きカネ払いのいいスポンサーには、いったんご機嫌を損なうと、広告費を削減するという裏の顔があり、広告代理店は、広告費をかさにした恫喝を行ってきた。

 福島第一原発後、プロパガンダ活動が停止される。それどころか、「証拠隠滅」ともいうべき行動をとった。原子力ムラ関連団体は、HPに所狭しと並べていた原発CMや新聞広告、ポスター類の画像を一斉に削除した。確かに、東電のHPを確認したが、過去の広告が出てこない。絶対安全、クリーンな電力。その言説に責任と誇りがあれば、削除する必要などない。莫大な広告費を投じて振りまいてきた言説を幻想であり、プロバガンダと自ら認める行為だといえるだろう。そして、2013年以降、原発プロパガンダが復活してきている。本著では、中部電力が突出しているとあり、原発で真摯に働く社員のポスターが掲載されている。原発を批判すると、ポスター中の真摯なまなざしの誠実な若者を傷つけるような気がしてしまう。その上、「原発は日本のベースロード電源」etc.といった事故後のフレーズに説得されてしまいそうになる。そのような言説が欺瞞であることも、本著を読了し注意深くなった読者にはわかるはずだ。

彼女たちは私だったかもしれない
 『ルポ 母子避難』に登場する母親たちは私自身に重なる。郡山市内の小学校の通学路の放射線量を測定してもらう。「この100メートルだけでも、私が毎日おんぶして通わせたい」という母。逃げることに「余裕」があるかのように思え、後ろめたい気持ちがする母。考えないようにしたい、不安を口にされると心がざらつく母。子どもを守りたいという気持ちすら吐露できない母。みな、私が経験したことではなかったか。
 賠償もない中、かつての生活基盤や人間関係を根こそぎ奪われている人たちをそのままにしていいのか。東京オリンピック開催のため目がくらむような予算が投じられる見込みの中、自主避難者の住宅支援が打ち切られる、そんなことでいいのか。横浜市内で「自主避難」の子どもが「賠償金あるだろ」と言われ同級生に合計150万円も払ったが、それについて市教育委員会が「いじめ」と認定することは困難としたことにたじろぐ(2017年1月20日NHKニュース)。無理解、揶揄、誹謗、暴力。そんな社会でありたくない。こんなことを止めるにはどうしたらいいのだろうか。

 あと、1ヶ月少しで、3,11から6年という日に、この社会がまだ人の命を第一にできていないことに愕然としつつ、せめて、凄まじい量のPRに麻痺しないで、情報を吟味し、自分の頭で考えたい。麻痺していたために原発推進を許し、その結果避難を余儀なくされ、支援を打ち切られる人たちのことを、忘れない。彼女たちを見捨てることは、自分が見捨てられることに甘んじるということになるのだから…。

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打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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