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“沈黙のかわりに私は叫ぶ” ドキュメンタリー映画『ソニータ』がもたらした変革

三木ミサ2017.12.13

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自分につけられた「値段」がいくらだったのかーーあどけなさの残る顔で語り合う少女たち。親が決めた見ず知らずの結婚相手は、自分の親よりもはるか年上の男であることもざら。結婚相手となる夫が自分と年齢に近ければ、それだけでも「同年代なんてうらやましい」と羨望される。中には、左目の周囲に大きな痣ができている少女もいるが、何が起きたのか尋ねられても決して口を開こうとはしない。
それは、イランにある児童保護施設での日常の一場面。未来について絶対的な絶望と諦念に包囲された人はこんな顔をするのかと、映画を見終わった後も忘れられない。しかも、それが年端もいかない少女達なのだから。

ドキュメンタリー映画『ソニータ』は、イランやアフガニスタンにおける児童婚(18歳未満の結婚)の実態を訴えるアフガニスタンのラッパー、ソニータ・アリザデに密着したドキュメンタリーだ。
ソニータ自身もアフガニスタンから亡命して、この児童保護施設に身を寄せる少女の一人。

"声をひそめて話させて 少女が売られる話だから 批判すれば法典に背く 女性は沈黙を強いられる"

ソニータは「売られる花嫁」という曲で、施設の友人たちについて、そして、彼女自身についてラップする。
彼女の母国アフガニスタンでは、6歳の少女と結婚した60歳以上の聖職者が逮捕される事件や、児童婚で結婚した夫から女性が鼻を切り取られる事件、妊娠した14歳の少女がアヘン畑での労働を拒んだことに腹を立てた夫の家族に焼殺される事件など、この数年で明るみになった事件だけ見ても、児童婚や女性への暴力の被害があとを絶たない。

アフガニスタンを描いた映画といえば、2003年公開された映画『アフガン零年』が、今も記憶に強く残っている。
女性の就労も教育も許されないタリバン支配下で、命の危険を冒しながら主人公の少女が少年のふりをして稼ぎに出るが、女であることが発覚。極刑になるところをタリバン幹部の老人と結婚することで免れる……という、救いようのない顛末にやり場のない思いを突き付けられた。
『アフガン零年』はアフガニスタン「復興」後、初めてのフィクションだったが、現実にはそれから10年以上経った今も、フィクションで描かれたのと同様に、いや、それ以上に酷い女性への支配と、差別と、暴力が常態化していることをソニータは訴える。

"でもコーランを開いてみて 「少女は売り物」と書いてない どうか私に構わないで もう化粧はうんざり"

イスラム教が暴力の元凶というイメージを抱きやすいが、イスラム教では児童婚を禁止、アフガニスタンの法律でも16歳未満の結婚は認められていない。

『アフガン零年』公開の2年前、2001年にタリバン政権はアメリカを筆頭とする第三国の介入によって転覆しているが、当時、アフガニスタン人女性に対する抑圧は、タリバン政権打倒の理由として挙げられていた。
タリバンが女性を人間として扱わない非道な支配を敷いていたのは確かだが、政権交代後も、因習はのこり、情勢不安や貧困も追い討ちをかけて、アフガニスタンの女性はいまだに凄惨な状況を生きている。
ソニータのようにアフガニスタンからイランへ避難をしても、この状況から逃れることは難しい。イランに暮らすアフガニスタン人は現在、300万人いると目されているが、近隣住民と隔離され、女性は外出することも禁じられていてる。ロックやラップなどの西洋音楽も禁止されているため、音楽で現状を訴えるにも公に活動することはままならない。

「リアーナのようなラッパーになりたい」と願うソニータにも、9,000ドルの「結納金」と引き換えに結婚することを家族から強いられる。
夢も絶たれた絶望的な状況のソニータに手を差し伸べたのは、監督のロクサレ・ガエム・マガミ監督だった。
ドキュメンタリーでは取材対象に直接介入することは「禁じ手」とされてきたが、アメリカの音楽学校にソニータを入学させる手配を行う。

「ドキュメンタリー監督として、感情に流され、彼女を助けるべきてはないという考えもありましたが、一人の人間としての私はこの先ソニータがどうなってしまうのか心配で、誰かを助けられ、容易に物事を変えられるタイミングがある場合、行動に出るべきだと私は考えます」

声を上げることで、初めて問題が可視化される。
"沈黙のかわりに私は叫ぶ"というソニータの強い意志と渾身の表現が、監督に共鳴して、ソニータに変革をもたらしたことを私たちに見せる。
すべての女性が自分の力を発揮して挑戦することができ、自分自身で人生の選択ができる世界を目指して発信を続けるソニータ。
個人レベルでも声を届けることができることを自ら示したソニータのラップは、虐げられ、語ることを恐れている多くの少女たちへの強いアンセムだ。
伝統や因習、そして、ドキュメンタリー映画のセオリーも打ち破って、個人の尊厳が守られることに価値をおいた映画『ソニータ』。
ソニータに手を差し伸べることに当初は戸惑いも見せていた監督が、やがてソニータと連帯して現実を変革していく、その過程を緻密に記録したことで、『ソニータ』という映画そのものが変革へのメッセージになっている。



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三木ミサ(みき・みさ)

神奈川出身。元シノラー。学生時代にフェミニズムに目覚め、男子学生たちがオンナに抱く幻想を打ち砕くべく目の前で放屁をするなどの実践を試みるも、のちに、ジェンダーの問題ではなく、人としてのマナーの問題だったことに気づき反省。フェミニズムをゆるやかに模索する日々。出来れば、猫を産みたい

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