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社会からはじき出された貧困と正しさのジャッジ『万引き家族』

三木ミサ2018.06.14

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世界中で広がる格差社会と貧困。日本においても、「一億総中流」なんてとっくの昔の話だが、それでも、足元まで来ている格差が、社会によってもたらされた現実として認められていないのは、自分ら親世代くらいまでは一億総中流の受け皿に乗っていたはかない余韻なのか、それとも小泉政権以降大手を振った自己責任論のタマモノなのか・・・。

『万引き家族』が描くのは、社会からはじき出されてしまった貧困層の家族。

貧困の厳しさを訴えるために、悲惨な面だけをクローズアップするのではなく、底の底にある暮らしにも、光り輝く瞬間はあること、痛みを知る人たちの結束力も描く。
描かれるのは、暴力と一体化したステレオタイプの貧困ではなく、そこには、はじき出された人々を断罪する目線は挟まない。
高層マンションの谷間にある古い家屋に暮らす、祖母、父親と母親、母親の妹、息子の5人。一家の主な収入源は祖母の年金と日雇い労働の父、パートの母のわずかな賃金。足りない生活費は、万引きを重ねて工面する。
ある日、父と息子は、近隣の団地で部屋から締め出されている幼い少女と遭遇。少女の体中の傷に境遇を察した一家は、彼女を家族として迎え入れる。

一つ屋根の下、互いの持つ痛みに踏み入らないように、それぞれが距離を保ちながらも寄り添りそって生きていく一家。
「他の誰かが捨てたものを拾っただけ」
安藤サクラ演じる母、信代の言葉が一家の繋がりを端的に表している。
血縁を土台にしないこの家族は、家族として、家族が生きるために、年金の不正受給や万引きで日々をしのぐ。が、それだけでは立ち行かない現実が、やがて、一家におし寄せるーー。

これまでも度々、家族の絆をテーマにしてきた是枝監督。
提示される旧来型の「正しい家族像」に当てはまらない新しい家族像は、多様性を包括している一方で、あまりに理想化された絆の描かれ方が、甘ったるく、絆からも放り出された人はどうすればいいのか・・・という疑問もあった。

『万引き家族』もこの点を完全には払拭しておらず、絆とか、関係性の受容について、ファンタジックに描きすぎている部分はある。

例えば、亜紀(松岡茉優)が、バイト先の風俗店で、客の"4番さん"(池松壮亮)を抱擁するシーン。セックスワーカーに聖母の癒しを求める、この手のありがちな依存を理想化し過ぎてる印象。不遇の者同士、それぞれの傷を共鳴させているとでも言わんばかりなのだが、なんで、傷を負っている亜紀がさらに他の男の傷までケアさせられにゃならんのか。
単に、亜紀の傷をリソースとして甘え倒しているだけなのに、まるで亜紀にとっても4番さんを受容することが癒しであるかのように描く視点には、亜紀と、亜紀の傷を生身のものとして捉える誠実さが抜け落ちている。

と、所々ファンタジックに寄りすぎている感もあるのだが、そこで圧倒的な説得力を放つのが安藤サクラ。

スクリーンに登場するだけで、ヌルッとした生々しさを発揮し、「あの泣き顔」のシーンでは劇場内の集中が瞬間的に張りつめて、誰もが息を飲んで彼女の表情を見つめていた。このシーンだけでも、この映画を観られてよかったとうくらいの名演技。
彼女がいることで、ファンタジックだけに留まらない映画になっているといっても過言ではない。

作中で一貫して打ち出されているのは、世間の正しさからはみ出たものにも、そこに至るまでの切実な理由があるということ。
規範からはみ出たものを、そこのみで悪と断罪できるのか、という立場には完全に同意するし、むしろ、こんな過酷な状況下で、自分だったらこの一家ほどひたむきでいられるだろうか・・・多分無理・・・などと思っていたら、完全に、逆の見方で炎上しているのを知って驚いた。

「万引きする救いようの無いクズ」の「悪」が、日本の現状として世界に伝えられたら「日本の恥」という人が、多くいるそうなのだ。本当に同じ映画を見ているのだろうか(批判をしている人は、映画を観ていないひとがほとんどのようなのだが)。

犯罪を犯すのは非道な極悪人で、自分とは全くちがう向こうの世界の住人。
それどころか、貧困に陥ることさえ「悪」。世界に晒すのは「恥」。
一家が自分と変わらない切実さを持った人間であること、どこかで掛け違ったら自分も彼らのような状況に陥るだろうことをここまで前面に描いても、恥さらしと石を投げられるのがいまの社会なのなら、これが、もっと悲惨なリアリズムに徹底した作品だったら、と、沸き起こる反応を想像して背筋が寒い。

賛否の反応も含めて、時代の空気を色濃く写し取った『万引き家族』。
リアリスティックを追求するために悲惨な状況にスポットを当てるよりも、「彼らのような人々を決してジャッジしない」というメッセージを強く放つことの方が、今の時代には必要なのかも。

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三木ミサ(みき・みさ)

神奈川出身。元シノラー。学生時代にフェミニズムに目覚め、男子学生たちがオンナに抱く幻想を打ち砕くべく目の前で放屁をするなどの実践を試みるも、のちに、ジェンダーの問題ではなく、人としてのマナーの問題だったことに気づき反省。フェミニズムをゆるやかに模索する日々。出来れば、猫を産みたい

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