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2月16日でついに14回目となったGilets Jaunes (黄色いベスト)のデモで、哲学者のアラン・フィンケルクロートが、デモ隊の何人かから、反ユダヤ主義のヘイト・スピーチを浴びせられる事件があり、波紋が広がっている。

フィンケルクロートは、ポーランド系ユダヤ人を両親に持つ知識人で、反ユダヤ主義に立ち向かう発言とともにイスラエルを支持するシオニスト的発言でも知られ、またしばしばイスラム系移民に批判的な発言をする。

「黄色いベスト」運動は、昨年11月に燃料税値上げ反対を皮切りに始まった自然発生的な抗議行動で、低所得層の購買力上昇、富の再分配を促す税制、より直接民主制に近い制度(RICについては当連載57回を参照)など、様々な社会政策、税政策を要求して、毎週土曜日にパリを始め、各都市でデモを行なう、「社会で置き去りになっている層の反乱」となっている。

「黄色いベスト」に関しては、フィンケルクロートは支持する発言をしていたのだが、この日、自宅近くでデモに出会った時に参加者の一部から「とっとと失せろ、シオニスト野郎」「イスラエルに帰れ」「俺たちが人民だ」「フランスは俺たちのものだ」などの暴言を受けた。

最近、フランスでは反ユダヤ主義的事件が頻発している。つい最近もホロコーストの生還者で、人工妊娠中絶を認めた際の厚生大臣としてフランス中の尊敬を集めた故シモーヌ・ヴェイユの肖像画がカギ十字の落書きで貶められ、国民に衝撃を与えたし、他にもパリのベーグルショップに「ユダヤ人」とドイツ語で落書きされたり、反ユダヤ主義グループに拷問されて死んだイアン・アリミを記念した木が切り倒されたりしている。

こうしたことを背景に、反ユダヤ主義を断罪するデモが19日に全国各地で予定されていた。フィンケルクロートの事件が起こったのはその直前だった。メディアや政治家はすぐに反応し、パリでは主催者発表で2万人が参加した。このデモは社会党が左右を問わず、「共和主義の全ての党」に呼びかけたもので、フィリップ現首相やオランド元前統領、サルコジ元大統領の姿もあった。

それに対して、最終的に参加はしたものの、「黄色いベスト」に非常に近い極左政党、フランス・アンスーミーズ(FRI屈服しないフランス)のメランションの反応はアンビヴァレントだった。FRIは決して反ユダヤ主義を認めるわけではないが、「反ユダヤ主義が政治的に利用される」ことを警戒する。折に触れてイスラム系移民に敵対的言辞を吐くフィンケルクロートを擁護することに躊躇を感じたようである。

反対に、同じく「黄色いベスト」の中に多くの支持者を持つ極右政党、国民連合のマリーヌ・ル・ペンは、「呼ばれていない」共和主義者の合同デモには行かなかったが、個別にイアン・アリミに捧げる集会を開き、フィンケルクロートに対しては、ヘイトスピーチの主がイスラム原理主義者だったことが判明したことを暗示しながら、「あなたの戦いは私と同じ」と公開書簡を送った。

「黄色いベスト」たち自身の反応は鈍かった。反権力、反エスタブリッシュメントで繋がったまとまりを崩したくないためか、はっきりと反ユダヤ的行為を断罪する声が上がらなかった。人種差別者でない「黄色いベスト」参加者は「そういう一部がやっている瑣末なことにこだわらないでほしい」と、このようなニュースに注目が集まり、本来の運動が霞んでしまうことを警戒する。しかしこのような反応は、反ユダヤ主義という悪を矮小化しているという批判を当然受けることになる。「黄色いベスト」運動には、はっきりとした指導者がいないという面も裏目に出て、指導者が「黄色いベスト」と反ユダヤ主義を切り離すということもできないでいる。

ユダヤ系知識人が「黄色いベスト」の人種差別的な攻撃にあったという事件は、主に二つの問題を浮かび上がらせたように思う。
ひとつは、「黄色いベスト」と反ユダヤ主義の関係だ。日々の暮らしがカツカツの低所得層が担い手になっている「黄色いベスト」運動は、そもそもの初めから、担い手の一部が、移民排斥や反ユダヤ主義の傾向を持つ極右勢力と重なっている。多くの「黄色いベスト」が人種差別主義者でないことも事実だが、今までにも地下鉄でユダヤ人の老婆が「黄色いベスト」にヘイトスピーチを浴びせられるなどの事件が起こっている。今回の事件は改めて「黄色いベスト」に含まれる人種差別者に強く人々の目を向けさせた。

「黄色いベスト」と反ユダヤ主義の混同は避けるべきと考えるのが良識ではあるが、運動の退潮にともなって(2月16日の参加者は  10万200人で前よりおよそ2万人減少しており、最近の調査では、運動の継続を支持するフランス人は38%と急落し、52%が運動の終息を期待している)、極端な分子が目立つようになってきたことも避けられないようだ。

もう一つの「混同」は、反ユダヤ主義と反シオニズムではないかと思う。現在、フランスでは反ユダヤ主義は犯罪として処罰の対象になるが反シオニズムはこれに当たらない。それを改正して反シオニズムも罰しようという提案がある国会議員からなされた。マクロン大統領はこれを採用するつもりはないようだが、デモの行われた19日当日、アルザスのユダヤ人墓地で、100近い墓がカギ十字で汚された事件を受けて、「反ユダヤ主義」の定義の中に「反シオニズム」を含ませるという方針を語っている。

それがいったい、反ユダヤ主義をおさえる役に立つのだろうか? 私は反シオニズムを反ユダヤ主義といっしょにすることは、かえって反ユダヤ的行為を誘発するような気がするのだが……。

2018年に起きた反ユダヤ的事件は541件で、2017年311件に比べて74%の増加だそうだ。いずれにしても、永遠のスケープゴートであるユダヤ人たち。反ユダヤ主義が盛り上がるのは、社会が危機にあることを示している。

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中島さおり(なかじま・さおり)

エッセイスト・翻訳家
パリ第三大学比較文学科博士準備課程修了
パリ近郊在住 フランス人の夫と子ども二人
著書 『パリの女は産んでいる』(ポプラ社)『パリママの24時間』(集英社)『なぜフランスでは子どもが増えるのか』(講談社現代新書)
訳書 『ナタリー』ダヴィド・フェンキノス(早川書房)、『郊外少年マリク』マブルーク・ラシュディ(集英社)『私の欲しいものリスト』グレゴワール・ドラクール(早川書房)など
最近の趣味 ピアノ(子どものころ習ったピアノを三年前に再開。私立のコンセルヴァトワールで真面目にレッスンを受けている。)
PHOTO:Manabu Matsunaga

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