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  • TALK ABOUT THE WORLD ドイツ編 金曜日のマーチ・その2

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前回紹介したFriday for Future運動5月末に実施された欧州議会選挙での環境政党、緑の党の大躍進に繋がったこの中高生たちの運動にどんな子どもたちが参加しているのか、気になっていた。そんなに大きな運動なら、身近にいる子どもたちも関わっているんじゃないかなと。

しばらく前に我が家に遊びに来た友人の息子は15歳。友人は180センチを超えるモデルか俳優かっていうイケメンだが、そのお父さんの背をすでに超えて、これ以上背が伸びると服のサイズが限られちゃう、と苦笑いしているT君は、見た目も少年というより青年だ。そのT君に訊いてみた。

Friday for Futureに参加したこと、ある?

うん、参加してるよ、いつもじゃないけど。と、いたって普通のことだよという顔で返事が返ってきた。
ほおー、そうかそうか。で、実際のところ、クラスの内、どれくらいの生徒が参加してるの?

うーん、かなり多いよ。どうして参加するのかって? だって選挙権のない僕らにできることはこれしかないでしょ。僕らが決めたことじゃないのにさ、こうした環境問題や社会問題はいずれ僕らが背負っていかなきゃならないんだよ。もちろん成績を落とさないように、参加する頻度とかどの授業のときに参加するか、とか考えなくちゃならないけど。

と言う彼は、Friday for Futureの掲げる温暖化対策のことだけじゃなく、昨年大きな話題となった近隣の森林保護と炭鉱開発の問題だとか、YouTubeなどにおける著作権保護法についての反対運動のことなども話し始める。ちなみに彼にとってデモに参加するのは、Friday for Futureが初めてではないそうだ。

ドイツの子どもたちが小学生の頃から自分の意見をしっかり論理的に話す、それもまた社会問題についてもきちんと自分の意見を話すことができるのには、周囲の子どもたちや子ども向けのラジオやテレビ番組に登場する子どもたちを見ていて常々感心していたけれども、日本でいえばまだ中学生にあたる「子ども」がこんなにしっかりと社会や政治の問題を普通に話すのを見ると、日本人の私はやっぱり内心驚いてしまう。

いったいどこでこういう情報を得ているの? 新聞? テレビ? それとも学校の授業で? と訊くと、いや、インターネットだよ、と言う。YouTubeでそういう情報が得られるから、それらを見ては皆で情報交換するんだ。

うーん、情報源がインターネットか。これもまたいまどきの世代ならではだなあ。

慎重にしっかりと話をするT君がYouTubeなどにおける新しい著作権保護法への反対意見を述べ始めると、こんどはお父さんが口を挟んだ。YouTubeなどインターネットにおける他人の著作物の使用を制限したら表現の自由がなくなる、というT君の意見に対して、元ミュージシャンであった彼は、でもそれでは例えば音楽を作っている人たちは何の利益を得られなくなってしまうだろ? 作り手に対して敬意を払うべきだよ、と熱心に話す。

目の前で展開される父子の真剣討論は微笑ましい。息子も臆することなく、そして父は子どもだからと頭ごなしに否定するわけではなく、互いに個人の意見として耳を傾け、話をしている。いい親子だなあ。

学校の授業でもこういう時事問題とか政治について習ったりするの? と訊くと、政治について習う授業はあるんだけど、先生がバリバリの共産主義者なんだよな! と顔をしかめて言うT君の様子に私たち大人は笑ってしまった。

なぜか日本ではデモのような社会運動に参加すると、左翼だとか共産主義者だとか言われることがあるのに(もちろん実際は、参加者の多くは何のイデオロギーもない人が多いのに)、デモに参加するドイツの高校生は共産主義の話にウンザリしている、というのを見て、いかに日本での社会運動が誤解されているかを感じてしまう。

もっともこれは、かつて東西、共産主義と資本主義の国に分れていて、当時の東側の独裁的な共産主義にトラウマを持つドイツならではのエピソードかもしれない。ベルリンの壁が崩壊したずっと後に生まれた世代が、共産主義者がさ、とつぶやくのも、彼らの親の世代からみると不思議に見えるんだろう。

そんなT君だが、けっして彼は特別ではなく、まったく一般的なドイツの子どもだ。彼のお父さんはテレビや映画などの撮影カメラマンで、ちょっとヒッピーっぽい、昔はミュージシャンやってました、という人だが、ジャーナリズムに関わるわけでもなければ特に政治的な姿勢があるわけでもない。

そしてT君いわく、Friday for Futureにはクラスの多数が参加している、ということは親の職業や家庭環境はさまざまだろう。あえていえば彼らはギムナジウムという、大学などの高等教育進学を目指したいわゆる進学コースの学校の生徒たちなので、教育について親の関心が高かったりと、教育環境はいいほうだろうか。

しかしFriday for Futureには進学校ではない学校の生徒たちも参加しているそうだし、前述のとおり、普段からドイツの子どもたちはたとえ小学生であっても社会的な問題について自分の意見を実にきちんと述べることにしばしば驚かされてきたので、やはりドイツ社会の教育が土台にあることは間違いないだろう。

さてもう一つ、別の一例はバイエルン州在住の13歳になる夫の甥っ子。両親は芸術関係の仕事をしていていて、自然や環境問題に関心はあるが政治にはそれほど関心がない人たちだなとの印象を私は持っていたし、Friday for Futureについても当初は親子ともに、学校を休んでまですることじゃないという意見だったとか。この運動が大きくなり始めた4月のイースター休暇の時に甥っ子に会ったので、ホントのところはどうなんだろうと直接彼に訊いてみた。

あのね、Friday for Futureって運動があるでしょ? と私が切り出すと、彼の目がキラキラと光り出して、おおっ? とこの反応は? と思ったら、彼も参加しようとしているところだったらしい。クラス内の多数が参加しているんだよ、とのこと。

でも授業を休むことは本当はいけないんでしょ? と質問を重ねると、なんと彼の学校では保護者も一緒になって学校内外で署名を集め、授業を休んで参加することを正式に許可してほしい、という嘆願書を校長に提出したんだとか。

そもそもは正式に認められないことをすることで反対を表明している運動なので、正式に許可をもらうというやや矛盾した考えが、保守的といわれるバイエルンらしいなあとおかしくなったが、そこは言うまい。その嘆願書が提出された後、もちろん立場上は参加を許可するわけにはいかない校長先生。そこで彼の提案したのは、環境問題について知るワークショップを授業の代わりに開催する日を2回設け、そしてその日はワークショップに参加し、その後にデモへ行ってもよしとしたんだとか。

と、ドイツの各地で子どもから親も学校も巻き込んで展開するFriday for Future。おそらく大人たちは、子どもたちの行動がこんなに大きな運動になるとは思っていなかっただろう。以前、ドイツで生まれ育った日本人の友人から、高校生の頃、デモに参加することは普通のことだったと聞いたことがあるのだが、本当にそうなんだなあと今回のことを見てあらためて実感する。それは、子どもであっても一人の人間として社会の中で扱われ、考えて発言するべきという教育を受けてきたからだろうし、子どもにも社会へ参加するという意識が育っているからだろう。

最近日本で立て続けに明らかになる児童虐待のニュースを見るたび、日本の社会や法律は子どもの人権を軽んじ、一人の人間として扱っていないと感じるが、それを思うと日本の子どもがもっと発言し、こうした運動に参加するようになるのはまだ遠いことかもしれない。

なにしろ大人でさえ、社会運動への抵抗意識が強く、社会は国(政府)が作ってくれるもの、と思っているのだから。Friday for Futureのニュースを見るたび、社会や国は自分たちが作っているのだ、という意識がこのドイツ社会では徹底しているなと感じている。

© Aki Nakazawa

ケルンのFriday for Futureはいつもは町の中心であるこの広場で行われるのですが、この日はがらんとした様子。というのも、70キロ程離れた町、アーヘンでの大きな環境イベントに合わせて、Friday for Futureのデモも大きく行われることになったため、この日は周辺の町のデモ参加者はアーヘンまで遠征したそうで、3万5000人の参加者があったとか。運動は留まることなく広がっています。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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