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最近、「猫カフェでフランスのフェミニズムについて研究する会」通称「猫研」という長い名前の勉強会を立ち上げた。フェミニズムに関心を持つフランス語の翻訳者同士で集まって横のつながりを作り、情報交換する会をしたいと急に思いつき、「鉄は熱いうちに打て、です」などと先輩や友達に唐突に呼びかけて7月の頭にいきなり始めた。「フランスの」と冠しているけれど、フランス語の翻訳者だけでなく、フェミニズムに関心のあるすべての人が参加できる会にしている。

私にはさまざまな固定観念があり、そのうちのひとつが人と集まることに対する恐怖で、こういう会の立ち上げというか場所作りはゴッホとゴーギャンのアルルの家のように最終的にはうまくいかないに決まっていて、言いだしっぺが左耳を切って自殺するか象徴的に死ぬような結末を迎えるに違いないと思いこれまで恐れていたのだけれど、この会はどうしてもやりたくなった。その気持ちの変化をちょっとここで書いてみたいと思う。

恵比寿にある日仏会館の図書室で開催されている「日仏の翻訳者を囲んで」というイベントがある。フランス語から日本語、あるいは日本語からフランス語への翻訳をしている翻訳者の話を生で聞くことができる会で、翻訳ファンや学習者、かけだしの翻訳者にとっては貴重な交流の場にもなっている。毎月1回、平日の夕方にガラス張りの図書室の中で行われていて、地味だけど、落ち着いた雰囲気で本や翻訳の話が聞けるすばらしい会だ。もう1年くらい続いている。
 
私もほそぼそと翻訳をしているし、また、人のつながりもあってときどき会を聞きに行ったときには打ち上げに参加させてもらっているのだけど、その打ち上げの席でのおしゃべりを、最近すごく楽しいと感じた。同じ興味を持って、同じ方向を向いている人たちと話す心地よさを味わったからだ。

思えば私は大学の専攻も仏文科じゃなかったし、その後入った出版社も辞書を作る会社で少し特殊だったうえに私以外にフランス語がわかる人はいない状態で、さらに転職した先のフランス関係機関でもフランスの文学・社会に興味を持ってフランス語の本を読んでいるような人は意外にもほとんどいなかった。

でも私にとってはそれが当たり前で、別に話が通じる集まりを求めてもいなかったし、勉強や読書、翻訳は結局ひとりでしかできないものだと思っていた。というか、今でもその考えに変わりはないのだけど、でも何人かで知識や情報を共有するのも楽しいのではないかと、ここ最近だんだんと、そういう気持ちに傾いてきた。

ちょうど「日仏の翻訳者を囲んで」のモデレーターを務めている美和さんがフェミニズムにも関心があることがわかり、仕事帰りに会うと話がつきないようなことが何回か続いて、人と話してお互いをよく知る楽しさがわかってきたということもある。

さらに、今、私とその美和さんが夢中で読んでいるモナ・ショレというスイスのフェミニスト・ジャーナリストが女性同士の集まりについてとても印象的なことを言っていて、そのこともきっかけになった。『宿命的美:女性疎外の新しい顔』(未訳)という本の中の、内面化されたミソジニーとしての拒食症、自己破壊衝動としての拒食症について分析した章だった。食べるという人間にとって基本的な行動を否定ないし軽視する現代社会を批判している箇所で、同僚同士でランチに行く習慣がまったくない職場の例を取り上げ、モナ・ショレはこんなふうにコメントしている。

 

「〔…〕1時間のあいだ同じ食卓を囲むことができないのなら、一体どうやってお互いを知り、(体のサイズを比較するだけではなく)経験を比較し、連帯の絆をつむげるようになるというのだろう」モナ・ショレ『宿命的美:女性疎外の新しい顔』(Beauté fatale : Les nouveaux visages d'une aliénation féminine, La Découverte, 2012)より

 

「連帯」というとおおげさかもしれないけれど、誰かとゆっくり話せる場が誰にでも(私にも)きっと必要で、さらに同じテーブルを囲んで話すことが重要なのだと言われた気がした。もともと会場は神楽坂のマンヂウカフェ「ムギマル2」に決めていたのだけれど、やっぱりそこしかないという気になった。

ムギマル2はマンヂウカフェという名前の通り、ほんとうに食べ物のメニューはまんじゅうしかないカフェだ。店の外壁を覆う草木が室内まで侵入しているなんとも言えない佇まいで、古物市で買ってきたような細々とした調度品の数々が並べられた魔女の隠れ家のような空間だ。猫もいる。親密にしかなりようのない場所だ。

以前なら、3人以上の人数で親密な感じで集まりたいなんて、私には考えられないことだった。私にとって人間関係は基本的に1対1で、何人かで遊ぶような関係は難しかった。1対1であれば私と相手の感性や意見の違いは単なる違いであってふたりだけの問題なのだけど、何人か人が集まった時に作られる場の空気の流れはまた違った次元の関係性を作り出す。私はその流れがなんだか苦手だった。だから、飲み会に参加したりして、人が人の集まりを求める気持ちが長いことわからなかった。

それはある意味、今まで私がある程度ひとりだけで完結して、満たされていたということでもあるのだと思う。「集まりになんか行ったって、話が合わないし」なんて平気で言っていた。でも、違うのだ。みんな話が合う合わないではなくて、なんとなく集まりたくて集まっているのだ。人の集まる雰囲気のために集まるというか。

自分のことばかり考えている私にとっては自分の身に起こったことはなんでも大事件なので、こんな当たり前のこともわざわざ書くわけだけど、「ただなんとなく人恋しい」みたいな気持ちが最近やっと理解できたのだ。あるいは、前からあったその気持ちがやっと自覚できるようになったということかもしれない。それは、私なりに説明すると、金曜日の夜に仕事が終わった後でふと何の予定も入っていないことに気がついて、それでもまだ家に帰るのはもったいないと思う時に感じる気持ちだ。

きっと、私は今さみしくて人を求めているのだと思う。いろいろな出会いやタイミングが重なったこともあったけれど、勉強会をしようと思い立ったきっかけは心理的にはたぶんさみしいからだ。

このさみしいとか人恋しいみたいな気持ちは、1年くらい前に夫と別れたことと、その後出会った相手ともうまくいかなかったことと関係があると思う。結局、私にやさしい、私にとって居心地のいい場所は人に頼るのではなくて私が自分で作るしかないのだと、苦い経験から学んだ。

今の私の野望は、その場所を世界でいちばん私にやさしい、楽しい場所にすることだ。そしてそれが、参加してくれる人たちにとっても居心地のいい場所になるように願っている。毎月開催は準備を考えると少し大変なのだけど、いろいろな理由でこの会に興味を持ってくれている人たちがいるので、無理しすぎて継続できないということのないように肩の力を抜きつつ、ゆっくりと続けていくつもりだ。

 

【告知】
田原町にある材木の倉庫をリノベーションした小さな書店で、『禁断の果実』や他のリーヴ・ストロームクヴィスト作品、さらにフランスで話題となっているフェミニズム関連書籍などについて紹介するイベントをします。

日 時:7月27日(土) 開場1830/開演1900
場 所:Readin’Writin’ BOOKSTORE(銀座線田原町駅徒歩2分)
参加費:1500円
イベント詳細:http://readinwritin.net/2019/06/20/『禁断の果実』訳者・相川千尋さんと読むフェミ/

取り上げる予定の本:https://note.mu/kadensha/n/n1dfe6ae0391a
今、乳がんのコミックを翻訳中なので、ラブピでコラムを連載されている高橋フミコさんの『ぽっかり穴のあいた胸で考えた』(バジリコ、2006年)もご紹介します。高橋さんが病に向き合う姿はそのまま高橋さんが人生に向き合う姿で、私もひとりで生きていくならこんなふうにしたいと、生き方みたいなものをこの作品から教わりました。

お申込みはお名前&ご連絡先を明記のうえreadinwritin@gmail.comまで。

【猫カフェでフランスのフェミニズムについて研究する会(猫研)】
ご興味のある方は私のツイッターアカウントをご覧ください:https://twitter.com/Chichisoze
次回は8月2日(金)開催です。

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