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仕事帰りのスーパーで、買った品をビニール袋に詰めているとき、目の前で、ロールになっているお惣菜や魚のパックを包むのに使う無料のビニール袋を延々とちぎっているおじさんがいます。

雨の日に外の傘ポンのビニール袋を何枚もとっていくおばさん、書店の店頭で配布している栞を何枚もとっていくおじさん……そういう人を見かけるたびに、国が貧しくなるってこういうことなんだわ、と思います。

それ、得してると思ってるだろうけど損してるからね、とふいに思うのです。

消費税の10%増税が始まって、もうあかん、これはウチ、もたへんかもしれん、という弱音が頭の中をよぎります。ただでさえ潰れかけの本屋なのに、庶民の給料が上がったわけでもないのに、このままだとお客が減る一方じゃない?

加えてキャッシュレス還元も1日から稼働しないし、というか、そもそも国民をバカにした目くらましだし、中小企業のことを考えているようで考えていない。あろうことか、施策を肩代わりさせている。

8%になってから、うたい文句の社会保障に使われたのは全体の16%、残りの用途は不明、という実態を山本太郎の演説で知ったとき、とても残念なやっぱり感に襲われました。それでも安倍自民のほうがいい、と言う人はお人よしすぎませんか。

なめられてなめられて、貧すれば鈍して、直接文句言わずによその国の悪口言って、無料のビニール袋を大量に持ち帰る人が増えていく。ディストピアにっぽん、つらたん。

よく、本屋で働いていると言うと、「本屋さんに行くのは好きだけど、ついついアマゾンで買ってしまうわ、ごめんね~」みたいなことを言われますが、謝られてもな、と首をかしげてしまいます。

個人の行動が街をつくるのだから、体が動くうちは、お店に買いに行くということをしないと、そのお店は潰れてしまうのです。

そのうちアマゾン帝国に支配されて、街は閑散としてしまうのでしょう。

政治でもなんでも自分で決めて動かないと、流されてしまって、え~聞いてない、みたいな状況になります。

ここ数年はほんとにその連続で、頭、おかしくなりそうです。

それで私は寅さんを見始めたのかもしれません、唐突ですが。

去年あたりから中古レコードショップで見かけたら「男はつらいよ」を買うようになっていて、今じゃヨドバシカメラで新品を買うようにまでなりました。

48作もあるので、まだまだ旅の途中ですが、DVDデッキに入れてオープニングが聞こえるとほっとする、ということを繰り返しています。

ご承知の通り、寅次郎は「どうしょうもないバカな男」として描かれているのですが、ここ最近の私の目には「まっとうな男」としてしか映りません。

女子供への暴力は一切ないし、困った人の味方になるし、義理人情に厚くて話をすれば面白い。それに何より自分のことを「バカ」だと認識している。

素晴らしくないですか、なんて。こういう、ええ感じのおっちゃんみたいな人が最近見当たらなくて飢えているのかもしれません。

本屋でスタッフの女の子たちに、高圧的に話しかけてくるおじさんたちを見ていると、寅さんならきっと、「おじさんよ、そんなおっかない顔して女の子に話しかけちゃいけないよ。誰だって逃げちまうよ。そうだろう?」と諫(いさ)めてくれることでしょう。そうすると、おじさんの肩の力も抜けるかもしれない。

私はつい、「ちょっと、あんまり絡まないでもらえませんか」とストレートに言ってしまって、ますます怒らせてしまいます。

韓国ヘイトと死ぬまでセックスにあおられて、本屋の店員とまともに会話もできない、いつからこんなおじさんばかりになってしまったのか。ばかりではないでしょうが目立つ。人生の節目節目で寅さんに会って説教されないと、男の子はまともな大人になれない国なのか。

そんな状況に呼応するように、去年あたりから、昔、木屋町で働いていたバーのマスターが、ときどき訪ねてくれるようになりました。

いろいろあって今は無職、あんまりお金はないだろうに、昔と変わらずおごってくれます。

当時から説教好きで有名でしたが、この人の説教は面白い、それを嫌がる人はいない、という不思議な話芸を持っています。

「お前はお前のままでいい。お前がそう思うんならその通りにしろ。それで失敗したらまた考えろ。ぜんぶ己の話や、っちゅうねん」

だいたいこんなことを圧の強い感じで熱く語るのですが、それが意外と心地いい。

当時から男の子のファンが多く、「僕にも説教してください」という若いバーテンダーや客たちが行列をつくるほどだったそう(私はあまり覚えていない)。

何も考えずにそう言ってくる奴は裏でボコボコにしたったけどな、と笑います。

先日会ったときは、当時同じ店で働いていた男の子(私より少し下くらい)を呼んでいました。ハンサムで性格もよかった彼は、そのまま年を取った感じで登場し、「僕は当時マスターから言ってもらったことを、今でも苦しい時とか迷った時に思い出しているんですよ」と語り始めます。

その際に、お、と心の中で感心したのは、「マスターには、男としてどう生きるか、どうあるべきか、ということを教えてもらったんだなーって」と一瞬私を見て、「あ、今の時代、男らしさとか言うのはダメかもしれませんが」と付け加えたことです。

よくできてる。いい塩梅。そして今の私は、日本の男には男としてどう生きていくべきかを真剣に考えてほしいモード。そこに何の矛盾もありませんでした。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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