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詩織さんの勝訴、そしてわたしたちの声の勝訴

北原みのり2019.12.18

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よかった、詩織さん。

東京地裁、伊藤詩織さんの民事裁判の判決が10時30分告げられた。

開廷前、原告席に座る詩織さんは小さく泣いていた。目の前には被告。緊張に耐えられなかったのかもしれない。被告の方は、傍聴席をじっと見つめたりなどして、詩織さんの方は一切みていない。裁判でさんざんごうかん神話を傲慢な口調で喚いてきた弁護士は口をまげてじっと座っている。
祈るような気持ちで判決を待った。

 

判決。

「被告は、原告に対し330万円及び、これに対する平成27年4月4日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え」

思わず、大きく頷いた。勝った、勝ったのだ!

詩織さんは1100万円を請求していた。30万円は詩織さんの弁護士代としてのもので、300万円が今回妥当とされた金額。被害の大きさ、中断させられた人生、止められた時間を思えば決して満足できるものではないけれど、それでも、勝ったのだ!! しかも裁判官は被告の訴えを完全に棄却、否定、キッパリとなきものにした。

メディアに配られる判決要旨を読んだが、被告がさんざん言い連ねてきたごうかん神話を完全に否定する見事なものだった。曰く、詩織さんが被告を陥れるためにこのような訴えをしたのだ・・・被害者ならばこのように声を出して戦えるはずがない・・・というような主張を、真正面から裁判官はこう否定した。

「(詩織さんは)自らが体験した本件行為及びその後の経緯を明らかにし、広く社会で議論することが、性犯罪の被害者を取り巻く法的又は社会的状況の改善につながるとして、本件公表行為に及んだことが認められ、公共の利害に係る事実につき、専ら公益を図る目的で表現されたものと認めるのが相当であること、その指示する事実は真実であると認められる」

つまり、裁判所は、詩織さんの闘いが、この社会の性犯罪被害者のための闘いである、公共の利益のための闘いだ、と認めたのだ。さらに詩織さんの主張を真実と認めた。一方被告については「(被告の証言は)重大な疑念を抱かざるを得ない」と記した。また、被告の行為を「合意の性行為」ではなく、不法行為、とまで言い切った。

これまでの闘いを正当に評価した素晴らしい判決、完全な勝訴と言っていいのだと思う。

事件が起きたのが2015年4月。警察に被害を訴え2ヶ月後には男に逮捕状が出されるが、執行日に中村格刑事部長(当時)が逮捕中止を指示する。16年7月に不起訴確定。17年5月、詩織さんは検察審査会申立てを行い、同時に記者会見を開く。同年9月検察審査会は不起訴相当判断を下した。民事裁判で闘わなければいけなくなった詩織さんに、被告は1億円以上の名誉毀損を請求していた。
長い長い闘いだった。

そして今日の裁判で改めて、民事で闘わなければいけなくなった背景、なぜ逮捕が直前で取り消されてしまったのか、検察審査会で何が「審査」されたのか。改めて知りたいという思いが強まる。
改めて、刑法を変えたい、性差別が蔓延するこの社会の空気を変えたいと強く思う。それはもしかしたらもっと長い闘いになるのかもしれないけれど、諦めたくない。そのような希望を見せてくれた判決だった。


地裁の前では、喜びの涙と、拍手がわいた。
しばらく離れがたい思いで立っていたら、1人の女性が話しかけてくれた。

「私も詩織さんと同じです。不起訴になって、民事で闘おうと思っている。だけどとても怖い。今日の判決、本当に嬉しいです」

それだけ、伝えてくれた。

たぶん、全国にそういう思いでこの裁判を見守っている人がたくさんいるのだと思う。事件にできなかった性暴力の被害者の声を、今年の4月から始めたフラワーデモでたくさん聞いてきた。そういう声の力が、少しずつ社会の空気を変えているのかもしれない。
判決後、何人かの記者の方に「この判決がどのように今後社会を変えていくか」という質問を受けたのだけれど、もしかしたらそうではなく、「性暴力被害者の切実な声が、司法の空気を変えたのではないか」と思った。刑法改正を求める山本潤さんたちのスプリングや、多くの性暴力被害者の必死な声が、2019年の日本を少しでも変えられたのではないか。

少し前のこと、弁護士の知人がこんなことを言っていた。
裁判官は世の中の空気を読む、だから声をあげることは無駄じゃない。
その言葉を改めて信じられる日になった。政権の顔色ではなく、きちんと世の中の声を聞く裁判官がいるのだ。性暴力が何が暴力なのか、なぜ被害者が声をあげるのか、そのことを明確に理解した判決文も高く評価したいと思う。

まずは、最初の第一歩。

詩織さんの勝訴、そしてわたしたちの声の勝訴なのだとも思う。

おめでとう、そして詩織さん、本当にありがとう。

 

伊藤詩織さんの民事裁判の傍聴記はコチラで読めます。

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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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