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大阪メトロ御堂筋線で起きたレイプ被害について

牧野雅子2020.01.29

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1月23日木曜日、NHK総合テレビ「クローズアップ現代+」に出演した。テーマは痴漢。「データが浮き彫りに! 知られざる痴漢被害の実態」と題して、痴漢被害を可視化するアプリによって得られたデータを元に、痴漢について考える回。

(テキスト版はこちら https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4376/index.html)

番組については、いろいろ思うところがあり、こりゃあとんだマモルくんだわ、という人に出会ったりもして、1月のマモルくんコラムは、番組出演のあれやこれやを紹介するつもりだった。しかし、その話をしようと当て込んで延ばしてもらっていた締め切りの今日、あるニュースに衝撃を受け、急遽、書き上げた(ことにしておこう)原稿をヤメにして、こちらの話を書くことにした。
(つらい性暴力の話です。しんどいかも、と思われたら、そこでページを閉じて、好きなものを見たり、おいしいものを食べたり、あったかいものを飲んでゆったり過ごして下さい)


1月27日付のこのニュース。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200127-17300502-kantelev-l27
昨年6月に、地下鉄大阪メトロ御堂筋線の電車内で痴漢被害に遭った10代の女性が、その痴漢に電車から降ろされ、駅ホームで、レイプ被害に遭ったというものだ。被害の時刻は午後3時。犯行現場は防犯カメラの死角にあたり、目撃者はいなかったという。周囲に気づかれないように、カップルを装っていたとも報道されている。加害者は42歳で、これまでにも、強制わいせつ事件を何件も起こしているという。

想像してしまう。昼間の地下鉄。それほど混んではいない。よく、電車に乗るときは痴漢に遭うことを前提にして警戒しろと言われるが、それは通勤通学の混雑時の話で、昼下がりの地下鉄ですら警戒しろとは、さすがの警察も言いはしない。
彼女が痴漢被害に遭った時、その車両にはきっと乗客がいただろう。それを見ていた人もいただろう。見ている人がいるのに助けてもらえない、人がいるのに痴漢行為が続けられる、そのこと自体が、もう、絶望に値する。
報道によれば目撃者はいなかったという。でもその目撃者とは、レイプ行為の目撃者のことだろう。怪しまれないようにカップルを装ったとも言われているから、車内や駅ホームに、乗客はいたはずだ。車内での痴漢行為や、年が倍以上も離れている「カップル」の怪しさを目にした人がいなかったとは考えにくい。人がいるのに、誰も自分を救い出してはくれない。そのことが、どれほど彼女の気力を奪ったのかを考えると、もう、いたたまれない。
もし、その時、乗客の誰かが、痴漢行為を止めさせることが出来ていたら。誰かが、通報できていれば。

わたしが、最初に電車の中で痴漢被害に遭ったのは、中学1年生の時、地下鉄御堂筋線の中だった。友人と一緒に買い物に行く途中だった。そして、初めて痴漢被害の現場を見たのもその電車だった。被害に遭っていたのは、目の前の友人。
わたしは、彼女が痴漢被害に遭っているのを見ても何も出来なかった。男の痴漢行為をやめさせることも、友人を移動させることも、声を掛けることすら出来なかった。ただ、驚いて固まって。動けずにいた。あえて言い訳をするならば、その時、わたしも被害に遭っていて――今思えば、おそらく、共犯者だったのだろう――どうしていいか分からなかったから。わたし自身も、泣きそうになっていたから。でも、彼女にとっては、わたしもまた、痴漢加害者の行為を見逃した、共犯者だった。
今でも、何も出来なかったあのときのことを思い出す。もう一度あのときに戻れたら、その時わたしはどうするだろう。

ツイッター上で、女性専用車両は地下鉄御堂筋線事件が「きっかけ」で導入されたと言っている人が目に付く。わたしはこれに全く同意できない。「きっかけ」というからには、時間的接着性があるはずだ。
地下鉄御堂筋線事件が起きたのは1988年。女性専用車両の試験導入は2000年暮れ、しかも、東京だ。大阪では、2002年にJR西日本が試験運行したのが最初である。御堂筋線事件が「きっかけ」ならば、事件から遠くない時期に、御堂筋線にまず導入されていたはずだ。
2018年に、地下鉄御堂筋線事件を機に発足した「性暴力を許さない女の会」の方たちにお話を伺った時のこと。女性専用車両は御堂筋線事件がきっかけだったと言っている人がいるんですよ、と言ったなら、一笑に付された。時期が違う、と。そりゃそうだ。事件から干支が一回り以上(古い言い方でごめんなさいよ)たってからの導入を、事件がきっかけだったというのはあまりにも杜撰だ。

むしろ、あの事件ですら、鉄道会社や公的機関を動かさなかったと言うべきなのだ。もし、それが「きっかけ」だったのなら、事件後、女性たちが電鉄会社に痴漢対策の申し入れをした時に、痴漢だとアナウンスしたら、客が嫌がるとか、ましてや、痴漢も客だというような物言いをしなかっただろう。
東京で女性専用車両が導入されたというニュースに、在阪メディアの反応は冷淡だった。大阪でかつてひどい性暴力事件が起き、多くの女性たちがそれに抗して声を上げたという事実はなかったかのように、せせら笑いが聞こえてきそうな記事もあった。

もう一つ。事件がきっかけで導入されたのだと、当時の女性たちの思いや運動の歴史を端折ってしまうことは、女性の運動の歴史を踏みにじるものだとも思うのだ。
社会を変えようと行動してきた女性たちが、自分たちの運動の歴史を語るのに、事件がきっかけだったと言うのは当然のことだ。その事件に突き動かされて社会を変えねばと思ったのだから。でも、それを、事件がきっかけで変わったのだと、後の世代の人たちが言うことは、あまりにもリスペクトに欠けると思う。

世間では毎日のように性暴力事件が起こっている。なのにわたしたちはいつまで傍観者でい続けるのだろう。

 

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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