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禁断のフェミニズム Vol.9 インターネットとフェミニズム

相川千尋2020.05.06

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ツイッターは女性にとって安全な場所ではない。そのことが、ずっと気になっていた。

でも私には、女性がツイッター上でいやがらせを受けているのを目にしたときにどう行動すればいいのか、どうしても答えがわからなかった。#Kutooの石川優実さんがツイッターで「もう嫌がらせはやめてほしい」と言ったとき、いくつかの男性アカウントが「嫌がらせはやめるべきだ」と声を上げるのを目撃した。いいことだ。私は何も言えなかったから、すばらしいことだと思う。

そうなのだけど。

だけど、男性がそうやって簡単に声を上げられるのは、自分が攻撃される心配がないからではないのかと、私は勘ぐった。善意で声を上げた男性たちは、そのことに気づいていたのだろうか。気づいていたからこそ、自分たちが声を上げなくてはと思ったのだろうか(後者だとしたら、強いものが弱いものを保護してやるというそれは「パターナリズム」である。でもそれでも、何もしないよりはたぶんずっといい)。

少し古いデータだけれど、国連が2015年に発表したリポート(https://www.unwomen.org/fr/news/stories/2015/9/cyber-violence-report-press-release)がある。それによれば、調査対象となった女性の73%が何らかのかたちでインターネット上でのいやがらせを経験している。
日本に同様の公的な統計があるのかわからないけれど、体感的にも上記の調査と似たような状況なのではないかと思う。女性がいやがらせの標的にされやすいインターネットで声を上げて闘うことは、私には(そして多くの女性には)とても勇気のいることだ。

「 Women who do stuff」(何かしている女たち)というフランスの小さな雑誌がある。クラウドファンディングで発行されている雑誌で、1冊20ユーロくらいするのだけど、新型コロナによる外出禁止につき今なら下記サイトから無料で読むことができる。
https://www.womenwhodostuff.com/actu/2020/3/24/numro-1-de-women-who-do-stuff-en-accs-libre-

この雑誌の創刊号がインターネット特集だった。そしてその中に、「サイバーハラスメントに反対するフェミニスト」(https://www.vscyberh.org/)というグループへのインタビュー記事が掲載されていた。

そもそも、日本語ではインターネット上の悪意あるコメントを「クソリプ」と、なんとなくライトな名前で呼んで矮小(わいしょう)化して留飲を下げている感があるけれど、フランス語ではこれを「サイバーハラスメント」(cyberharcèlement、インターネット上のハラスメント)とはっきり呼んでいて、いやがらせであることが可視化されている。クソリプは、セクシュアルハラスメントとかモラルハラスメントと同じ、重大なハラスメントなのだ。

このグループは女性や少女、LGBTQI+、人種的マイノリティーを標的としたサイバーハラスメントに対抗するために2016年に結成された。2015年の秋から、サイバーハラスメント加害者のアカウントを凍結させるためにツイッター上のダイレクトメッセージで連絡を取り合っていた数十人のフェミニストたちが始めたものだという。

ハラスメントに対してツイッター社が手を打たないので、このグループは#TwitterAgainstWomenというハッシュタグキャンペーンを展開し、いやがらせの被害をシェアする運動をおこなってきた。このキャンペーンには数万人が参加した。そして、このキャンペーンを見た被害者からの助けを求める連絡が増えたので、情報提供の必要性を感じ、無料で誰でもアクセスできるサイトの運営を始めたということだ。グループはすぐに国会議員の作業部会や公的機関に呼ばれ、意見を求められるようになった。公的機関側も情報が不足していたのである。

こういうものが、日本にはないように思う。もし、明日私がいやがらせを受けたら、どうやって情報を集めればいいのだろう。法律がネット上のいやがらせについてどう言っているのか、私は知らないし、どう調べればいいのかもわからない。

フランスは社会運動がさかんな国で、フェミニストのグループだけでもほんとうにたくさんある。そうやって、まとまって連帯して対抗している姿を見せるだけでも被害者は守られている感じがするだろう。加害者に対する抑止力にもなるかもしれない。私にはこういうものを生み出す才覚はないけれど、でもこれが、ネット上でのいやがらせに対する答えのひとつなんじゃないかと思っている。

ところで、私には最近こうしたことすべてについての偽の解決策がみつかった。
ツイッターを見なくなったのだ。アカウントは残してあるけれど、急に興味がなくなってしまった。
もう、ツイッターの殺伐とした風景を見るのがいやになったからかもしれない。私が見ないからといって、ツイッターで悪いことが起こっていないことにはならないし、見たくないものに目をつぶったところで仕方ないとはわかっているのだけど。

フランス語では(英語でもそうだろうか)危険を見て見ぬふりをすることを「ダチョウみたいにする」(faire comme l’autruche)と言う。辞書を見ると、ダチョウは危険が迫ると砂の中に頭を入れると考えられていたため、とある。

私はダチョウなのかもしれない。
あるいは、新型コロナで在宅勤務をしていることと関係があるのかもしれない。物理的に世間から引きこもっていたら、なんだかそれを徹底的にやりたくなったというか。

またもしかすると、これはツイッターをとても愛していた反動かもしれない。こちらからわざわざ取りに行かなくても世界中の情報がタイムラインに流れてくるなんて、夢のようだと思っていた。いろいろな縁もツイッターにつないでもらった。罪悪感を抱くほどの時間、毎日ツイッターを見ていた。

だから、もしかするとこの急な変化は「依存の対象との節度ある付き合いは、依存症患者にはできない」という、単純にそれだけのことなのかもしれない。ということは、またもし再開したら、前のように狂ったようにツイッターをするかもしれない。先のことはわからない。

でもとにかく今、私は心穏やかで、自分の仕事と読書と自分自身の内面にとても静かに集中できている。

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