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事実が消えて、言葉に意味がなくなる日。

北原みのり2020.05.28

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資料を整理していたら、1984年の朝日ジャーナル「女の戦後史」がでてきた。森崎和江さん、高良留美子さん等がご自身の専門から「女の戦後史」について論考するリレー連載なのだけど、津島佑子さんが「言葉」をテーマに「女の戦後史」を記していて、これが面白い。津島さんはこう言う。

「女に関係の深い言葉は短いサイクルで言い換えが多く行われてきた」

たとえば「職業婦人」が「BG」となりすぐに「OL」と変わっていったように。「女中」が「お手伝いさん」になったように。
そこに差別的な意味が含まれていから言葉は変わる。けれど結局、中身(社会)が変わらなければ言葉もすぐに使い古されてしまうのが女性のおかれている現状なのだろうと、津島さんは分析する。驚いたのは、津島さんによれば「料理」「家事」も最近の言葉(80年代にとっての)だということだ。「料理」は「炊事」の言い換えなのはすぐに分かるが、「家事」は? 炊事・洗濯・掃除といった「仕事」感を薄れさせるために、まるめられたのが「家事」なのか? (←詳しい方いたら教えてください!)

興味深かったのは「主人」「旦那」という言葉が、大正・昭和の小説には皆無だったと津島さんが分析するくだりだ。

「漱石では、『宅の人』『良人』であり、下女に対する時だけ『御主人』と呼ぶ。逆に夫も、『妻君』『妻』であり、下女に『御奥さん』と呼ぶ」

といった調子で、津島さんは昔の小説を徹底的に読み返しながら「主婦」「主人」「旦那」「奥様」といった言葉が「新しい」ことを指摘し、こう嘆く。

「雇用関係がある場合のみに使われていた言葉(主人・奥様)が現在、なんの抵抗もなく使われるようになっていることは、夫婦の認識が保守化しているからなのか」

・・・そうかもしれないですよ、津島さん!! 
1984年の津島さんに2020年の私は交信する。
この前みた時代劇など、お姫様が夫のことを旦那様って呼んでましたよ! 男が全員あぐらなのに女だけ正座してたし!!(戦国時代、高貴なお方は女も男もあぐらです!)。言葉から仕草まで、女<男 みたいなのが当たり前になっちゃってるんですよ! とはいえですね、先日見たNHKの街頭インタビューで(テレビの話ばかりでゴメンナサイ)、「主人は自営業です。主人は毎日一人でお昼を食べています。私は外でランチ。主人に申し訳ない〜ワハハ」と「主人」を連発する女性がいたんですが、その時のテロップが全て「夫」に書き換えられてました。テロップ係にフェミがいる! と思わず笑ったのだけど、こういう「書き換え」素晴らしいですね、わはは。日々の小さな抵抗が言葉を変えていき、実態を変える力になれば・・・ねぇ、津島さん!!

・・・そんな風に40年前の津島さんと勝手な交信をしたくなるのも、やっぱり現実感のない、というより事実がどこにあるか分からない、空しい言葉が飛び交うようなリアルを生きているからなのかもしれない。

緊急事態宣言が解かれた日、「日本モデル」という言葉を何度もメディアで見聞きした。これは、何の言い換えだろう? 無残な現実を新しい言葉で言い換えて勇ましさとクールさをアピールしている場合なのか。

公衆衛生と感染症を専門にしている友人が「日本はかなり失敗している」と断言していた。と、わざわざ専門家の友人の口を借りなくても、そう思っている人は少なくないだろう。欧米やブラジルから届く衝撃的な死者数や、医療崩壊の現場の映像とは確かにほど遠い状況にみえるけれど、台湾7人、韓国269人の死者数に比べ862人(5/27)はやはり多すぎる。もちろん人口は違うが、東京とほぼ同じ規模のソウルで死者は4人だ。東京は280人(5/27)。東京だけで韓国の死者数を上回るのだ。その事実は衝撃だ。

山中伸弥教授も言っているが(https://www.covid19-yamanaka.com)、東京は正確なPCR検査数を出していない。と、また権威を引っ張り出して言ってみるが、私は最近までそのことを知らなかった。陽性から陰性になった人の検査(一人につき複数回行われる)も数に入れているため、検査数に対する正確な陽性率がわからないのだ。しかも、この数字の出し方は東京都だけだ。例えば東京都のCOVID-19のHPをみると(このHP、オシャレだが、非常に見にくい。広告代理店がパッケージにして全国の都道府県に売っているみたい。今のところ北海道・栃木・千葉・福井・兵庫・岡山・島根・愛媛・沖縄が同じHP)、5/25日の時点で保健所での検査数は14,850人だけれど、総数は63,824件とある。

いったいどういう数字なのか理解できない・・・ので、専門家の友人に聞くと

「真の検査実施人数はこの二つの数字の間のどこだか都民にわからなくしてる。陽性率も諸外国と比較できない、総実施件数をわざと分母にして『陽性率1%です(百合子)』って広報してるの」

とのことである。百合子、悪魔過ぎるだろう。

テレビに出まくる維新の人たちや都知事の意気込みは、まるで自分たちが日本政府より有能で、迅速に対応し、リーダーシップをふるっているというイメージを放っている。それでも実態は決して、都民ファーストでも府民ファーストでもない。ちなみに厚生労働省は4/19日までは全ての都道府県の正確な数字を公表していた(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000623123.pdf)。これをもとに人口比の検査率を計算すると、東京よりも和歌山、東京よりも鳥取の方が検査している。ランダムにピックアップした県だけど和歌山は0.25%、福岡は0.12%、鳥取はドライブスルーなど頑張ってやっていたが0.098%が検査している。一方、東京と大阪は0.05%だ。満員電車のない鳥取に住んでいた方が、東京の2倍、検査してもらえる可能性があるのだ。(※SNSで鳥取の5倍と記して拡散しちゃいましたが、2倍でした。東京の5倍検査してくれるのは和歌山ですね! 4/19 までの数値)

「日本モデル」は37.5度が4日以上続くまで体調が悪くても #うちで治そう #4日はうちで とキャンペーンを張ってきた。COVID-19の怖さは無症状の陽性者がいることとか、初期に治療すれば重症化のリスクは抑えられるとか、素人ですら他国から情報は入っているというのに、この国はPCR検査を対策の柱にしないと決め、パニックになった大衆が病院に押し寄せ医療現場が機能しなくならないために(←妄想としか思えないが、実際にそのように専門家は説明した)、具合が悪くてもできる限り我慢しようね、とPRを続けたのだ。

韓国は事実を明かにすることで、人々の不安を抑えた。
日本は愚かな大衆がパニックを起こすことを前提に、事実を伏せる道を選んだ。
恐ろしいのは、誰がそれをどうやって決めたのかが、責任者の顔が明確に見えないことだ。検査してもらえず、不安を抱え、ようやく病院に行けたらたらいまわしにされ、あっという間に重症化して亡くなってしまった人。死後に感染していたことが分かる人もいる。でも何をどう批判しても「誤解されるようなことして申しわけありません」と、事実をすり替えた謝罪が、最初から聞こえてきそうな気配も濃厚だ。

書きながら思考がふと過去に飛び思い出したことがある。そういえば私は、パチンコ屋でアルバイトしていた時期がある。バブル頂点の六本木のパチンコ屋だったが、世の中にはこれほど毎日同じ時間に出勤するようにパチンコをしている人がいるのかと驚いたものだ。今も私は年に一度くらいパチンコをする。「冬のソナタ」はパチンコでストーリーを知ってから、ドラマを観た。韓流がパチンコに入ってきてから、時々行くようになった。多くの人が言うことだが、パチンコ店は最先端の高機能の換気システムがあって空気はきれいだ。一人一人が台に向かい、口を閉じ自分の時間に没頭する。台の間隔さえ開ければ、感染リスクからは最も遠い世界だ。満員電車の数千倍ノーリスク。それなのに業種を選んで叩く、しかもさも「自分はやりたくないけれど、皆さんの命を守るために仕方なく」な雰囲気を演出しながら。なんて残酷な為政者だろう。

愚かな大衆は、分かりやすい言葉に一喜一憂する
こういう時こそ、政治家として飛躍するとき!
とばかりにテレビに出まくることを優先させ
自分より大きいものを批判してヒーロー気取りで
わかりやすい敵をつくり虐め
地道に検査数を増やし続けている地味な県の地味な知事(ゴメンナサイ)たちよりも
「東京は陽性率1%でございます」と微笑む百合子に軍配があがる。
まさに大衆は思いのまま・・・。
でもちょっと待った!

そうですよね、津島さん。そんなまやかし、これ以上きくわけないですよね? ご存知でしたか、今の都知事は、『トルコ風呂』を『ソープランド』に言い換えた立役者だったそうですよ。当時も性産業で働く女性の労働環境には大変な問題があったし、その一人一人に様々な背景があった。それでも百合子氏は働く女性のことなど全く無関心で、買春文化を男性から奪うことなく、性産業を新しいイメージに変え、劣悪な労働条件も含め中身変えずに持続させることに力を貸したんですよね。

そんな都知事に、「日本モデル」と小さなマスクの裏側からわめく首相、そして大阪でどや顔する男達がなにやらえらくもてはやされてる不気味。握られているのは私たちの命。ああ、命、という言葉まで、この国にいると「虹色の雫」とか「青空の涙」とか、そんな言葉に言い換えられそうな、もともとはかないものですよ、でも美しいものですよ・・・みたいな軽さに変えられそうで怖い。
強く無意味に明るくキラキラしている言葉に呑まれず、本当の言葉を手放さないでいるために、津島さんの言葉や、いろんな作家の言葉を今、読みたい。

 

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北原みのり

ラブピースクラブ代表
1996年、日本で初めて、女性だけで経営するセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」を始める。
著書に「はちみつバイブレーション」(河出書房新社1998年)・「男はときどきいればいい」(祥伝社1999年)・「フェミの嫌われ方」(新水社)・「メロスのようには走らない」(KKベストセラーズ)・「アンアンのセックスできれいになれた?」(朝日新聞出版)・「毒婦」(朝日新聞出版)など。佐藤優氏との対談「性と国家」(河出書房新社)・最新刊は香山リカ氏との対談「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」(イーストプレス社)など。

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