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夏の宝さがしーー野生の味の楽しみーー

中沢あき2020.09.18

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8月のドイツは3週間ほど猛暑だった。30度を超える日が続き、湿度は低くて日陰に入ればしのげる暑さではあったものの、さすがにしばらくすると夏バテ気味に。おっと、これはまずい、と警戒し始めたところで幸いにも気温が少しずつ下がり始め、朝晩の空気がぐっと冷え込むようになった。青空の高いところに薄く雲が散らばるようになり、あ、もう秋ね、と気配を感じると、もう夏は終わりだ。やはり北国の夏は短い。

そんな短い夏でも暑い時にはアイスクリームがおいしい。いつもだったら街のここそこにあるアイス屋さんに行って、カップやコーンに盛りつけられる自家製アイスをよく買うのだが、今年はウイルス感染のことがなんとなく気になって、やや足が遠のいた。もちろん店内では店員も客もマスクをしていて、製造過程でも普段以上に衛生管理はしているはずだが、それでもやはり、すっかり安心という気分にはなれなかった。

代わりにこの夏ハマったものがある。イートンメスという、崩したメレンゲに泡立てたクリームとベリー類を重ねてグラスに入れ、混ぜながら食べる英国の夏のデザートだ。ドイツではメレンゲ菓子のことをベゼーといい、ケーキ屋やパン屋などのショーケースの隅に、大人の手のひらくらいの大きな雲の形のような白いメレンゲが無造作に積み上げられている。ところがこのイートンメスを作ろうと思い立って夫に買い物を頼んだら、なぜか町中のどこのパン屋にもケーキ屋にも置いてなかったと手ぶらで帰ってきた。暑い天気のせいなのか、材料の卵白がたまたまなかったのか知らないが、とにかくどこにもない、と。諦めきれなかった私は翌日、もしかしてスーパーには売ってなかろうかと探してみたら、菓子コーナーの棚にひっそりと、キスチョコのように絞り出した形の小さなメレンゲ菓子が20個ほど詰められた袋を見つけた。うん、これでもいける!

英国と同じくドイツでも、ベリー類は夏のフルーツである。5月くらいから国産のイチゴが出回り始め、6月後半からはドイツでは聖ヨハネのベリーと呼ばれる赤すぐりやラズベリー、ブラックベリー、グーズベリーなどが市場や八百屋、スーパーの店先にプラスチックパックに無造作に盛られたものが並ぶ。その値段は1パックでだいたい3~4ユーロほど。日本の感覚でいえば300~400円くらい。他の果物に比べるとやや高めだけれど、日本のイチゴの値段を考えたら、気軽に大人食いもできる値段である。

鮮やかな赤や濃い紫にかがやくこれらのベリーは見た目も愛らしくて宝石みたい。自宅の庭などに植えて楽しんでいる人もたくさんいるが、おもしろいのは野生のベリー。中でもブラックベリーは、散歩に出かけた先の森や林の中、または公園の中にも、いやその辺の道の脇の草むらになど、思わぬところに突然大きな茂みが現れ、黒びかりするベリーがたわわに実った姿を見せるのだ。
その見事なことと言ったら、思わず声を上げてしまうくらい。そして見回せばその辺り一帯にはこの茂みが広がっている。低木樹なのだが単独で生えていることはなく、たいていは別の木を伝いながら伸びていき、それらの木々の間から伸ばした枝にたっぷりと実をつけている。それを見つけて採るときのワクワクした気持ちは、まさに宝石探し、だ。

その赤い実は同じ木イチゴ属のラズベリーとそっくりだが、これはまだ酸っぱい。墨のように黒くなって少し柔らかいものがよく熟れている証拠。つぶさないようにそっと指先でつまみとって口に入れると、甘くて香りのある味が口の中に広がり、舌もむらさき色に染まる。気をつけないと指についた汁が服に飛んでむらさき色の点々がついてしまうのだが、気をつけてはいても、子どもの服にはすでにシミがついていて、口のまわりもむらさきの汁まみれ。バンパイヤのような顔で「もっとくれ」とせがんでくる。おいしいものに中毒性があるのは子どもでも一緒だ……。

気をつける、といえば、まず実の採り方だ。枝がするどいトゲだらだけなので、肌に当たるとかなり痛いし、服なんてすぐに引っかかって破れたりするので、無理せず手の届く範囲で採るか、そっとトゲのないところをつかんで枝を引き寄せたりしながら採る。なかにはバケツ持参で集めている本気組の人たちもいるが、彼らは農作業用のシャツやズボンにゴム手袋もはめてと装備万端である。

そして次の留意点は、採る位置。足元の高さから、数メートル頭上の枝まで、あらゆる位置に実が成っているが、大人の腰よりも低い位置のものは採ってはいけないとされている。というのも、犬やキツネが舐めたりオシッコをひっかけたりしている可能性があり、特にキツネなどの野生動物の場合は寄生虫や病原菌をそこから媒介させることがあるのだそうだ。だからまだ小さい子どもが採りたそうにはしていても、絶対に手は延ばすなと言いきかせ、あくまで大人が採ったものをあげるしかない。

そしてもう一つのデンジャーポイント。ベリーの枝はトゲだらけと書いたが、なぜかこの茂みのそばには同じくトゲのあるアザミやイラクサが生えていることがよくある。(ところで今、イラクサと打ったら「刺草」と変換されて出てきた。まさにその通りの当て字なんですね)アザミのトゲはしっかり見えるのでわかりやすいが、こわいのはイラクサ。見た目がちょっとシソにも似ているこの草、パソコンで漢字変換したら「刺草」と出てきたように、触ると細かなトゲがたくさん生えている。しかもこのトゲ、触れたところにまんべんなく着いてきてそのあと猛烈に痛がゆくなる。ドイツでは草むらや山林を歩くときにはこのイラクサに触れないように気をつけろとしょっちゅう言われるが、トゲはトゲを引き寄せるのだろうか。まさに「類は友を呼ぶ」状態のおそろしい茂みである。または「虎穴に入らずんば虎児を得ず」かな?ちょっと危険を冒して手に入れる味だからこそ、甘酸っぱいの魅力も倍増なのかもしれない。

ちなみに野生ではない園芸用のブラックベリーも出回っていて、こちらは枝にトゲもなく、種の少ない食べやすい実ができる。この実も上品な香りでおいしいのだけど、やっぱりちょっと物足りない。野生のブラックベリーの強い香りや、やや酸味強めの、でも熟れた甘さと酸味のバランスのとれた味は魅力的だし、何よりも思わぬところで見つける驚きと、危険を冒しながら自分で得る楽しさがある。童心に帰る、というのはこういうことだねえと、いい大人の私たちは、次は枝を引っ張るために傘を持ってこようか、いや来年は脚立を持ってくるか、と真剣に話し合っているのだった。

写真1~3:
©Aki Nakazawa
散歩の道の脇に広がるブラックベリーの茂み。頭上にもたわわに実る枝が見えますが、さすがにあそこには手が届かない……。朝日を浴びてかがやく実を見つける嬉しさといったら!

写真4.5:
©Aki Nakazawa
ドイツ語ではブロムベーレ(Brombeere)というこの野生のブラックベリー。子どもも犬も皆が大好きな夏の味です。

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中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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