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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 晩秋の遠足とロックダウン延長

中沢あき2020.12.10

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11月の後半、気温はどんどんと下がって日中の最高気温が10度を下回るようになった。その直前に友人から「今年最後のキノコ狩りに行こう」と誘われた。キノコは10数度の気温と秋の雨の湿気でよく育つらしいが、気温が10度を下回る寒さになると姿を消すのだそうだ。彼女は今年、キノコに詳しい別の友人に教わってキノコ狩りにはまり、あちこちの森に毎週出かけては、見つけたいろんなキノコの写真を送ってきてくれた。日本で言えば松茸のようなポルチーニが一番のお目当てだそうだが、もちろんそれを探す間に他の食用キノコも見つける。キノコアプリで見比べて、食べられる種類なのかどうかを調べるうちに、かなり詳しくなっていた。
わが家も近所の森に出かけてみたが、木の種類が違うのか、食用と知られているキノコを二種類ほど見つけたものの、なんとなく食べる気にならず、ただ子どもとキノコ探しを楽しむだけだった。しかし今回は友人が、木の種類も教えてくれるというし、町外れの森は空気もきれいでいい散歩になるよ、というのでその気になる。

出かけた日は気温が下がり始めた日で、朝の気温は5度以下。子どもはベビーカーに乗せていくが、冷えないようにフリースの裏地がついた撥水(はっすい)加工のサロペットを履かせ、同じ素材のジャケットを着せてと見た目はスキーに行くんですか? の防寒スタイル。しかしこれが冬のドイツの子どもたちが外遊びをするときの格好なのだ。やっぱり北国だなあ。さらに自分の分も一緒に腹巻きやら使い切りカイロもリュックサックに入れる。本当は遠足にはおにぎりだよなーと思いながらも朝からごはんを炊く気力はなかったので、こってりバターとチーズを挟んだパンに前日の残りのバナナブレッド。さらに電車に乗る前に駅前のパン屋でパンも買い込んだ。水筒には熱いお茶をいれ、ベビーカーの付属カゴに突っ込んでおく。友人とは電車で乗り合わせ、一度乗り換えをした電車の終点まで乗ること30分ほど。意外と早く着いた。わが町は一応100万人都市なのだが、東京で電車に乗って山や森へ向かうと1時間以上かかることを思うと、やっぱり東京って大都会なんだなあ。

さて電車を降り、サクサクと知った道を歩いていく友人について、早速森へと入っていく。散策のための道がちゃんと切り拓かれているとはいえ、街中の道路とは違ってデコボコだったりぬかるんだり。その道をどんどん進むことができるのはドイツのベビーカーならでは(親戚から譲り受けたわが家のものはスウェーデン製なのだが、似たようなもんだ)。日本のベビーカーと違い、デカくて頑強だ。譲り受けた当初はその見た目に、果たしてこれを日々押したり持ち上げたりできるんだろうかと恐れおののいたが、いざ使い始めるとなるほど納得。ちゃんと整備されていないガタガタの道だろうが石畳だろうが山道だろうが、ガンガン行ける。日本のベビーカーだったら数日で壊れるだろう(一方で欧州製は日本だと動きづらくて大変そうですが)。
まだ午前中の早いうちだから時々他の人たちとすれ違うくらいで、森の中は静かだ。ちなみにこの森から数キロ先には空港があるので、飛行機の音がうるさいだろうと思いきや、これもほとんど聞こえてこない。飛行ルートからずれているのか、それともロックダウンのせいでフライト数が減っているからか。ロックダウンといえば、各種娯楽施設が閉まっている今年は自然を楽しむ人が増えているそうで、すれ違う人たちの中には、軽装の若者のグループを見かけたりしてちょっと気になったけれども(ロックダウンのルールでは、二世帯以上は集まってはいけないことになっているのだ)。

しばらく歩いて行ったところで友人が、道から外れた林の一角を指さした。「この辺で前回は見つけたんだよね。行ってみようか」
ベビーカーを道の脇に残し、道と林を区切る堀を子どもを抱えて渡ると、その一帯は落ち葉が降り積もってフカフカ、と思いきや、雨水や露でぐっしょりぬれ、ところどころ沼のように足が沈みかける。うーん、本当はトレッキングシューズとかが必要なんだな。履いているローカットのスニーカーに水が入らないようになるべくしっかりしたところを選んで足を踏み出していく。時々手を借りながらも、友人の後を興味津々でついていく子どもの足も結構ぬれているが、子どもにとってはこれ大冒険と言わんばかりの真剣な顔つきだ。

「こういう湿ったところに本当はたくさんあるんだけど、うーん、もうないねえ。時期がやっぱり遅かったかな」とUターンした友人が堀を渡る手前で、あった! と声を上げた。どれ? どれっ? と子どもを抱えて追いつくと、彼女の両手のひらからはみ出んばかりの大きなキノコだ。「ほら、二つくっついているでしょ? カサの裏側が変色しているけど、これは大丈夫、食べられるよ」と説明してくれたそのキノコはドイツ語でマローネンピルツ(栗のキノコ)という種類のものだ。採ったキノコは湿っているのでビニール袋などに入れるのは厳禁なのだがカゴなどは持ってないので、さっき食べ終わったパンが入っていた紙袋に入れる。

調子づいた私たちは別の場所へと移動して、探し回る。慣れた友人はどんどん奥に入っていくが、探すのに熱中したあまりに奥に入りすぎて来た道を見失いかけたこともしばしばだとか……。ここは町外れなので携帯電話の電波も届きにくい。なるほど、こうやって森や山で遭難するのね、と実感する……。この場所でも再び、先ほどのマローネンピルツを彼女が発見。私は前回たくさん採ったから、と私たちにくれる。苔の生えている場所、水のそば、木の種類、とお目当ての食用のキノコを見つけるためのヒントを説明してくれる彼女はこの数カ月で相当知識を積んだようだ。

さらに彼女は別の「いい場所」へと案内してくれる。ベビーカーを林の入り口に置いて、それを目印にしながら遠くに行き過ぎないようにしつつ奥に入っていく。すると、子どもが「あった」叫んだので、その指がさす方向を見ると、ほんとだ、あった!これまた見事に丸っこい栗色のマローネンピルツが落ち葉の間に頭を出している。このキノコは落ち葉の色と似ているので、それを探すのはなかなか目が疲れる作業なのだが、子どものほうが目がいいからよく見つけられるのかもしれない。この宝探し、大人にとっても子どもにとっても楽しい。ひととおり彼女の案内予定の場所を巡り終えると、収穫量はなかなかのもの。終わりの時期なのに、これだけ採れたのは大収穫だ。すでに2時間以上ほぼ休みなしで歩き回った私たちは、池のほとりのベンチに座り、持ってきたパンやケーキやチョコレートをかじり、温かいお茶をすすって一休みした。隣のベンチには3人のおばあちゃんたちが、持ってきた携帯ラジオで漫才のような番組を聴きながら皆で笑っている。ロックダウンで思うようにたくさんの人に会えなくても、いつものカフェに行けなくても、こうやって集まって楽しんでいるのかな。

さて、その日の晩御飯はマローネンピルツのリゾット。「このキノコは加熱するととろみが出るから、リゾットやスープに合うよ」との友人の言葉を思い出し、翌日は和風にしょうゆ味のキノコ汁にした。子どもも「キノコ」とつぶやきながら、そればかりつまみ出して食べている。冬の一時帰国ができなくて、大好きな舞茸やなめこが味わえなくて残念だけど、このキノコ汁で心がなぐさめられたよ、ほんと。

この翌週からいよいよ気温はグーンと下がり、冬の気候が到来した。昨年はびっくりするくらいの暖冬だったのに、コロナ禍の今年になってちゃんと寒い冬が来るなんてなんとも皮肉だなあと思ってしまう。これで今年のキノコの季節は終わり。来年また友人に親子で弟子入りさせてもらい、次回はポルチーニを見つける約束をした。ロックダウン下でも晩秋の遠足を楽しめた機会に感謝。


写真:
©Aki Nakazawa

そしてやはり、というか、このロックダウンはクリスマスから年始までの1週間は緩和され、友人や家族の集まりの機会が許されることにはなったものの、それまでの数週間のルールは厳格化され、そして緩和後の1月10日までロックダウンが延長されることがすでに決まった。現状では、ロックダウン開始前とほぼ変わらない感染者数の水準と死者数の増加や厳しい医療現場の状況が報道される日々で、クリスマス緩和すらひっくり返るうわさも出てきている中で、ステイホームはまだまだ続くことになりそうだ。くだんの友人がキノコの次にはまっているのは、家の暖房で干し柿作りを試すことだそう。日々の楽しみを見つけるのは自分次第だなあと、その話を聞いて笑いながらもひそかに感心したのだった。今年の冬の楽しみは何にしましょ?

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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