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捨ててゆく私「愛はジタンの香り」

茶屋ひろし2021.06.04

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脳というのは愚かなもので、体に悪いとわかっていても気持ち良ければオッケーを出してしまいます。
なかでも、タバコ、酒、甘いものは、摂り過ぎのラインをいつのまにか超えてしまうベストかもしれません。
今年に入ってから胸のあたりが痛くなって、なかなか収まらないので病院に行くと、心臓の動きが弱まっていると診断されました。
そしてセットのように「タバコはすぐにやめてください」と言われました。
ちょっとびびって、それから三日くらいはやめていましたが、四日目に飲み会があって吸ってしまいました。

難しいものです。

ちょうど診察を待っている間に、養老孟司の一連の著作について書かれた本(『養老孟司入門』ちくま新書)を読んでいたら、脳は死体を嫌がる、と書かれていました。それは自らの活動を停止する象徴だからだそうです。
なのに、ねえ。心臓が止まったら自分も死ぬのに、タバコに関してはオッケーを出してしまうのですか。
タバコ自体は不味いのに、ニコチンが快楽物質を引き出すことくらいは知っています。
となると、これは自分の脳と向き合う必要があります。
タバコを吸いたくなるたびに、「吸わなくてもええんやで」とか、「ほら、ご覧なさい。タバコを吸わなくても生きている人たちがこんなにいるでしょう」と、あれやこれや自分に言い聞かせるようにしてみました。

なんとなくいける感じです。

数年前に一度やめたときは、チャンピックスという薬の力を借りました。
ケミカルの力はすごいもので飲み始めて三日で吸いたくなくなりました。けれどその後一年くらいたって困ったことが起きました。
他人のタバコの煙を嫌悪するようになってしまったのです。
居酒屋で後ろの席からタバコの煙が流れてくるだけで腹の立つレベルでした。
こういうの、まともじゃないわ、と思っているうちに、また吸うようになってしまった元の木阿弥です。

というわけで、今回は薬の力を借りずにやめてみたい。
ところが、吸いたい吸いたいと、一時間おきに脳が求めるのです。それをなだめるのにも苦労します。
そうですか、じゃあ五時間に一本ということにしましょうか。と、ロキソニンの摂取期間のような提案を脳にしてしまい、ご褒美じゃないんだからと思いながら、そういうことにして吸っています。
21歳のアルバイトの男の子から、「タバコを吸ったら先生(医者)に怒られないんですか」と質問を受けました。
「うん、もう大人だから、怒られることはないのよ」と答えました。
家族の話をするときに、お父さん、お母さん、と言う彼に、外では、父、母と言うものよ、と教えることを保留にしています。この可愛さをもう少し味わっていたい。

たしかに子供がいたら、すぐやめたりできるのかもしれません。

朝起きてラジオをつけたら、今日は世界禁煙デーです、とかで、タバコにまつわる歌を紹介していました。
男性のアナウンサーは、長男が生まれたタイミングでタバコをやめたと語っていました。もう三十年になります、と。
子供への健康の配慮と、働いて養っていかなければいけない責任みたいなものでしょうか。
子供や犬猫のいない私は、その責任感情がわくことはなく、かといって、長生きしたいという思いもありません。
強いて言えば、痛いのは嫌だからやめようかな、くらいです。実際、普通に吸っていると胸の痛みが増すような感覚もあります。

年末からストレスフルな出来事に遭遇して胸を痛めていました。それがそのまま心臓の動きに直結してしまった、という認識でいましたが、医者からは「ストレスは関係ありません!」と一喝されました。
ほんとかしら、と納得はしていません。

ラジオでは「愛はジタンの香り」という昔の歌が紹介されて、その歌詞に「愛はタバコのように胸を痛める」という一節がある、とアナウンサーが言います。
うまいタイミングだわ、と自分の境遇を重ね合わせました。
このたび、初めて心筋症という病に罹りましたが、おおまかな感想は、年をとったな、ということです。中年になったら胸を痛めるのもほどほどにしておかないと、身体の動きに現れてしまうようです。ああ、年をとればとるほど、いい加減に生きていくつもりだったのに、おかしな話です。

最後に、少しこの場をお借りして、これを読んでくれているリアルに私を知っている方たちへ。
それなりに対処していきますので、過度な心配やお気遣いは無用です。
これからもどうぞよろしくお願いします。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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