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TALK ABOUT THIS WORLD ドイツ編 7月14日の雨 – 未曽有の水害に襲われたドイツ

中沢あき2021.07.21

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その日は朝からかなりの雨の降り方だった。朝、子どもを保育ママのところへ送り届けるのは夫の担当なのだが、夜遅くまでの仕事でこの日の朝はまだ寝ていた彼の担当を私が引き継いで家を出ようとしたら、雨が急に強くなってきた。
夫いわく「朝にすごい雨が降ると警告が出ていたよ」。
歩いて5分ほどの保育ママの家まで、レインカバーで覆ったベビーカーの中にいた子どもはぬれずにすんだが、私は傘をさしてコートを着ていたにもかかわらず、家に戻ってきたときにはジーンズもスニーカーもぐっしょり、コートの下のTシャツまでぬれていた。
その後も雨の勢いはそれほど変わらずに降り続け、仕事部屋の窓の外をたびたび見ながら、よくもまあ降るなあ、とかすかな不安を感じていた。

午後3時過ぎに子どもを迎えに行くときには雨は再び強くなり、またもや私はびしょぬれ……。同じように傘をさしたりレインコートを着ながらベビーカーを押している他のママたちの足元を見て、私も今年は長靴を買おうと決心する。
保育ママの家のドアから出てきた子どもは予備の服に着替えさせられていて、行きに着せていた撥水ジャケットはぐしょぬれ。なんとあの雨でも外遊びをさせてきたんだとか。マジか……。「ちょっとくらいの雨なら子どもは外で遊ばせなきゃ」の保育ママのモットーには私も大賛成なのだけど、さすがにこの雨でも遊ばせるとは思わなかった。
苦笑いをしながら子どもを引き取り、再び雨に打たれながら家に帰って速攻子どもとバスルーム行き。ついでにと子どものジャケットはさっと手洗いして脱水して干しておく。その間ずっと、バスルームには外で降り続く雨の音が響いていて「よく降るねえ。ドイツでこんなに雨が降ることってあんまりないのよ」と何度も子どもに語りかけたほどだった。

温かいシャワーを浴び、ぬれた服を片づけて、ほっとしながら夕飯を食べ始めた頃、雨の勢いが異常に増してきた。朝からこんなに降っているのに、もっと降るのか! と仰天するほど、滝のような土砂降りがゴオオという音とともに続く。
実は朝からどころか、この3日ほどはずっと雨続きで洗濯物もなかなか乾かずに臭くなるし、まるで日本の梅雨みたいだと思っていたのだが、今度は台風か!? ここドイツ西部は国内でも降水量は多いほうなのだが、それでも春や秋にしとしと霧雨かシャワーのような雨が短時間でパッと降る程度で、一日中雨が降り続ける日はほとんどなく、ここ数年は夏のゲリラ豪雨で被害が出ることもあったが、それも短時間の降り方だった。

ドイツではこんなに雨が降ることってないんだけどねえ、と誰にともなく何度もつぶやいてしまう。
この雨の様子はマズいんじゃないかと、さすがに不安になってくる。
先週テレビで見た、熱海の土石流の映像が頭をよぎる。ラジオをつけると、トップニュースは現在降っているこの雨のこと。なんと我が州が一番激しい降り方らしく、一部地域ではすでに避難警告も出て、介護施設や病院などもそろって患者を避難させているという。
窓の外を見ると、道路は水たまりどころか一面水浸しだ。
ライン川の水位も上がってまた旧市街が浸水したりするのかな、と、あれこれ考え始めてしまう。わが家は幸い河川からは離れているのでさすがにここまで水が流れてくることはないだろうが、それでも下水があふれる可能性や、数日前から向かいの道路で続いている電線の工事現場を見て、停電の可能性もあるなとあわてて携帯の充電を始める。
ドイツは水道だけでなく、電線や電話回線もすべて地中に埋められているので、水がそこに流れ込んで故障したりすることも考えられるし、そもそもこういう大雨が降ることのない土地なのだ。だから想定外のことが起きることも考えておかなければと落ち着かない気持ちでいたら、隣市に住むママ友からメッセージが入った。
「明日会う約束だけど、どうする? 今、仕事先から車で帰ってきたんだけど、この辺り、浸水し始めてひどい状況なの」

夜半過ぎに雨は弱まり、翌朝には雨もやんでいて、わが家のまわりの道路から水たまりは消えていたが、朝のテレビニュースを見て肝をつぶした。
家や車が泥水に押し流されていく各地の様子が映し出されているではないか。ここから20キロメートルほどのエルフトシュタット(Erftstadt)という町は大きな地滑りが発生して家が飲み込まれ、そのまわりも水に浸かっている。
そういえばここはエルフトという川を中心に河川が入り組んでいて、水の町をうたっていた町だ。そしてここから60キロメートルほど離れたアール(Ahr)という地域は、いくつもの町や村が鉄砲水に飲み込まれて壊滅状態だった。
ここには何度も訪れたことがあるが、谷間に位置するワインと温泉、スパで有名な地域で、ドイツの伝統的な街並みが見られるのだけど、記憶にある街並みの無残な姿が現実のものに思えなくて言葉を失った。
ドイツで水害といえばこれまでは、ラインやドナウ、エルベなどの大きな河川が山からの雪解け水などで増水してあふれることがほとんどで、だからそのための防災措置は取られていたけれども、まさかこの山の中で鉄砲水が起きるなんて誰も思っていなかったはず。ゆえに防災の備えもなく、避難も遅れたりしたらしい。
7月20日現在で、ドイツでの(この降雨と洪水は隣に位置するベルギーやオランダでも起きている)死者は190人を超え、まだ連絡の取れない行方不明者は700人以上、負傷者も750人以上に上っている。

朝しばらくして、くだんのママ友からまたメッセージが入った。
「今日はやっぱり延期しよう。うちのまわりは水浸しでまだ停電も続いてて放心状態だわ。出かけられる状況じゃない」
ええー、あのまわりもそうだなんて。
あとで知ったが、郊外の別の友人宅も膝までつかる浸水で地下室に水が流れ込んで大変だったとか。翌日の金曜日にはいつものマルクトに買い物に出かけたが、なじみの肉屋さんが来ていなくて皆が心配していた。彼らの住所をグーグルマップで見ると、洪水被害にあった場所のすぐ隣に位置していて、被害がなかったか、気になる。

人命救助が今は第一だが、少し時がたてば別の被害状況も明らかになってくるだろう。
先に書いたようにドイツは生活のライフラインが地中に埋められている。それがすべて流されたから飲料水の供給はもちろん、電気も電話もまともにつながらない状況がこの先何カ月も続くだろう、と言われているが、グシャグシャになった土地を整備して、またそれを以前のように地中に埋め直すまでどれだけ時間のかかることか……。
仮設の住宅は早急に用意されるだろうけど、あの美しい街並みが向こう何年も仮設の建物が並ぶ様子になるのも想像できない。
実際すでに、今回の災害を踏まえた対策の可能性を考えると、まったく同じ街並みに戻すことはできないだろうとの意見もある。古き良き町並みを守るドイツ人にとってはつらい選択になるだろう。
そしてこれらの地域の農作物や工業などへの打撃も大きい。
今回被災した地域、特に壊滅的になった地域、アールはワインの名産地だった。ブドウ畑の被害もそうだが、ワイナリーの被害も大きいのではないか。その隣のモーゼル(Mosel)という浸水した地域もまたワインの名産地。来年以降、ワイン生産はどうなるのだろう。昨年はコロナ禍で閉めざるを得なかったワイナリーや観光業がやっと緩和で開けたと思ったらすべて流されてしまった。マルクトで肉屋と向かい合わせに店を開く農家のおばさんはお客さんと口をそろえて言っていた。
「聖書に書いてあるとおりよ。ウイルスや病気の次は洪水。昨日は2回も読み直してしまったわ」

聖書が引き合いに出されるのはやっぱり欧州はキリスト教文化なんだなと思ったが、一般には今、ドイツの報道と世論は、この災害の要因は環境問題であるという、政治と社会の議論へと方向づけられていっている。
内心少々驚いたのは、14日の夕方の災害発生直後のニュースの中ですでに、これは気候変動や環境問題との関係が言及されたこと。それはそうかもしれないし、もちろん議論すべきことなのだけど、災害が進行中で人命救助が最優先のタイミングでもうその話題を持ち出すのか? と、マスコミによる政治的な誘導をややうがってしまった。

なぜならこの気候変動と環境問題は来る9月の総選挙では大きな争点になるトピックで、ゆえに環境政党である緑の党がどこまで票を伸ばせて政権を取ることができるか、そして自党から首相を出せるのか、または他の与党候補がこのテーマをどれだけ説得力をもって訴えられられるかがすでに話題だったのだ。

悪くいえば、そこへもって、この大災害である。すでに各党党首や閣僚たちがこのテーマに必ず触れながらスピーチを繰り返すのについて、災害を政治レースの材料に使うなとくぎを刺す批判も出てきている。
ちょうど訪米中だったメルケル首相は早々、もっとも被害がひどいラインラント・プファルツ州のシュルトという村を訪問し、「私たちはあなたたちとともにある」と声をかけて迅速な救済策を約束したが、環境派でもある彼女のスピーチでは「この洪水災害だけからでは大局を見ることはできないが、ドイツでもこの手の災害が頻繁に起こるようになったのは気候変動も関係しているだろうゆえ、環境対策は早急になされていくべきだ」という慎重な表現をしたのはさすがだなと感じた。
もちろん早急に環境問題へもっと力を入れて取り組むことは必須なのだが、その効果が出るまで待ったなしで次々にこうした災害がやってくることを想定して、これまでの大河川の災害対策だけではなく、こうした小さな河川の対策がなされなければならないのだが、もともと自然保全に重きを置いてきた文化の中で、今後どれだけ具体的な策が進められるのか疑問を呈している人もいた。
けれど思う。
この国には、一度論理的に問題を理解したら、そのあとは工夫を取り入れて臨機に対応していく人たちやそれを受け入れていこうとする風潮がある。
政治家の唱える上っ面の環境問題対策だけではなく、おそらく自然や伝統と共生できるような策や技術を開発する人が出てくるはず、と願いたい。


写真:©️ Aki Nakazawa

ライン川も増水し、おそらく先週の大雨で流れてきたゴミや樹木があちこちに絡まっています。普段、この停泊している船は歩道を歩く人が見下ろすくらいの高さに位置しているのですが、増水したせいで、歩道とほぼ同じ高さに。船が橋の下をくぐるのもギリギリです。

ちなみに土石流が発生し、家屋などの損傷が最もひどかったシュルト(Schuld)という村では幸いなことに死者や行方不明者は出ませんでした。村の消防団が山の上に上がるようにと何度も声がけした結果だそうです。その他では貴重品などを取りに地下室に降りたところを浸水に飲み込まれたケースが多いとか。おそらくこれまでこの手の災害の経験がなかったゆえ、洪水の速さが想定できなかったのでしょう。何が悲しいって、家とともに思い出が流れていっちゃったことだよ、と悲しそうに語るおじいさん、家財も書類もみんな水の中だよと、語る男性をテレビで見て、ため息がでます。被害がひどかった町の町長さんは町民を前にして涙で声を詰まらせながらスピーチしていました。

そんな中、メルケル首相の後継の一人とされる我が州の州首相が被災地訪問の際、スピーチをする大統領の背後で同僚と談笑する姿がテレビカメラに映ってしまい、非難轟々をあびることに……。まあ、テレビカメラはそこだけ切り取っちゃったのかもしれませんが、これまでの彼の「やらかし」エピソードを思うと、先の選挙が不安です。

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中沢あき

中沢あき(なかざわ・あき)

映像作家、キュレーターとして様々な映像関連の施設やイベントに携わる。2005年より在独。以降、ドイツ及び欧州の映画祭のアドバイザーやコーディネートなどを担当。また自らの作品制作や展示も行っている。その他、ドイツの日常生活や文化の紹介や執筆、翻訳なども手がけている。 

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