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捨ててゆく私「わたしは悪くない」

茶屋ひろし2021.11.25

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Twitterでの他人のやり取りを見ていると、顔を合わせたことのない人と会話を続けるのは限界があるわね、と思います。
表情や声、仕草などの情報量は意外に多く、そこからお互いに距離感をつかんだりしているのでしょう。あと、時間も必要だし。
そんな対面ですらわかりあおうとすることは難しいのに、瞬間の言葉だけで相手に「それ」を伝えるのは困難なことだと思います。

私の勤めている本屋は梅田の地下街の端っこにあります。梅田だからか端っこだからか、たまにびっくりするような出会いが起こります。
店を開けて、午前中の品出しをしているときでした。表の通路のほうから、「あー、イケメンとセックスしたい!」と女性の大きな声が聞こえました。頭の中ですぐ文章に変換されたくらいその発音はクリアでした。
あの人かな、と棚の傍から覗き見て、スタッフと顔を見合わせました。
その日はそれだけだったのですが、ある夜、レジに入っていたら店に入ってきた女性に「おい、イケメン! 本見ていいか?」と2メートルくらい先から大きな声をかけられました。

キッ、とこちらをにらみつけている彼女が、こないだの朝の人だと一瞬でわかりました。返答に詰まり「ど、どうぞ」なんて言っていると、フン! といった感じで棚を物色し始めました。年齢は私と変わらないくらい4、50代、小柄な女性で、豊かな髪を一つにまとめ、全体的にざっくばらんな装いです。
その時は買わずに帰られましたが、次の時は商品をレジに持ってこられました。
その場にいたスタッフの女性が接しましたが、会計が済んだとたん、「なんで男がせえへんねん!」と急に怒りはじめました。
店長に変わりますね、とスタッフが引き、傍にいた私は、どういうことやねん、と思いながらつい、「接客に男も女もないでしょ」と口走りました。そしたら黙り込んでしまい、お釣りを財布にしまいながら、レジ前にあったカレンダーを取って「これもちょうだい!」とカウンターに置きました。それは、わたしは悪くない! と聞こえました。
そのあともちょくちょくやってきて、大学生のアルバイトさんたちとしゃべっていると、通りすがりに「イケメンばかりはべらせやがって」と舌打ちしたりしていましたが、最近は姿を見せなくなりました。(私がイケメンだという話ではありません)

店の前の通路は、奥にビルのトイレとエレベーターがあります。
つい先だっては、店にいるときに、その奥のほうから女性の叫ぶ声が聞こえました。
「なんでいつも私ばかりこんなんやねん! もういっそ殺して!」
と穏やかでありません。
「いつもいつも不幸や! なんでやねん、私がブスやから悪いんか! そしたらいっそ私を殺せ!」
スタッフと顔を見合わせて、ちょっと様子を見てきます、と店を出たら、エレベーターの先に黒いワンピースを着た大柄の女性が座り込んでいます。
近づくと、遠巻きにすれ違う人たちに向かって、「ジロジロ見んなや、とっとと歩け!」と悪態づいています。
持っていたらしき杖が倒れていて、転んだのかな、と思いました。
「大丈夫?」と声をかけると、「大丈夫なわけあるかい!」と間髪入れずにキレられました。
「そうやろなー」とつい口から出たら、「しかもなんやの、その口の利き方は! 50過ぎた年上の人間に失礼やろ!」と叱られました。
あんまり変わらんけど、と思いながら、「ごめんなさい」と謝っていると、杖を手繰り寄せて立ち上がったので、もう大丈夫かと店に戻ろうとしたら、「トイレ、どこ!」と呼び止められました。トイレまで案内して、また口の利き方を叱られて、店内に戻りました。
用を済ませた彼女は、店の前でもう一度、「私がブスやから悪いんやろ! いっそ殺せ!」と、ひと怒鳴りしてから去っていきました。

この梅田の端っこが、思いのたけをぶちまける場所みたいになっているのか、と前例が増えるたびに思います。
それにしても彼女たちの直球の叫びよ。その場では、あとで笑い話にしてしまうけれど、笑いごとではない重みも感じます。これはさすがに直に思いが伝わります。
何も悪いことしてないのに、なんでこんな惨めな思いをして生きていかないといけないのか。

必要なのは、アンミカのポジティブシンキングか上沼恵美子の共感話芸か。いや、やはりフェミニズムでしょう、と店内の棚を眺めながら思います。
この社会は「男」仕様にできているから、それに合わせて生きていくと「女」は病む。結婚したら幸せになれるかというと同じ理由でそうでもない。眞子さんは人権を獲得するために結婚を使ったけれど、目的を果たしたのでいずれ離婚するような気もします。

「わたしは悪くない」からスタートして、悪いと思わされていたことはなんだったのかと振り返り……というか、私は「フェミニズムの誕生」に立ち会ったんじゃないか。そうか、そういうことなら何度でも立ち会うで。もう驚かない。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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