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「店長はやさしすぎる! ちゃんとスタッフを叱れよ!」と泣きながら怒って辞めた女性社員が去って一年が経ちました。
きっかけは彼女が起こした人間関係のトラブルでしたが、結果は店長の私がすべて悪いという理由に落ち着きました。なんでやねん。
社員になって二年間、ずっと作業台でおしゃべりしているスタッフにイライラしていたことを打ち明けられました。それは、「それを叱らないお前が悪い、私ばかり不機嫌になって嫌われていく、本来なら店長がその役目を引き受けるべきだ」という論調でした。

でもその価値観があなたを幸せにしているようには見えないけど……と、泣いている彼女を見ながらぼんやり思っていた私も私です。

「叱ったり怒ったりする必要はないんじゃないかしら。何かしてほしかったらお願いしたらいいと思う」と応答していましたが、意図がちゃんと伝わってなかったことを申し訳なく思いました。

このときはまだ私も、「叱らない/叱れない自分」が悪いんじゃないか、勇気がないだけなんじゃないか、とどこかで思っていたからでしょう。

そのあと一般公募で雇った男性社員も、半年で、同じような理由で辞めてしまいました。

なんでそんなに人を怒りたいんだか。そこに怒るよ、とひそかに思いましたが後の祭りです。

そういえば二人とも、これまでの職場がそういう躾に厳しかったと話していました。
そういうのがない職場になって戸惑ったのかもしれません。男性社員は、「ここ、俺にはぬるいんですよね」と愚痴っていたとまた聞きしました。ひるがえせば、これまでの処世術が使えない状態だったんだろうな、と想像がつきます。それは、怒鳴ったり叱ったりする権力者に依存するか、その人物の悪口や文句を言うことで職場の人間関係を形成していく、などの方法でしょうか。まあ、怒鳴らない私も陰口くらいはたたかれていると思いますが。
女性のほうは精神が不安定になって、男性のほうは心を閉ざしてしまいました。

ままならない世の中です。
それにしても立て続けに社員を失ってしまったことにはさすがにがっくりしてしまい、いいわもう当分休みなしで働くわ、と投げやりになっていたところに、救世主のような本が届きました。

『〈叱る依存〉がとまらない』(村中直人、紀伊国屋書店、2022)
著者は臨床心理士で、発達障害の児童をサポートする事業などを展開しています。

まずなにより、ページをパラパラめくって飛び込んできた、「相手の学びや成長を促進するための手段として「叱る」は非常に効率の悪い、それでいて副作用の強い方法です。そのため学びや成長を促進するという意味での「上手な叱り方」は、残念ながら存在しません」という文章(169p)にやられました。

それで前から順に読んでいくと、「叱ると怒る」の区別には意味がなくて、それをされた側の脳の反応は従うか逃げるかで、思考を司る部位はシャットダウンしてしまう。よってそのことによる成長は何もないし、「叱る/怒る」を繰り返されるとそれに慣れてしまって、段々言うとおりに動かなくなっていく、と思い当たる節に次々と出会いました。

さらに、叱るという行為は常に権力側から非権力側に対して行われることで、それは相手をコントロールしたいという欲望からくること、そのとき叱る側の脳に快楽物質が出ることとあり、あーやっぱりろくでもなかったんだー、とほっとしました。
唯一「叱る」が有効なのは、自分や相手の身に危険が及ぶとき、だそうです。

読み終えたときにはすっかり、「私のやってきたことは間違いではなかったんだわ」といい気になり、それを人に言ってしまったくらいです。

ただ、しばらくたって思い起こせば、怒鳴らないにせよ、諭すような口調で叱ってきたことはこれまでにもあったことに気がつきました。
それで辞めさせてしまった人もいた。
あの社員二人に対してもけっきょく私は無言で叱っていたのではないか。
自分の思い通りに環境を作ろうとして彼らを疎外していたのではないか。
やはり自分もままならない。

けれど、お互いのエネルギーに驚いたり喜んだり悲しんだりするだけで、場というものは回っていくような気もします。

店長になっていろんな人を雇う立場になっていつも思い出すのは、新宿二丁目でいつも飲みに行っていたバーのマスターです。
20代の終わりから30代始めまで、私には酔うと人(男性)をたたいてしまう悪癖がありました。友好のつもりでした。偶然、同じように人をたたく人とそこで出会って飲みながらたたきあっていたのですが、そのたびにマスターが、カウンターの中で「いたーい! やめてー!」と肩をすくめながら叫ぶのです。
一年くらいたったころでしょうか。私はいつのまにか酔っても人をたたかなくなっていました。その相手もたたかなくなっていました。

「この店では人をたたかないで」とか、「あなたはトラウマがあるのね」など、叱られたり諭されたりしたことは一度もなく、マスターは自分の気持ちだけを表明していました。

たたくほうが、いじめるほうが、叱るほうがどうかしている。
それをやめさせたり、その場から本人を排除したりするのではなく、その行為そのものをなくしてしまった人。ありがたや。
これからはあの域に近づこうと思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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