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吾輩は猫である。手に余るとはこのことである。

なんて、去年の夏に社長になってからずっと思っています。だいたい、会社の経営がしたいと思ったことなど一度もない私です。この資本主義社会とはほどほどのお付き合いですませたい。それなのに、売り上げを、社員のモチベーションを上げるにはどうしたらいいのか、そもそもこの会社はどういう方向を目指しているのかというようなことをガッツリ問われる状態に巻き込まれてしまいました。

ああ、やだやだ。会社を売り飛ばしてM&Aで雇われ社長にでもなろうかしら、いや、それなら社長交代のほうがスムーズか。でもそんなことも社内では言えない雰囲気です。

「やる気」ってそんなに大事ですか。クローズアップされすぎていませんか、現代。泣き言から始めてしまいました、すみません。
けれど小さい会社ながら経営者になるといろんな会合に誘われます。会合ってなんだ、会議多すぎ、なぜみんな研修ばかりしているのか、商売ってなに?

だいたい、それは東京で行われ、そのあと懇親会という名の飲み会へ流れます。会議をしたくてしているわけではなくて、そのあとのお酒が目的なのは言うまでもありません。ある時、営業マンばかりの懇親会に参加しました。会議のときに唯一参加していた女性の姿はもうそこにはありませんでした。

嫌な予感。

参加したのは、30代~50代の10名ほどの男性ばかり。飲み物が来るまでに始まったのは、スマホの写真を見せながらのベイビー自慢と、他、「ヨメが美人」自慢でした。

なんだろう、すでについていけない。可愛いとか綺麗とか言っていればいいのかしら。言わないけど。これは女性ばかりの集団でもこうなるのか。それはまた違った意味合いになるのだろうか。しかもこの場にいる全員が結婚している、って異常じゃない? 均一同質集団なのか。目の前に座った男性が、「茶屋さんは結婚されてないんですか? どうしてですか」と訊いてきます。「さあ、ゲイだからかな~」と笑顔で言うと会話が終わりました。

けれど彼は果敢に別の話題を振ってきました。
「僕、今年で46になるんですけど、45歳で卒業になる会に所属しているんですよ」

――ん、何の話?

「いやー、違う出版社の営業同志で、月に一回飲み会をやってましてね、そのときにコンパニオンの女の子を二人呼ぶことになってるんですよ。ただし、その会は45歳で卒業しなければならないんです」

だから何の話よ。しかもなぜその話を私にする? 私が1分前に発した「ゲイ」という言葉はすでに跡形もなく消えたのか。

「それでね、重要なのは女の子たちを呼ぶことじゃないんです。そのあと男だけで飲み直してその女の子たちの選評をするのが目的なんです!」

めちゃくちゃ笑顔。ああ、鉄板なのね、と理解しました。この話に乗ってこない男はいないだろう、というくらいの。だから私のカミングアウトはどこへ……。

自分でも驚きましたが、「へー、それはホモソーシャルですね」とさらりと返してしまいました。それはきっと、『100分で名著』のフェミニズム特集を見たあとだったから。

なんだそれ? という風に彼の笑顔が固まって、それ以上話が続かなくなったので、気を利かして私はトイレに立ちました。帰ってくると彼は席を移動していて隣のテーブルで笑っていました。(ちなみに、このあと場を中座して、前回のコラムの最後に書いた、セクハラ上司を追放した彼女たちと飲みました。なんてレイヤーの違う世界!)

仲良くなるって難しいことね。

「LGBT理解増進法」という言葉を最近よく目にしますが、いや無理でしょう、と反射的に思ってしまいます。しかも、多数派が「しょうがないから理解してやってもいいよ」と言っているようにも聞こえて権力勾配を感じます。その先になにかいいことがあるとは思えません。

二丁目からノンケの世界にやってきたとき、「私がおちんちんに欲情するのは、あなたがおっぱいに欲情するのと同じようなものなの!」と、それこそノンケ男性に飲み会で力説して徒労を感じたことを思い出します。理解する必要のないひとたちが、理解しようとするわけないんです。

おちんちんと言えば、こないだ同い年の女性スタッフと話していて、飲み会で突然脱ぎだしておちんちんで笑いを取ろうとする男たちの話になりました。
「私も中学生のころに、風呂上がりの兄に頭に乗っけられたことがあります。嫌、とかの前に、なんでそんなことをするのか意味不明だった」「そうそう、なんでおちんちんが笑いに変わるのかわからないし、あれは友好のつもりなのかしらね」
などと話しながら、ネット上にあふれるおびただしい数の「マイペニス」の写真や動画を思い出して、ゲイの私には需要があるけど(誰でもいいわけではないし嫌がらせは論外)、他のひとにとってはどうなのかしらね、と尋ねそうになって、あらセクハラかしら、と言うのをやめました。私は社長でした。

そのとき何となく、「きっとあれは持て余しているのね!」と最適解が出ました。ちょっとした刺激で快感を得られる性器が、こともあろうに表に出っぱなしで、いったいぜんたいどうしていいのかわからない。多数の人は普段はそれがないかのように振舞うことができるけれど、一日の大半がそこに集中してしまう人の場合は、もうさらけ出して笑ってもらうよりほかないだろ! となるのかもしれません。

って、なんでやねん。
やはり理解しなくてもいい気がします。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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