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むちゃセンセーのフェミニズム<今さら>再入門  第7回 慰安婦問題は私たちの問題

牟田和恵2014.09.25

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近頃は紙の新聞を読まない人も多くなったようですが、朝日新聞の誤報問題は、ネットでも拡散していますし、その後のライバル紙や週刊誌の勝ち誇ったような朝日叩きも広がっていますから、知らない人は少なくないでしょう。


これは、朝日新聞がかつて報道した、当時日本の植民地だった韓国・済州島で日本軍が少女たちを強制連行して慰安婦にしたという吉田某氏の「証言」が虚偽であったことを認め謝罪したものですが、それからずっと続いているのが、この報道のおかげで国際社会での日本の名誉が傷ついた、朝日はどうしてくれるんだ、というインネンつけのような話です。読売新聞は、この件について世論調査までしており、朝日新聞の過去の記事が、国際社会における日本の評価に「悪い影響を与えた」と思う人が71%に達するという報道をしています。この調査自体、朝日批判を世間に広く流布するためだろうと思われるような誘導的な質問で、マスメディアとしての質を疑いますが、そういうことを割り引いても、安倍首相はじめ有力な政治家たち、櫻井よしこのような著名なジャーナリストも同様のことを声高に言っていますから、本当にそう考えている人がたくさん居ても不思議はありません。


吉田証言についての朝日の報道は国際社会での慰安婦問題の理解とはほとんど関係がないこと、安倍首相たちのそうした批判自体が事実に基づかないデマにすぎないことは、本HP岡野八代さんの論考ほか、ネットでもすでにいろいろ出ていますので見ていただきたいですが、私がこのコラムで書きたいのは、慰安婦問題は私たちふつうの女性と直結していること、フェミニズムがずっと闘ってきた問題と深くつながっていることです。おそらく多くの女性は、朝日新聞の誤報についてどう考えるにしろ、慰安婦問題については「自分にはあんまり関係ない」「昔のできごと」と思っているのではないでしょうか?でも、実のところこの問題は、現在の私たちがセクハラや痴漢、性暴力に怒っていること、苦しめられていることと、すごくつながっているんです。


まず、日本の強姦罪(刑法177条)の規程が、とても古いものであること、ご存知ですか?1907年、明治40年にできた法律で、2004年に多少の改正がありましたが、基本、この100年以上、変わっていません。条文では強姦を「暴行または脅迫を用いて女子を姦淫すること」と定めていて、ケガをしたり服が破られたりするような暴行脅迫の「証拠」が無いと、強姦として認められ加害者を有罪にすることは難しいのです。恐怖にかられ凍り付いて抵抗できなかったような場合ですら、強姦として罪に問われるのは難しく加害者は無罪放免、という非常に腹立たしい現実があります。
なんでそうかといえば、もともと「強姦」と言うのは、父親や夫の財産である妻や娘の貞操が汚されること。汚されてしまえば、財産としての価値はなくなる、だから貞操を破られるくらいなら死ぬまで抵抗し、死んで名誉を守ってくれるほうがいいというわけです。そこまで抵抗した形跡もなく強姦されたなどと言うのは、裏切って他の男と通じたのかもしれない、そんな娘や妻には何の価値もない、ということです。
もちろんこれは、女性の権利、人権などということがまったく想定されていなかった家父長制が強固な古い時代の産物の考え方。近代法にも取り入れられてしまいましたが、1980年代以降、女性たちの運動によって、欧米はじめ多くの国々で、女性視点に立った強姦罪規程の改正が行われ、「同意のない性交は強姦(レイプ)である」という常識が確立してきています。しかし日本では1907年の明治時代にできたカビの生えたような規定が生き残っているのです。そのおかげで、今現在も、なぜ女性は逃げなかったのか、抵抗しなかったのはなぜか、と、性暴力の現実を無視した、強姦無罪判決が続いているのです。
「強姦」というと、めったにない犯罪のように聞こえるかもしれませんが、このロジックは、実は多くの女性に無縁ではありません。仕事や取引をちらつかせて性関係を求められ、断ることができなかった、、、。以前に性関係はあったがもうセックスする気もない相手から当たり前のように性行為を求められ、嫌がっても聞いてもらえない、、、。酔っている相手を気遣って部屋に上げたら、「君もそのつもりだったんだろう」とばかりに押し倒された、、、。どれも、女性の意思に反した性交の強要、つまりレイプですが、今の日本では、強姦とは認められないのです。それどころか、周囲に言ったとしても、女性に落ち度があった、はっきり抵抗しなかったのが悪い、男はそんなもの、と女性が非難されてしまったりします。本当に腹立たしい限りです。


戦時中、「慰安婦」とされた韓国や中国・台湾、東南アジアの女性たちの、経緯や理由はさまざまです。いい仕事があるからと騙されたり、借金のカタに身売りされたり、無理に連れ去られたり、、、。でも、どういう経緯であったにしろ、戦地に設けられた慰安所に詰め込まれ、おおぜいの兵士たちの性の相手を務めさせられました。言葉も通じない、見知らぬ戦地に連れて行かれているのだから、逃げようとしても逃げられず、約束と違うから嫌だ、と言っても聞いてもらえません。中には、売春婦であった女性も含まれていたようですが、それは数分おきにおおぜいの兵士たちの相手をしなければならないような苛酷な状況ではなかったはずです。慰安婦とされた女性たちのおかれた苛酷さは、「性の相手」というような生やさしい表現ではとても足りない、まさに強姦の連続であり、性的な奴隷状態にほかならなかったのです。
それは、かりに報酬があったとしても、同じことです。実際は慰安婦の場合には、拉致暴行され捨て置かれたり、軍票によって支払われ戦後は紙くず同然になってしまったなども多かったのですが、かりに支払われたとしても、性的奴隷状態であることを正当化できるものではありません。それは、現在実際に起こっている、AV(アダルトビデオ)制作現場での被害を考えるとよくわかります。グラビアモデルやAV女優として「スカウト」され、制作現場に行ってみると、実際に何人もの男と性交することを強要され、「凌辱」ものだからと現実にひどい暴力を受けたりする。でも、自分で契約書にサインしただろう、今さらイヤだというのは契約違反だ、それなら損害賠償しろと迫られる。でも、当然のことですが、当初女性が自由意思で出演をOKした、契約金も支払われているという事実は、性交の強要や暴力を許すものではありません。人権侵害を許容するような契約はありえないのです(伊藤和子弁護士による、AV出演強要被害についての情報はこちらhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/itokazuko/20140816-00038321/)。


慰安婦とされた女性たちの状況とAV被害の状況は大きく異なりはしますが、しかし、このように考えてみると、安倍首相ほかの、慰安婦は売春婦だった、強制的に拉致したのではないからOK、と声高に主張する人たちの言っていることのおかしさがよく見えてきます。それは、死ぬまで抵抗していないんだから強姦ではなかった、本当に嫌なのだったら死ぬ覚悟で抵抗しているはず、抵抗してイヤだと拒否しなかった女が悪いとする、超古臭い、強姦を許容する論理ととても似ている。無理に拉致して連れてきたのではないから何をしてもいいというのでしょうか、あきらめてとどまり兵士たちの相手を務めていたのが「自由意思」だとでもいうのでしょうか。
そしてそれはまた、契約や雇用を切られるかもと、ちらつかせ、女性を思い通りにして、でもそれは女性が合意したんだ、と言い切るセクハラ男とも似ていませんか?
女性が望まないにもかかわらず、無理にセックスの相手をさせられること、それは性暴力、レイプなのだとなぜ彼らはわからないのでしょうか?


とはいっても、慰安婦問題は昔のことだから、今の人権感覚を当てはめるわけにはいかない、という考える人もあるようです。でも、当時の日本の法律でも国際法でも、身売りによって人を拘束することや、逃げられない状態に押しこめて性交をさせることは違法でした。
しかも、21世紀の今、女性たちには自らの尊厳を守る権利があります。そのこと自体は、確かに新しい考え方です。でも、生存しておられる慰安婦にさせられた女性たちが、いま現在、尊厳の回復を日本政府に求めているのに、女性の尊厳はその時代には認められていなかったのだから泣き寝入りしてくださいと言いますか?それを言うことは、あなたがセクハラされても、性暴力にあっても、日本の法律も現実もこうだからガマンせよ、泣き寝入りしろ、ってことです。日本がいつまでもそんな社会であっていいですか?そう言っている限り、刑法177条強姦罪は抜本改正されず(実際、慰安婦問題と同様に、国連女性差別撤廃委員会から何度も是正の勧告が出されているというのに)、性的被害にあった女性が責められ貶められる社会が続いていく、それでいいんですか?


それに、日本政府が1993年に発表した河野談話が、元慰安婦とされた女性たちの証言に基づいているために信憑性に欠ける、などと言われていることも見逃せません。痴漢の被害を訴えても、強姦を訴えても、被害女性の証言は信用ならない、と裁判官が判断して逆転無罪としたケースが最高裁で続きましたが(最高裁2009年4月14日小田急事件判決・2011年7月25日千葉事件判決)、今度は東京高裁が、女子中学生への強姦容疑で有罪となっていた27歳男性に、「合意の上だった可能性が否定できない」と無罪判決を言い渡しました(2014年9月19日)。最高裁判決文を詳細にみると、性に関して女はウソをつく、そのために男性が陥れられるのはまかりならん、という男性中心主義の根深い思い込みがいかに判決を歪めているかがよくわかりますが、元慰安婦女性たちの証言を疑ってかかろうとするのも、性に関して女はウソをつく、という同じ女性蔑視のあらわれでしょう。私たちはもう、こんな女性蔑視を見過ごしているわけにはいきません。


フェミニズムは、過去と現在の女たちの経験をつなぎ、そして未来にひらいていく思想。慰安婦問題は、亡くなってしまった元慰安婦の女性たち、生存しておられる女性たちに謝罪や補償をしていくべきであることにとどまりません。むしろ逆に、彼女たちが勇気をもって告発してくれたことを通じて、私たちに、女性の尊厳とは何か、女性にとっての性の自由とは何かを考え、この社会を変えていくことを教えてくれているのではないでしょうか。

 

 

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本の紹介
小倉千加子『セックス神話解体新書』学陽書房

1988年(文庫版1995年)

強姦というのは、暗い夜道で、欲求不満の男が、セクシーな女に思わずそそられて、衝動的に襲う、というイメージがありますが、だけどそれは神話、つまり、良くできてはいるが根も葉もないデタラメ。実際のところ、強姦や性暴力は、そんな理由で起こるのではない。衝動的どころかしっかり計画して、女性が性的に魅力的だからではなく被害を訴えそうにないから、抵抗しなさそうだからとターゲットにするのだ。しかもこの神話は、裏返して言えば、男がセックスしたいのは本能、だから、女性が暗い夜道を歩いていたり、肌の露出が多い服を着ているのが悪い、って話になってしまい、被害者である女性を責めて加害者を免責する機能まで果たしてしまう、本当に悪質なもの。初めての著書でありながら、この強姦神話のような性をめぐる思い込みや偏見にぐっさりと、かつエンタメ感たっぷりに切り込んだ、フェミニズムの真骨頂をひろく知らせることとなった名著。

 

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牟田和恵(むた・かずえ)

本業は大阪大学人間科学研究科教員、専門は社会学・ジェンダー論です。
女性と女性の活動をつなぐ情報サイトWAN(ウィメンズ・アクション・ネットワーク http://wan.or.jp/)の運営にもかかわっています。おもな著書に、『部長、その恋愛は、セクハラです!』集英社新書、『ジェンダー家族を超えて』新曜社、『実践するフェミニズム』岩波書店など。
ゼミや議論の際に学生に質問やコメントをうながすとき、「無茶振り」をするらしく(自分ではそう思ってないんですけど、、、)むちゃセンセーとあだ名がつきました。

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