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第七回 「恋愛」という名のパワハラ&セクハラ「まもる君」

牧野雅子2015.07.28

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このコラム、お気づきでしょうか、セックス&ラブというコーナーに入っているんですよ。全然ラブじゃない、っていうか、わたしにラブを語る資格なんてないですぅ、と思っているところ、今月はラブっぽいお話です。っぽい、っていうところが何とも、でありますが。それから、今回は女性から聞いたお話です。ある女性にまつわる男性の話。
Sさん、アラサー独身会社員。恋愛相手(いや、元恋愛相手というべきか)は、10歳以上年上のバツイチ上司。二人の子どもは、元妻が引き取って育てている。
恋愛といっても、社内で二人の関係が知られるのは御法度だった。なぜなら、つきあい始めた頃は、まだ、彼の離婚が成立していなかったから。離婚話が進んでいたときに、Sさんとの恋愛が始まったというのが正確なところで、Sさんと結婚する意志があるから離婚したのではない。
その頃、彼がしょっちゅう言っていたのは、職場に二人がつきあっていることが知れたら問題になる、けれどその時には「全力で君を守る」。具体的には、どういうこと? と訊いてみると、Sさんは答えられなかった。「守る」って言われたんですよね、なんだかそれで満足しちゃって、具体的に何をしてくれるのか訊いたことがないんです、ただ「守る」って言われただけで嬉しかったんです。
第三者(わたしです)から見れば、「守る」なんてのは口実で、つきあっていることがバレたら困る、離婚訴訟にも影響が出るし、社内での評価も下がる、その辺を分かってくれよ、というのが言いたいところ。でも、そのことを言うと、あまりにも情けない自分を晒すことになるから、最後に守るって言う言葉をつけたんだと思う。締めの言葉って印象に残るからね。実際に、Sさんも、バレたら困るってことを分かってくれよと懇願する彼の姿よりも、「守る」と言ってくれた逞しい(!)姿を信じたかったみたい。
つきあいは2年くらい続いたらしい。それが、何か変、そう感じるようになったのは、「些細」なことから。
Sさんは、高校生の頃までバレエを習っていた。仕事にも慣れて時間の余裕も出来てきたので再開しようかと思っている、そう、何気なく言ったとき、彼は「レオタード姿を見せて貰わないといけないな」と言ったのだった。なんでそうなる、何でレオタード、オッサン、キモっ! とでも言いたいところだけれど、Sさんはその「言い方」に強烈な違和感を覚えた。普通だったら、いつまで習っていたのかとか、どんな役を踊ったのかとか、わたしのことを訊くんじゃないのか。わたしのことを話しているのに、彼は、自分のこと、見せて貰う自分、その自分の権利であるかのように語った。わたしはあなたのためにバレエを再開するんじゃない、見せてあげるために、あなたの見たい姿を見せるためじゃない。
その日から、「何か変」と感じることが多くなっていった。彼が変わったのではなくて、Sさんの見え方が変わって、それまで見えていなかったものが見えてきたということなんだと思う。
決定的な「これ、ダメだ」という瞬間は、2人で食事に出かけたときにやってきた。彼が、これまでの恋愛相手の話をし始めたのだ。自分を振った女性は過去に一人だけ。その人のことが今でも忘れられないと、彼女の思い出話を始めたのだった。Sさんは、我慢が出来なかった。なぜ、2人で食事をしているときに、他の女性の話をするのか。単なる思い出話には思えなかった。今でもその女性が心に住んでいることを知らせてSさんを嫉妬させ、自分が優位に立とうという意図が見え見えだ。彼の離婚前には、こういうことはなかったという。離婚が成立し、家族や妻を持ち出して嫉妬させることができなくなったからなのだろう。
Sさんは、自分の気持ちに従った。席を立って、店を出た。
案の定、それから彼の態度が豹変し、Sさんに執着し、攻撃し出したのだ。ひっきりなしに電話をかけ、2人の関係を社内にバラす、一緒にとった写真をばらまく、とまで言い出す始末。当然、仕事に支障が出る。会社に行くのも辛くなる。以前は、「全力で君のことを守る」と言っていたくせに、このざまだ。ハナから守る気持ちなどないことがよく分かる。「守る」という言葉は、やっぱり、語義通りの意味で使われてなんかいなかったのだ。
そもそも、つきあい始めたきっかけって? そしたらなんと、なかなかすさまじいじゃないですか。彼は、相当のパワハラ上司だったという。プレッシャーのかかる仕事を与え、失敗すれば罵声を浴びせつけ、考える余裕もなくすほどのスケジュールで働かせ、もちろん残業は当たり前仕事の持ち帰りも日常で、気分転換をしたくても愚痴をこぼしたくても友人たちとも会う時間もなく、外の世界に目を向ける余裕もないから彼の価値観が絶対になり、体力も限界で張り詰めた糸が切れそうなぎりぎりのところで、ふっと、優しい言葉をかける。すると、それまでのパワハラ状態も、「わたしのためを思ってプレッシャーを与えてくれていたんだ」と思えてしまう。仕事のスキルが上がっているのを実感していればなおさら、厳しく鍛えてくれた上司への感謝と敬愛の気持ちがわき上がる。優しい言葉のひと言で、オセロゲームの駒が、黒から白に一気に変わる。
彼が、それを狙ってはじめから仕組んでやったのかは分からないけれど、いわゆるマインドコントロールのような状態にあったといってもいいのかもしれない。部署全体がそうした空気で満ちていて、他の男性社員も同じような状態で働いていたから、異常さに気づかなかったのだそうだ。その部署には他に女性はおらず、相談相手もいなかった。Sさんは、当時を思い返して、どうしてあんなのに引っかかったのか全く分からないと、半ば笑うように言う。
Sさんは、会社のセクハラ相談窓口に行った。大人同士の自由な「恋愛」なのだから、自分たちで解決せよと言われるのではないかと思って、相当に躊躇したらしい。が、心配は無用だった。男性社員からも、上司のパワハラ相談が入っていたのだった。上司が問題だったことを理解して貰え、会社は適切に対処してくれたんだそうだ。
「良かったね」「良かったです」そう言いながらも、もし男性からのパワハラ相談がなかったら、会社はセクハラを恋愛認定してしまい、Sさんの訴えは聞き入れられなかったかもしれない、という嫌な想像をしてしまったわたしたち。会社のセクハラ認定という「朗報」にも、引きつり笑いしか出来なかったのでありました。

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牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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