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医療の暴力とジェンダーVol.29 アルコール依存症という暴力

安積遊歩2023.08.30

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私の大切な友人や家族が、次々とアルコールが原因で病気になったり、亡くなったりしている。兄はアルコール性のアルツハイマーと診断され、今は寝たきりだ。私は福島県出身で、東北の男たちがアルコールに飲まれて、家庭崩壊やDVなどに捕まっていくのを見て育った。障害を持つ人の自立生活運動のなかでも、アルコールはいつもいつもそばにあって、そこで病気になったり亡くなったりしていく人がずいぶんいた。そのなかでも特に今日は、最近長い間の飲酒、アルコール依存で亡くなった立岩真也さんのことを追悼したい。そして、アルコールの暴力がない世界を求めていきたい。

立岩さんは、障害を持つ人が地域で生きるための運動の展開を丁寧に記録した記録者であり、思想家、障害学という学問分野を立ち上げた人の一人でもあった。そして、多くの当事者にとってよきアライとしても活躍してくれていた。1990年、立岩さんと私は他の二人の研究者と共に『生の技法』という本を著した。この本が出来上がるまでにはいろいろあったけれども、この本を最も拡げることに尽力したのは立岩さんであったろう。私は当時、東京に出てきて間もないわりには友人知人が多くできていた。そこでこの本のインタビューを真っ先に受け、著者の一人となった。この本が、当事者や運動に与えた影響は、この分野ではとても大きい。

障害者差別と闘ってきた人々、特に男性たちはアルコール依存症に陥る人が多い気がする。アルコールによってどれだけの知性や命が追い詰められ奪われてきたかということを強烈に自覚する必要がある。アルコール依存症は病気だと言われる。しかしこの病気ほど病気だという自覚を持たせず、自分でも持てない病気は他にないだろう。様々な社会問題、家庭や人間関係の崩壊の原因となっているにも関わらず、それはほとんど可視化されない。

私は父がアルコール依存症だったために、アルコールの害にかなり早く気づいてはいた。それでも20代の時には、男性中心主義社会の同調圧力に巻き込まれて浴びるほど飲んだ。最終的に障害を持つ女性への結婚差別の苦悩とアルコールによって自死寸前にまで追い詰められた。そんななか、20代の終わりにピアカウンセリングに出会い、30代の初めにはそれを使ってアルコールを完全に手放すことができた。

アルコールそのものはDVの加害者によく似ていると思う。飲酒者達自身をアルコールは酷い状況に追い込んでくるが、ただそれが切れると、あなたには私が必要なのだと被害者である飲酒者達自身を激しく誘惑する。DVの中に起こるハネムーン期のように、飲酒者(被害者)はあまり飲まない方がいいと思いながらもすぐにまたそれに巻き込まれていく。

私の目から見るとアルコール依存症者は政治、教育、医療、メディア等々、どの分野にも男性を中心に無数にいる。そうした人たちが社会の中枢でリーダーシップをとっているわけだ。この社会にどんなに平和を求めながらも、それが実現できない理由がよくわかる。

残念ながら立岩さんもその一人だった。何度も何度も私は、会うたび彼にお酒をやめるようにと伝えてきた。しかし彼にはその言葉が全く届かなかった。「そのことについてはあなたとは価値観が違う。僕は胃ろうになってもアルコールを飲む」と真面目に真剣に言っていた。私が「そんなことを言って飲みまくっていると、胃ろうをつける前に死んでしまうことになるよ」と言っても、「美味しい酒は大事なのだ」と言い続け、大量に飲み続けたのだった。そして、私が恐れていた早すぎる死を迎えてしまった。

アルコールの専門病院のスクリーニングテストによれば、一生の間でブラックアウトを2回しただけでアルコール依存症という診断が下るという。それを使うと、アルコールを飲んでいるほとんどの人がアルコール依存症だということがよく分かる。

アルコール依存症は、例え全く飲まなくなっても、少しくらいなら良いだろうと油断することですぐに転落してしまう。そうした特徴を鑑みると、アルコール依存症は不治の病だ。私自身も不治の病に侵されているという自覚を持って、常にアルコールに近づかないようにしている。

アルコール産業は毎年、軍需、製薬、美容、畜産等々に続いて、利潤を生み出す産業のトップ10に入っているという。軍需産業は命を守るものでは全く無い。トップ10に入っているほとんどが、命を守るというよりは命を追い込んでいるものが酷く多い。その中に堂々とアルコール産業も入っている。

いまだ戦争を終わらせることのできないこの世界。そのありようの中で、障害を持つ女性である私は、この世界をケアの思想を基盤にした世界に作り変えたいと思っている。それを中核にするためには、こどもたちの世界こそがロールモデルだ。つまり、子どもに必要のないものは大人にも必要がないのだ。アルコールはセルフケアの力を奪い、子どもの育ちに悪い影響しか与えない。それは平和な世界とは全く無縁のものだ。立岩さんの死を心から追悼しつつ、私はアルコールの暴力性をさらにさらに喚起していく。

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安積遊歩

安積遊歩(あさか・ゆうほ)

1956年2月福島市生まれ
20代から障害者運動の最前線にいて、1996年、旧優生保護法から母体保護法への改訂に尽力。同年、骨の脆い体の遺伝的特徴を持つ娘を出産。
2011年の原発爆発により、娘・友人とともにニュージーランドに避難。
2014年から札幌市在住。現在、子供・障害・女性への様々な暴力の廃絶に取り組んでいる。

この連載では、女性が優生思想をどれほど内面化しているかを明らかにし、そこから自由になることの可能性を追求していきたい。 男と女の間には深くて暗い川があるという歌があった。しかし実のところ、女と女の間にも障害のある無しに始まり年齢、容姿、経済、結婚している・していない、子供を持っている・持っていないなど、悲しい分断が凄まじい。 それを様々な観点から見ていき、そこにある深い溝に、少しでも橋をかけていきたいと思う。

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