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中絶再考 その40 伝説のフェミニスト中絶サービス地下組織「ジェーン」 

塚原久美2024.02.21

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2024年3月22日、映画「コール・ジェーン-女性たちの秘密の電話-」がいよいよ日本でも劇場公開される。1973年に米最高裁の「ロー対ウェイド判決」で全米の中絶が合法化される直前の60年代末、莫大な数の女性たちが必死に求めていた中絶をどうにかして届けようと暗躍する女性グループがいた。匿名で活動するために用いたコードネームは「ジェーン」。「ジェーン」たちは相談の電話を受けるとすぐにかけ直してカウンセリングを行い、中絶を“提供”した。

当初の「ジェーン」と同様にアメリカの各地で中絶を求める女性たちを違法の中絶医たちに斡旋していたグループは山ほどあった。しかし「ジェーン」がとびぬけていたのは、徐々に中絶を“自分たちのもの”にしていったことだった。あまりにも高い値段を吹っ掛けてくる違法中絶医たち。それでも中絶を必要とするすべての女性たち(とりわけ恵まれずお金のない女性たち)に届けなくてはならない。そしてなにより自分たち自身で中絶をコントロールできるようにしなければならないという熱い信念に突き動かされて、最終的に「ジェーン」は素人の女たちだけで中絶を“提供”するグループに生まれ変わった。

そう、彼女たちは中絶手術を文字通り“脱医療化”したのである。

「ジェーン」のメンバーたちは中絶を求めて来る女性たちを“自分たちが扱われたいように扱った”ので、自然と中絶現場はアットホームで温かく、シスターフッドとおしゃべりと思いやりとおいしい食べ物であふれる場になった。「ジェーン」たちはカウンセリングを通じて困難を抱える女性たちをエンパワーした。女性のからだの仕組みを教え、中絶が人生における前向きな選択のひとつになりうることを示した。助けを求めてやってきたティーンエイジャーから中年までの肌の色も階級も異なる女性たちは、「ジェーン」とのかかわりによって徐々に自分自身が中絶の主体であることを受け入れていき、納得をして中絶を自分のものにできるようになった。
その結果、「ジェーン」で中絶を受けた女性たちの多くがこの“驚くべき”活動に力を貸したいと自ら申し出てメンバーに加わり、他の女性たちを助ける役目を果たすようになった。
わずか数年間の「ジェーン」の活動に関わった女性はゆうに100人を超え、助けた女性たちの数は1万人を超えるともいわれている。

「コール・ジェーン」はエンターテインメント映画として話を分かりやすくするために、そして2時間という限られた枠のなかで物語を完結させるために、数多くの本物の「ジェーン」たちの体験した物語を数少ないエピソードに集約させている。そうすることで初めて観る人にも「ジェーン」の現場でどんなことが行われたのか、そしてそれが女性にとってどれだけわくわくするものだったのかを追体験させることに成功している。そしてそこに出てくる一つひとつのエピソードのほぼすべてが実話であり(若干、エンタメらしいひねりも加えられてはいるが)真実の裏づけがあるということ自体が何より圧巻である。

円熟し貫禄のついたシガニー・ウィーバーが演じるバージニア、その熱い信念に影響を受け徐々にアクティビストとして独り立ちしていく60年代の郊外の主婦ジョイを演じたエリザベス・バンクス、とキャストもぴったり。ストーリーはもちろん、音楽や当時のファッションも楽しめるまさに良質のフェミニスト・エンターテインメントだ。あなたにも、ぜひ観てほしい。

 ◆映画『コール・ジェーン-女性たちの秘密の電話-』3/22 RoadShow!
▼公式H P https://call-jane.jp/ 
▼公式 SNS(X) https://twitter.com/CallJane_jp

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塚原久美

塚原久美(つかはら・くみ)

中絶問題研究者、中絶ケアカウンセラー、臨床心理士、公認心理師

20代で中絶、流産を経験してメンタル・ブレークダウン。何年も心療内科やカウンセリングを渡り歩いた末に、CRに出合ってようやく回復。女性学やフェミニズムを学んで問題の根幹を知り、当事者の視点から日本の中絶問題を研究・発信している。著書に『日本の中絶』(筑摩書房)、『中絶のスティグマをへらす本』(Amazon Kindle)、『中絶問題とリプロダクティヴ・ライツ フェミニスト倫理の視点から』(勁草書房)、翻訳書に『中絶がわかる本』(R・ステーブンソン著/アジュマブックス)などがある。

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