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Vol.8 「エンザイガー!」と叫ぶ男たち

阿部悠2017.05.16

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「冤罪被害への文句は、痴漢か司法に言ってくれ!」
SNSで痴漢や性犯罪について怒っていると必ず、
「痴漢冤罪ガー!」
と、日本は痴漢冤罪大国と信じる人たちに攻撃されることがよくある。
まず、冤罪は暗数になりやすく、きちんとしたデータがない。
実態が掴みにくい犯罪を「たくさん起きている」として、なぜか痴漢に怒っている女性に解決を迫る輩が多く、いつも辟易している。
2011年に警視庁が作成した「痴漢撲滅に向けた取組みに関する報告書」によると、検挙件数は約3800件。痴漢被害にあっても警察に通報、相談をしていない人は304人中271人で、約89%が泣き寝入りしているとある。
つまり、暗数になりやすく、正確な事件数の把握が難しいのは、痴漢も痴漢冤罪も変わらず、前者のほうが圧倒的によく起こる犯罪だということだ。
騒ぐ人がむちゃくちゃ多いわりには「痴漢冤罪はレアケース」だと言い切ってしまってもかまわないのではないか。
また、このアンケートによると、66%の女性が痴漢被害にあったことがあると答えている。
わたし自身も、痴漢などの性犯罪に10回以上は遭遇しているが、警察に行けたのは1回だけだ。
子どものころは被害にあっても、恥ずかしくて家族にさえ言えなかったし、通報よりも定時出勤を優先してしまったり、ショックでなにもできないこともあった。コンビニから男につけられ、家に入ってこられて初めて警察に行ったが、それも近所の見廻りで終わり、犯罪として立件されなかった。
わたしが遭遇した性犯罪はどれとして事件としてカウントされていないのだ。きちんとひとつひとつ通報すれば良かったと、とても後悔している。

痴漢に間違われたくないという思い
また、先述の報告書によれば、通勤・通学時に電車内で痴漢に間違えられるのではとの不安を感じている人の数は、1035人中617人、約57%とある。半数以上の男性が痴漢冤罪に怯え、つり革を握ったり、両手を上に上げることで対策しているようだ。そういった痴漢と疑われたくない思いが、痴漢冤罪への恐れへと繋がっているのだろう。
痴漢冤罪を怖がる理由として、
「罪を認めないと長期拘留になり、会社をクビになり、無罪であっても社会的信用の回復ができない」
と、いうのがよく挙げられるのだが、痴漢被害を訴えた方も、取り調べや裁判に時間が割かれるし、痴漢にあったことが会社や学校にバレてしまわないか、セカンドレイプにあわないかなどの心配ごとが尽きない。
訴えることにもリスクがあるので、
「示談金をまきあげる悪女がいる」
などと、都市伝説みたいなものをバラまかれても、
「だれトクなんだよ」
としか思えない。そんなアホな言説にいちいち振り回されてる男が心底情けない。
痴漢や性犯罪の被害者の落ち度を責めたり、被害者のルックスを揶揄したりするのが、日常的なジャパンで、痴漢被害を訴えること自体がめちゃくちゃ大変なことだし、被害者は傷を引きずって、電車に乗れなくなってしまうこともある。まずそれを理解すべきだ。

チカンエンザイガーがビジネスに?
インターネットで痴漢について調べようとしたら、「痴漢冤罪に強い弁護士事務所」のサイトが大量にヒットするのだが、弁護士が暗に「痴漢と疑われたら逃げるように」と指導していることが珍しくない。
テリー伊藤の弟子として有名な、放送作家のおちまさとが企画する書籍「はじめての男の反論・反撃マニュアル」の「痴漢」という項目でも、「殴り倒してでも逃げた方がいいとか、諸説ありますよね」と、線路に降りて全力疾走する男のイラストを添え、はじめに逃げるのを推奨している。
ちなみにこの本はセントラル法律事務所の代表弁護士、間川清氏の協力によって作られたものだ。
基本的にはサブカルノリのネタ本なのだが、痴漢犯人を取り押さえた男を「正義漢」と嘲笑し、痴漢を捕まえる人の思惑は「モテたさ」だと匂わせるという、実態を反映しないギャグが寒すぎる。誰も助けてくれないジャパンでそんなの通用しないし、多くの痴漢冤罪のマニュアルは、痴漢のマニュアルを兼ねているのではないかと懸念する。

エンザイガーが誘発する犯罪
つい先日の5月11日に、JR新橋駅で痴漢を疑われた男が、線路上に降り逃走する事件が起きている。この記事によると、
3月13日JR総武線御茶ノ水駅
3月14日JR埼京線池袋駅
3月29日赤羽駅
4月5日板橋駅
4月13日両国駅
4月17日新宿駅
で似たような事件が、東京だけでもこんな頻発している。
「痴漢を疑われたら命がけで逃げるべし!」
と、信じる男どもがしょっちゅう電車を止めているのだ。
チカンエンザイガーをビジネスにしている連中にも責任があるのではないか。
"もし疑いをかけられたらどう対処すればいいのか。痴漢冤罪事件に詳しい立教大の荒木伸怡名誉教授(73)は「やっていないならはっきり主張し、その場から動かずに弁護士を呼ぶことだ」。線路に降りる行為は避けた方が良いと言う。「業務妨害に問われる可能性があり、鉄道会社から損害賠償を請求される恐れもある」と指摘している。"
とのことなので、もし痴漢冤罪に遭遇しても、ネットの書き込みなんかに振り回されず、冷静に行動してほしい。
鉄道会社もエンザイガーに向けた啓発をすべきなのではないか。
また、ネットでは、
「AEDを使って人命救助をしようとしたら痴漢扱いされ、事情聴取を受けた」
というデマが3年に渡って流布されている。このデマのせいで、人命救助をやめておこうと言っている人がたくさんいるが、倒れている人を放置したらそれこそ犯罪になり得るし、人命より大事なものはないので、これにも絶対に騙されないでほしい。
痴漢冤罪に怯える人たちに言いたいのは、冤罪は許されないが、痴漢さえいなければ痴漢冤罪もないこと、痴漢に怒る女性にばかり理解を求めてないで、痴漢や警察や司法に怒ってくれってことだ。取り調べの可視化など、訴えることはいくらでもあるだろう。痴漢に怒る女性に「エンザイガー!」と訴えたって、わたしたちは痴漢や性犯罪に怒るのをやめないし、警察や司法の問題は解決できないのだ。
分かったか?

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阿部悠

阿部悠(あべ・ゆう)

兵庫県出身。ローティーンの頃からクラブに入り浸り過ぎて中卒。関西を拠点にクラブDJとして活躍。3.11後の原発事故にショックを受けて反原発活動をはじめ、社会運動に目覚める。最近は「女叩き」カルチャーに怒りを燃やして、ネット上に溢れるミソジニスト達と本名顔出しで日々格闘。ビヨンセを崇拝している。 

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