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Vol.9 痴漢冤罪にビビって犯罪予告する男たち

阿部悠2017.05.23

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「当たり前のことだけど、痴漢より殺人の方が社会的に死にますよ?」
5月15日青葉台駅で、痴漢容疑をかけられた男性が線路に飛び降り、やってきた電車にはねられ死亡してしまった。
5月18日川口駅では、痴漢と間違われたと思い込んだ男が線路に降り19日に逮捕されたりと、「痴漢冤罪パニック」がまだまだ広がっているので、先週から引き続き痴漢冤罪の話を。
ツイッターでは、
「痴漢冤罪にあったら社会的に死ぬ。だから女の顔をボコボコにして逃げるべき!」
「痴漢冤罪にハメた女を殺して自殺する!」
と、この目を疑う発言が大量に投稿されている。
おなじみの女叩きクソヤローの面々とは違ったタイプもかなりいて、集団で「痴漢冤罪にハメる悪女」という、架空の存在に取り憑かれている様子が実に不気味だ。
なんと実名での殺人扇動もあった。
痴漢というのは、女性の下着に手を入れない限り迷惑防止条例違反なのだが、
「俺に条例違反の疑いをかけるなど許せん!」
と、殺人予告や脅迫をしてしまうとはアホの極み。人殺しは社会的に死なないとでも言うのか。
とても残念なことだが、エンザイガーが怯えるほど、日本社会は痴漢や性犯罪に厳しくない。初犯なら数万円で釈放されるし、起訴されないことも多い。よほどのことでなければ会社にバレることなどない。こんなに性犯罪に激甘なジャパンで、社会的制裁にビビって殺人扇動しまくるとか、マジで頭ダイジョーブですか?

「それでもボクはやってない」がソース
以前、痴漢冤罪と戦い続けていることで有名な寺澤有というジャーナリストに、
「『それでもボクはやってない』を観たら、あなたでも痴漢冤罪の深刻さが分かる」
とオススメされたことがある。
主人公が痴漢容疑を否認したことによって拘留され、なかなか釈放してもらえなくなる、いわゆる「人質司法」の問題を鋭く描いた作品だ。
他のエンザイガーも「痴漢冤罪が多発している」という情報源としてこの映画をあげることが多い。「おいおい映画がソースかよ! 」と驚くなかれ。「カバチタレ」という漫画を読めとオススメしているアホもいた。
エンザイガーは「痴漢冤罪にハメる悪女」の存在をしきりに主張しているのだが、ヤツらのバイブルになっている「それでもボクはやってない」に出てくる痴漢被害を訴えている中学生は、犯人を間違えているのであって、ハメようとしたわけではない。
「痴漢冤罪=女がでっちあげる」というのが、エンザイガーの常識なのだが、当然のことながら、冤罪には単なる間違いも含まれる。人は間違うことがあるから、警察、検察、司法で時間をかけて検証するのである。
なんの犯罪であっても、逮捕されて否認したら、かなり居心地の悪そうな留置所に長期拘留されてしまうことがあるし、警察や検察や司法だけではなく、マスコミや国民を含めた日本社会全体が、容疑者段階での人権侵害に慣れきっている点については、改善しなければいけないし、この映画の基本的なメッセージには共感している。
ジャパンに「告発の行方」のような、性犯罪の残酷さ、被害を訴える大変さを描いた映画があるのかないのかは分からないが、そういった映画より先に、痴漢冤罪の映画のほうが有名になって世の中に影響を与えてしまうのが、ジャパンらしいエピソードなのかも知れない。

痴漢に怒るハードさを理解せんかい!
アホな男どもが、「痴漢冤罪にハメる悪女がたくさんいる」という都市伝説を信じ、痴漢冤罪に必要以上に怯えるポーズを取るのは、痴漢被害を訴える側のリスクをまったく理解していないからじゃないか。
痴漢に抗議して、
「テメーみたいなブスなババアに触るかよ! 鏡見ろよ! ふざけんな!」
などと暴言を吐かれることは珍しくないし、突き飛ばされたり、暴力を振るわれることもあるようだ。セクハラの指摘をしても、ルックスの揶揄が返ってくることは当たり前にある。
たくさん人がいる場所で大きな声で侮辱された時のダメージは、男性には想像が難しいのだろうか。
もしも痴漢を訴えていることが、会社や学校にバレてしまったら、
「痴漢をされるような服装をしていたんじゃないか」
などと、被害者の方がまず責められてしまうことが日常化しているし、被害者をキズモノ扱いする風潮だってまだまだ根強い。
「君に魅力があったからだよ」
「なにそれ?自慢?」
と、痴漢となると、犯罪被害として考えられないアホもかなりいる。
そういった言葉を浴びる不快感をちょっとはシェアしやがれ!と、考えたのが「キンタマ潰し」なんだが、まだまだ潰し足りてなかったようだ。
「痴漢冤罪は男性の一生を台無しにする。殴られたくなければ、ちょっと触られるくらいガマンしろ」
というようなクソ発言をしているエンザイガーは1人や2人ではない。
現状でも大半の痴漢被害者は泣き寝入りしているし、被害者の失ったものは、例えば「仕事をクビになること」なんかより、もっともっと大きいことだってあるのだ。
性犯罪の被害にあうと、後味の悪さを長く引きずる。異性との接触に心理的負担を感じるようになってしまい、恋愛が難しくなるケースもある。それって一生ものの傷でしょ。
性犯罪のほとんどが、そういった痛みの上で訴えられていることを、念頭に置いてから喋ってほしいものだ。

痴漢被害を訴えやすくするには
今の制度では、「痴漢の容疑をかけられたら逃走しろ」と弁護士が言ってしまうのも分からなくはないのだが、せめて逃走に暴力を伴わないように最大限の配慮をしてほしい。
女性を激しくふりほどいて逃げている男を目撃したことがあるのだか、電車のホームでの取っ組み合いが、かなり危険なことは誰にでも分かるだろう。「逃げるしかない」というメッセージだと、無理をする人が必ず出てしまう。
「行列のできる法律相談所」に出演していた弁護士の4人中3人が、「痴漢に間違われたら?」の質問に逃走を推奨していた。
痴漢冤罪についての知恵は、痴漢がそのまんま悪用できる。だから、情報発信には、痴漢に悪用されないような工夫をしてほしい。
痴漢冤罪への怒りで、暴力や殺人を厭わないとする発信が激増したことによって、
「この人痴漢です!」
と訴えることへのハードルはグンと上がった。
以前からめちゃくちゃ高いハードルだったのが、さらにグンとだ。
萎縮するのはよくないが、こうなってくると軽々しく被害者に「痴漢に怒れ‼︎」と、けしかけるわけにはいかなくなった。
これからは当事者以外の人、できれば男性が、いつもよりも周囲に気を配って、もし「痴漢かな?」と思ったら、積極的に関わるようにしていくしかない。
不届きものたちの扇動によって、痴漢を訴える女性に「虚偽ではないか」という目が向けられるようになってしまった。
こういう時は、不正義に怒る人がたくさんいないと、当事者はなかなか抵抗しづらいものなのだ。
痴漢に文句を言いやすい雰囲気づくりをまずやらなければ。

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阿部悠(あべ・ゆう)

兵庫県出身。ローティーンの頃からクラブに入り浸り過ぎて中卒。関西を拠点にクラブDJとして活躍。3.11後の原発事故にショックを受けて反原発活動をはじめ、社会運動に目覚める。最近は「女叩き」カルチャーに怒りを燃やして、ネット上に溢れるミソジニスト達と本名顔出しで日々格闘。ビヨンセを崇拝している。 

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