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自分には関係ないとうそぶく男たち

牧野雅子2017.12.28

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もう、ムーブメントと言ってしまっていいのだろうか、性暴力被害を告発する、ハッシュタグ#Me Too。当事者による告発が多くの人に力を与えている。

告発者に対するバッシングや、便乗した炎上狙いとしか思えない露悪的な記事も目につく一方、#Me Tooの担い手になっ(てしまっ)た女性を応援する男性たちも出て来た。無関心な人やここぞとばかりに当事者を攻撃する人までいる中、女性の声に賛同する男性が増えるのは歓迎したい。

でも、もっと声をあげろと女性をけしかけるような男性の声は必要ないのだ。被害者の声を「代弁」してくれる必要もない。代弁するふりをして、当事者の声を奪わないで欲しいと思う。絵に描いたような分かりやすい女性の味方(マモルくん!)は必要ない。男性に求められているのは、そんなことじゃない。

それにしても、セクハラといい、痴漢といい、性暴力の問題になると、自分には関係ないとうそぶく男性が多いのはどうしてなのだろう。冤罪を持ち出して、男性もまた「被害者」だと言ったりもする。いやいや、男性も被害者になり得るのだし、加害者が男性だとも限らないのだよ。
もしかして、自分はセクハラをするような「立場」にないから無関係だと思っているのだろうか。自分にはセクハラができるような権力を持っていないと、その実、自分を卑下して見せているのだろうか。

職場で被害に遭っているのに、同じ職場で働く夫の立場が悪くなることを怖れて、セクハラ告発ができないという女性たちがいる。彼女たちは、「夫に知られたくない」「夫が飛ばされる(左遷させられる)かもしれないのが何より怖い」と、職場に告げられずにいる。自分のことよりも、夫の身を心配するところが切ない。

セクハラが起こる職場、セクハラ被害の告発を困難にするような職場が問題だと言ってしまえばそれまでだ。辛い思いをして我慢するくらいなら、職場を変えるか、相談窓口に行けばいい、そう言うのも簡単だ。でもそれは、当事者でないから言えること。悪いのは加害者に決まっているのに、そして、被害者本人もそのことは十分に分かっているのに、それでも言えないのだ。

セクハラ被害に遭うのは、独身女性だけとは限らない。セクハラが権力問題であるのは周知の通りで、職場結婚をした女性になると、自分のみならず、夫と加害者との権力関係も重なって、口を封じる圧力は時として増すのだ。

加害者は、対象を選ぶという。それは、女性の容姿のような加害者の「好み」のことではなく、自分より弱い立場の人を加害対象にするという意味だ。同じことを、「女性上司にできますか」「部長のお連れ合いにもできますか」ということ。そこには、女性に対する見下しと、その配偶者に対する見下しがある。女性は自身の性被害を夫に言いづらいということを利用してもいる。そういう計算をとても自然にするのが加害者だ。

彼女たちは、自分が被害に遭ったことを責め続けている。言えずにいることで、セクハラがなかったことにされてしまい、加害者が処分されずに、新たな被害者が出てしまうかもしれないという思いにも苛まれている。夫に対する「負い目」のようなものも感じてしまって、夫に被害を打ち明けられずにいる。

たとえ仕事を辞めたからって、セクハラ被害をキレイさっぱりなかったことにできるわけがない。経験を見つめ言葉にし、人に言えるようになるまでには、時間がかかる。何年も経ってようやく言えるようになるというのは、これまでの被害告発の声からも明らかだ。

わたしと同年代のRさんとは、業種は違うのに境遇は共通するところが多くて、他人に思えない。セクハラ経験も、そう。知り合ったばかりなのに、二人して、ご飯そっちのけでテーブルを叩きながら「分かる分かる」「それ、ホント分かりますー」と言い合った。
在職中は、言えなかった。いや、実は、何度も言ったのだ。女性の同僚や先輩に打ち明けたけれど、言っても無駄だ、泣き寝入りするしかない、そう言われて落胆した。それくらいのことは誰でも経験している、軽くあしらえて一人前、とまで言われた。分かって貰えるだろうと思っていた人に口を塞がれた、という思い。そのショックから、言ったことを後悔すらした。セクシャルハラスメントという言葉が流行語になってもなお、こういう状況が続いていたのだった。今振り返れば、相談をした同僚や先輩も、同じような目に遭い傷ついていたのだと分かる。けれど、その時に、相手のことに思いを馳せる余裕はなかった。

彼女たちは、夫がいなければセクハラ被害を告発できていたかもしれない、と言う。もちろんそれは仮定の話だし、夫が同じ職場にいるからこそ被害に遭ったという面もある。言えないことを夫のせいにしたいわけでもない。

妻が自分のことを気遣って、被害を言いたいのに言えないでいることを、たぶん、夫は気付いていない。彼女たちは、夫に知られたくないと思いながら、気付いて助けて欲しいとも思っている。職場でも、家に帰っても。男性たちが、セクハラなんて自分には無関係だと思っている、その同じ空間で。

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牧野雅子

牧野雅子(まきの・まさこ)

龍谷大学犯罪学研究センター
『刑事司法とジェンダー』の著者。若い頃に警察官だったという消せない過去もある。
週に1度は粉もんデー、醤油は薄口、うどんをおかずにご飯食べるって普通やん、という食に関していえば絵に描いたような関西人。でも、エスカレーターは左に立ちます。 

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