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LPC官能小説第18回「ムスクに似た彼の香りが喉の奥に流れこんできて…」

鍬津ころ2017.10.24

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 日が沈んでからの肌寒さは、すっかり晩秋って感じ。
 だけど、帰宅ラッシュどきの地下鉄駅構内には、ムッと熱気がこもっていた。

 まだ電車に乗ってもいないのに、周囲は苛立ったサラリーマンの壁で、押しつぶされそう。
 「いったん、改札をお出になり、駅構内で……」
 「うるせえ! 外は雨だぞ! 出ていけるか!」
 「出ていきたくても、動けないんだよ!」
 駅員と客のどなり声が、あちこちで挙がってる。
 車両点検だの事故だのが重なって、乗車率百パーセントを越えるこの時間帯に、複数路線の電車がほぼ全滅状態になってから、もう四〇分近く経っていた。
 私だって、いい加減ウンザリ。駅員の言う通り駅を出たいけど、人ごみに揉まれるまま、自分がどっちに向かって動いてるかもわからない。

 「あ、痛っ!」
 肩を押され、後ろを探りながら一歩下がったとき、ウエストあたりに何かが当たる。
 首をひねって見ると、銀色のドアノブが、ガッツリとヒットしていた。いつの間にか壁際まで押されてたみたい。
 同じ銀色のドアの、ノブの上には二列に並ぶボタンキー。駅員さんが出入りするドアみたい。
 毎日使ってる駅だけど、こんな所にドアなんて、あったかしら?
 ウエストをさすりながら、なんとか身体の向きを変えようとする。と、
 「誰だ!? 押すなよ!」
 バッグが当たったらしい誰かの大声と同時に、ドンと押された。
 ヤバい! ここで転んだら、大勢に踏まれてニュース沙汰になりかねない!
 覚悟を決めてギュッと目を閉じる私。

 次の瞬間、私は覚悟していた床じゃない、熱い弾力と激突していた。
 目を開くと、薄いブルーのシャリッとした布地と、右胸のポケットに縫いつけられたエンブレムが見える。
 やっぱり、毎日の通勤に使ってる地下鉄の駅員さんーーー
 「じゃ、ないっ!?」
 貧相なおじさんやオタクっぽい若手が目立つその駅で、彼の姿はあまりに異質。
 肩幅は私の倍、身体の厚みはもっとありそう。シャツを通しても感じる熱い生命力には、ムスクみたいにセクシーな香りが潜んでいる。
 思わず、深く息を吸い込んでしまった。だって、
 「大丈夫?」
 心配そうに言いながら、私の背中に腕を回すのは、日本を代表するアスリート・四条丸駆クンなんだもの!

 こんなときに、一日駅長でもやってるのかしら。
 そう思うくらい、彼の制服姿はジャストサイズで似合ってる。
 「潰されちゃうところだったね」
 「……あ、ありがとう、ございました……」
 ため息まじりになってしまうのは、助けられて安心したからじゃなくて、鍛え上げられた肉体を包む灼けた肌が、シャツの色に映えて、打撲の痛みも忘れるほどセクシーだったから。
 私はごく自然に、彼の胸に頬を当ててもたれかかった。
 彼も、当たりまえみたいに私の肩を抱く。
 そして二人は、より添って階段を上り始める。そこはどうやら階段室らしく、左から右へ登っていく階段以外、何もなかった。

 カシャンと音を立てて、私達は二畳ほどの小部屋に足を踏み入れる。
 床は側溝カバーみたいな鉄格子。
 その隙間から蒸れた人いきれが昇ってくる。よく見ると、下でうごめいているのは大勢の人の頭。
 「ここって……」
 「そう、改札内の上。声を出したら、気づかれちゃうかも……」
 そう囁いたと思うと、彼、私の顎をクイッと上げて、いきなりキスしてきた。
 「ん……ッ」
 歯の裏や上顎の丸みをくすぐられると、おねだりするような喉声が出ちゃう。
 ムスクに似た彼の香りが喉の奥に流れこんできて、頭の奥がトロトロ蕩けそう。
 キスと同時に、もう片方の手が私の腰に回った。
 「ぁ、ソコ……さっきドアにぶつけて、痛いの……」
 「そうだったんだ、ゴメンね」
 白手袋に包まれた太い指先に優しく撫でらて、痛みの名残はあっという間に快感に変わっていった。

 「ぁあ、あん、イィぃ……」
 私、彼の肩に両腕をつき、顎を上げて喘ぎ続ける。
 彼は格子の上にしゃがみこみ、私のスカートの中に頭をつっこんでいる。
 さっき口内を甘く犯した舌が、今は私のナカを嬲っていた。
 お腹の奥までムスクの香りに満たされるような、たまらない快感。
 手袋のままの指が、舌と一緒にアソコを蹂躙する。素肌とは違う、少しザラついた感触も、たまらない。
 「んヒィイッ!」
 高い声が出ちゃう。ジュッと音を立てて、クリちゃんを吸い上げられたの。
 「そん、な、シたらぁ……」
 「うん、お汁がイッパイ、あふれてきたよ」
 スカートの奥から、くぐもった声にからかわれて。
 「やんっ、あふ、あふれちゃう……っ!」
 もう、声を押さえるなんて無理。
 とめどなくあふれる快楽の滴が下に落ちて、誰かに気づかれてもかまわない。
 私は片手を下ろし、スカートの股間を持ち上げる彼の頭に乗せて、いっそう奥へ押し付けながら、
 「……吸って、もっとぉ、ジュッてして、イかせてぇーーー!」
 絶頂の叫びを放った、そのとき。
 ゴオオオオッ!
 轟音と同時に、床の格子から勢いよく熱風が吹き出して、私のスカートをマリリン・モンローの映画みたいにまくりあげた。

 と、思った。
 思ったんだけど、音と熱風はドアが開く前と変わらない人垣の向こうから響いてる。
 エクスタシーの余韻でクラクラする頭に、駅のアナウンスが遠く聞こえた。
 「……運転を再開いたしましたが、しばらく徐行運転となり、次の電車は……」
 周囲に、ホッとしたようなため息と、小さな舌打ちが沸き起こる。
 私はまだ蕩けっぱなしのアソコを持て余しながら、ドアの痕跡もない壁を向いて、苛立った群衆の中に埋没していた。
 だけど、ウエストには確かにノブにぶつけたはずの痛みが、まだちょっとだけ残っている。
 彼にソコを撫でられたときの、甘い疼きも。

 この感じが消えてしまう前に、改札を出てトイレに行こうかな。
 そう考えながら、私はぼんやり蒸し暑い地下空間に、ぼんやりと佇んでいた。

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鍬津ころ

鍬津ころ(くわつ・ころ)

札幌出身、東京在住。山羊座のO型。アダルト系出版社、編集プロダクション勤務後、フリーの編集者&ライター。2011年『イケない女将修行~板前彼氏の指技vs官能小説家の温泉蜜筆』でネット配信小説デビュー。近著『ラブ・ループ』(徳間文庫)。馬、鹿、ジビエ大好き飲んだくれ系アラフォー女子。タバコの値上がりには500円までつきあう覚悟。 

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