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劇団態変「ニライカナイー命の分水嶺」~あなたと見る風景~

李信恵2018.10.19

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数年前にとある集会があり、そこで聞いたアピールが忘れられない。車椅子に乗った重度の障碍者の男性が、嗚咽をこらえながら話されていた。東日本大震災があった時、自分の友人たちも亡くなったと話されていた。亡くなった友人たちは、ベッドに寝たきりだったという。

「地震があったことに彼は気が付いていたのだろうか。介護者も自身が被災者になっていたから、急いで駆けつけることも出来なかった。一人ぼっちで、何が起こったのかも、何故誰も来ないのかを分からないまま、ずっと天井だけを見詰めていたのだろう。そして亡くなって行った仲間がいた」

という話だった。

2016年7月26日に相模原市の障碍者施設で46名もの無抵抗の人たちが殺傷される事件が起きたが、被害に会われた方々が最後に観た風景はいったい何だったんだろうと思う。劇団態変という、障碍者によるパフォーマンス集団を主宰する金満里オンニ(朝鮮語でお姉さん)は、事件の発生直後から亡くなった19人の氏名が公開されないままとなっていることについてよく語っていた。金満里オンニは、3歳でポリオを発症。後遺症で首から下が動かせない重度の障碍者となった。7歳で肢体不自由児の施設に入所し、そこで10年間を過ごしたという。

相模原事件では、19歳から70歳の人が殺された。その人たちにもかけがえのない人生があったはずだ。けれど、氏名は公表されず、その人たちの人生さえ私たちは何も知らないままだ。氏名を公表しないとした遺族の意向は、それだけ日本社会に根強い優生思想と障碍者差別があることを静かに語っている。けれど、亡くなられた19人がいなかったことにされてはいけないと思う。

2017年に大阪で上演された、劇団態変の第64回公演『ニライカナイ-命の分水嶺』の冒頭は、施設の一室から始まる。最初に、V字型の影が揺らめく。その影が何かわからなかった。枝なのか、動物のツノなのか。糸車が回っているのか、それか施設の部屋から見える窓越しの風景なのか。電車の光なのか。舞台後にそれが、寝たきりの人の足を固定する装具だと知った。人の足が、肉体が。ただの「モノ」のように扱われていたことを示唆する場面だった。

辛淑玉オンニの講演会で、ある映像を見た。アウシュビッツで抹殺された、身体障碍者がつけていた装具がうずたかく積まれていた。ナチスドイツは、占領したヨーロッパ中のユダヤ人だけではなく、共産主義者や反ナチス活動家、宗教家、LGBT、障碍者を虐殺した。

私はヘイトスピーチに反対する活動を行っている。差別者が発し、時の権力が容認したヘイトスピーチはまずマイノリティの心を殺す。そして必ずヘイトクライムへ、虐殺へと繋がることを、歴史を通じて、民族の記憶としてマイノリティである自分は知っているからだ。例えば関東大震災での朝鮮人の虐殺、ホロコースト、アフリカ・ルワンダでの虐殺。どれもヘイトスピーチから始まった。そして、差別があるということを大声で叫び続けなければ、差別がなかったことにされて、現状は変わらない。

この社会の根底に流れるあらゆる差別を、どのようにしてなくして行けばいいのだろう。マイノリティや障碍者が当たり前に自分の近くにいて、そして共に生きていく社会を作るために。障碍者問題にもしっかりと関わって行けたらと思う。そのためにも、相模原事件は決して忘れずにいたい。

相模原事件から2年を前にした今年の夏には、国会議員の杉田水脈氏による「生産性」発言が問題となった。この発言は優生思想にもつながるものだ。LGBTの人たちに限らず、障碍者に対しても、この発言は攻撃であり、ヘイトスピーチだと私は考えている。数カ月が過ぎようとしているが、彼女からの謝罪の言葉はいまだに発せられていない。

そんな最中、来月11月2日から、この舞台『ニライカナイ-命の分水嶺』が東京で再演されるという。私は劇団態変の舞台を見るたびに、すごくショックを受ける。先入観というか、障碍者と向き合ってこなかった自分の固定観念みたいなものがひっくり返される。舞台にいるのは障碍者であるが、まぎれもない役者だ。役者たちは、舞台の上で地を這う。金満里オンニは、「地は、一番死に近いところかもしれないね」と話していた。

関東の方は、この機会を逃さず、ぜひ劇団態変の舞台を観てほしいと思う。劇団態変の舞台を観ることは、心の視点を変えること、地から世界を見ることだと思う。そして私は、これからもとなりにいるあなたと一緒にしぶとく生き抜いて、この社会の美しい風景を見たいと願っている。

劇団態変東京公演 『ニライカナイ-命の分水嶺』
2018年11月2日~4日
会場/座・高円寺1 東京都杉並区高円寺北2-1-2 TEL:03-3223-7500
JR「高円寺駅」北口から徒歩5分

チケット(前売り・当日共に同価格、全席自由) 一般4000円  障碍者3600円  学生・シルバー3000円

詳細は
http://taihen.o.oo7.jp/upcoming.html

問合せ/劇団態変officeイマージュ TEL:06-6320-0344
taihen.japan@gmail.com

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李信恵

李信恵(り・しね)

1971年生まれ。大阪府東大阪市出身の在日2.5世。フリーライター。
「2014年やよりジャーナリスト賞」受賞。
2015年1月、影書房から初の著作「#鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル」発刊。 

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